Vol.07

「NEXT HR」キーパーソン特別インタビュー

日本版「ティール組織」とは〜自主経営を通じて、強い組織になる〜

株式会社日本レーザー 代表取締役会長 近藤宣之氏
インタビューアー:ProFuture代表/HR総研所長 寺澤康介

評価を見える化し、個々のモチベーションを高める

寺澤これまでの輝かしい業績から、社員の方々の高いモチベーションが想像できますが、モチベーションを高め、維持するためには何が大切だとお考えですか?

近藤周りから必要とされる喜びや、周りの役に立つ喜び、周りから感謝される喜びは、多くの場合、仕事を通じて得られます。つまり会社の役割は、働くことで得られる喜びを社員に提供することであり、この喜びが働くモチベーションになるわけです。よって弊社では、社員一人ひとりが仕事を通じて喜びを得られるように、チャンスをどんどん与え、主体的に活躍できる機会を増やしています。また、社員のモチベーションを高く維持するために、年功序列、学歴別、年次別の人事制度も廃止しました。弊社では社員本人や上司、役員が決める総合評価に基づいて、賃金や昇格を決めています。

寺澤御社では社員のモチベーションアップが業績向上に繋がっているということですが、なぜそのような結果になるのか、両者を結びつけるポイントについてお聞かせください。

近藤業績向上に繋がる要素として、まず挙げられるのが、「能力」と「意欲」と「成長」です。能力があっても意欲がなければ貢献できませんし、意欲があっても成長しなければ意味がありません。つまりこれら3つの要素は、三位一体となって初めて機能します。そしてここで鍵となるのが、先ほど触れた総合評価です。弊社は2008年に総合評価制度を導入しました。これは2007年に日本電子からMEBOで独立した際、今後の決意としてまとめたクレドに基づく基本的価値観(笑顔、感謝、成長、利他、受け入れ)がどれくらい実践されているかを評価するもので、正社員と嘱託社員を対象に年に2回実施。ボーナスや昇給、昇格の評価に活用しています。また評価結果は面談を通じて本人に納得させ、毎月の詳細な月次決算や、営業実績もグループ別・個人別まで開示。あらゆる情報を見える化をして、透明性と納得性を担保することで、社員自身の「もっと成長しよう」、「もっと努力しよう」という意欲に火をつけています。こうして能力・意欲の向上と成長を繰り返し、循環していく仕組みが業績向上に繋がっているというわけです。
さらにもう一つポイントとなるのは、社員のチャレンジをトップ自ら積極的に支援すること。社員は成長してくると、自分でどんどん仕事を見つけてきて、挑戦するようになります。それに対して、財政面も含めてとことん支援する。当然失敗のリスクもあるでしょう。しかし、失敗を恐れずに挑戦することこそが、日本レーザーの基本姿勢なのです。たとえ失敗して損失を出したとしても、500万円までなら許容範囲内だと考えています。もちろん本人を責めることもしません。むしろ次の肥やしになると言って、更なる挑戦を促します。こうして挑戦や失敗を繰り返しながら、社員たちはどんどん成長していっています。
トップは社員に「任せる勇気」を持つと同時に「任せた責任」もあります。

人事マネジメントの基本は個と向き合うこと

寺澤グーグルの働き方の仕組みが書かれた『WORK RULES!』という本の中に、生産性の高い組織は心理的安全性が高いという記述がありますが、それはまさに言いたいことが自由に言える組織だと思います。また近年、海外のIT系をはじめとする先進企業では、人材の取り合いが過熱する中、お金よりもエンプロイー・エクスペリエンス、つまり従業員にどういう体験をさせてあげられるかを重視する傾向が強まってきています。そういう意味では、社員一人ひとりと向き合い、やりたいことを自由にやらせる御社のスタンスも、エンプロイー・エクスペリエンスを重視していると言えるのではないでしょうか。

近藤まったくその通りです。現在弊社には、正社員だけでなく、パートや嘱託など、さまざまな雇用形態で働いている人がいますが、その人たちの数だけ雇用契約や育成プログラムを用意しています。これは、人によってキャリアパスを変えるということ。つまり人事マネジメントの基本は、個と向き合うということなのです。人によって価値観も生活環境も目標も異なります。本人の状況に合わせて契約や制度をカスタマイズすることが重要でしょう。また、一人ひとりのニーズに合ったプランを提供するだけではなく、個々人の強いところを伸ばすようにエンカレッジしながら育成していくことも大切です。ただし、その際に気をつけなければいけないのは、会社の都合を一方的に押し付けること。日本の大企業はほとんどがそうですよね。「お前のためになるから転勤しろ」、「お前のためを思って海外に行かせるんだ」と、良かれと思ってやるわけです。しかしそれは本人にとって必ずしも良いことではありません。まずはお互いにすり合わせをして、本人が何をしたいのかを会社としてしっかり把握することが大切だと思います。

寺澤ご著書の中でも、「顧客満足の前に社員満足が大事である」とおっしゃられていますが、社員を大切にする会社とはまさにそういうことなのでしょうね。

近藤社員自身が「会社から大切にされている」と実感しているかどうかが肝心なのです。顧客満足は社員満足があってこそ実現されるもの。社員満足なしに顧客満足を追求すると、やらされ感や犠牲感だけが残ってしまいます。また、社員満足を第一に考えるということは、社員の都合に合わせた多様な働き方を認めるということでもあります。会社が社員を大切にして、社員の都合に合わせた多様な働き方を認めてあげれば、社員は会社のために精一杯働いてくれるでしょう。弊社はこれまで数多くの危機に直面してきましたが、その都度、社員の火事場の馬鹿力に救われてきました。この馬鹿力を支えるのは、雇用を守り、仲間がいて、自分が大切にされているという実感がある職場だからこそなのです。

株式会社日本レーザー 代表取締役会長
近藤 宣之氏

1944年生まれ。慶應義塾大学工学部電気工学科卒業後、日本電子株式会社入社。1989年、同社取締役米国支配人就任。1994年、子会社の株式会社日本レ一ザー代表取締役社長に就任。2018年、同社 代表取締役会長(CEO)に就任。人を大切にしながら利益を上げる改革で、就任1年目から黒字化させ、現在まで25年連続黒字、10年以上離職率ほぼゼロに導く。2007 年、ファンドを入れずに役員・正社員・嘱託職員が株主となる日本初の「MEBO」で親会社から完全独立。2011年、第1回「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞の「中小企業庁長官賞」 など、経済産業省、厚生労働省などから受賞多数。著書に「倒産寸前から25の修羅場を乗り切った社長の全ノウハウ」(ダイヤモンド社刊2019年)、「未踏の時代のリーダー論」(日本経済新聞出版社 共著2019年)等多数。