Vol.07
「NEXT HR」キーパーソン特別インタビュー
日本版「ティール組織」とは〜自主経営を通じて、強い組織になる〜
インタビューアー:ProFuture代表/HR総研所長 寺澤康介
圧倒的な当事者意識を持たせる
寺澤御社では自己組織化を実現するために、社員全員に圧倒的な当事者意識を持たせているそうですね。
近藤自分の仕事に圧倒的な当事者意識を持つと、上司の指示などなくとも、自分で考え、工夫し、率先して行動し、仕事を遂行していくようになります。上司に言われたからやるのではなく、お客様に指摘されたからやるのでもなく、常に自ら問題意識を持って、何が最善かを考え、行動するということ。これはある意味、個人事業主や個人商店の店主にも通じるものがあります。当たり前ですが、弊社の社員は個人事業主ではありません。日本レーザーの社員であり、仲間です。しかし、“個人事業主的”である。ここがポイントなのです。個人事業主のような自立した個人が集まり、自分の仕事に誇りと責任を持って向き合っている。それが「圧倒的な当事者意識」にも繋がっていると思います。
現在弊社が取り扱っている製品は、世界14カ国、およそ100社から仕入れており、その数は何百万種類にものぼりますが、それをトップがすべてコントルールできるわけがありません。私はもちろん、営業部長だってわかりませんよ。それをわかっているのは唯一、現場で働く当事者たちです。だからこそ社員一人ひとりに当事者意識を持たせ、好きなようにやらせています。
寺澤2015年のラグビーワールドカップの日本対南アフリカ戦で、3点リードされていた日本は終了間際にエディー・ジョーンズHCがペナルティーゴール(3点)で引き分け狙いを指示しましたが、選手たちはそれを無視。スクラムを選択し逆転トライ(5点)を狙い、最終的に大逆転勝利を収めました。現場で起こっていることに関しては、選手自身が考え、決断する。近藤さんのお話を伺って、同じことだと思いました。
近藤おっしゃる通り、まさにトップの言うことは聞くなという、いい例ですね。しかし、だからこそ現場を任されている人間には、状況判断力や論理的思考力も欠かせません。私たちは単に仕事を任せるだけでなく、そういったさまざまなスキルを身につけられるよう、人材育成にも力を入れています。
生涯雇用こそ社員を大切にするということ
寺澤御社では何よりも雇用を、そして社員を大切にされておられますが、会社と社員の関係性についてそもそもどのような信念をお持ちなのでしょうか?また「社員を大切にする」とは、どのようなことを指すのでしょうか?
近藤よく「会社は誰のものか?」と聞かれるのですが、会社は株主のものであると同時に、社員のものでもあります。現在弊社には、パート社員と派遣社員を除くと、嘱託雇用を含めて55名の社員が在籍しており、そのすべてが株主です。総勢では67名になり、2019年中に70名になります。会社にとって顧客満足は確かに大事なことですが、自らが所属する会社に満足することなく、また自らが提供する商品やサービスに満足できずに、どうしてお客様に満足していただけるでしょうか。私はこれまで社長として、現在は会長として、何よりも社員が満足できる企業を目指してきました。それが結果的に、お客様のご満足に繋がると信じているからです。
では、「社員を大切にする」とはどういうことなのか。それは給料を上げたり、福利厚生を良くしたり、労働時間を短縮したりすることではありません。「社員を大切にする」とは、ひと言で言うなら、健康で働ける間は働ける『生涯雇用』なのです。会社の都合で解雇はしない、リストラもしない、癌になっても地位と年収を保証する、これこそが社員を大切にすることだと思います。何歳になっても雇用があるというのは、何よりも大きな安心感に繋がるはずです。
寺澤それはこれまでの日本的な終身雇用とはどのように違うのでしょうか?
近藤日本的な年功序列の終身雇用では、能力や貢献度に関係なく、年齢に応じて給与が右肩上がりで上がっていくので、無理が生じてしまいます。弊社は、生涯雇用をベースにしつつも、その上に各自の能力や事情に則した施策を展開しているために定昇はありません。その実力主義が従来の日本的なやり方と大きく異なる点でしょう。例えば、現在弊社には70歳までフルタイムで働き、その後もパートタイマーとして働いている人間が2名おりますが、仮に彼らを80歳まで雇用し続けるとして、それでも人件費倒産しない唯一の方法は、格差をつけることです。雇用を保証する代わりに、内容や成果で賃金に合理的な格差があれば、無理は生じません。弊社では、同じ学歴・年次・年齢でも1.5〜2倍近く年収の差がつくことがあります。
株式会社日本レーザー
代表取締役会長
近藤 宣之氏
1944年生まれ。慶應義塾大学工学部電気工学科卒業後、日本電子株式会社入社。1989年、同社取締役米国支配人就任。1994年、子会社の株式会社日本レ一ザー代表取締役社長に就任。2018年、同社 代表取締役会長(CEO)に就任。人を大切にしながら利益を上げる改革で、就任1年目から黒字化させ、現在まで25年連続黒字、10年以上離職率ほぼゼロに導く。2007 年、ファンドを入れずに役員・正社員・嘱託職員が株主となる日本初の「MEBO」で親会社から完全独立。2011年、第1回「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞の「中小企業庁長官賞」 など、経済産業省、厚生労働省などから受賞多数。著書に「倒産寸前から25の修羅場を乗り切った社長の全ノウハウ」(ダイヤモンド社刊2019年)、「未踏の時代のリーダー論」(日本経済新聞出版社 共著2019年)等多数。