Vol.03

NEXT HR キーパーソン特別インタビュー

人事部門こそが第4次産業革命の成功の鍵を握る(後編)

経済産業省 産業人材政策室長 伊藤 禎則 参事官
インタビューアー:ProFuture代表/HR総研所長 寺澤康介

働き手は複数の会社や組織で仕事をする時代へ。人材育成における3つの取り組みとは

寺澤一人ひとりが生産性を高めるためには、働く人はどのように行動を変えていかなければならないのでしょうか?また、そのためにはどのような支援を行っていかなければならないのでしょうか?

伊藤 日本企業で働く人々は、諸外国に比べても「人生100年時代」を意識している傾向が強いです。私の身の回りでも、75歳、80歳くらいまで健康で仕事に取り組んでいる方々が増えてきています。22歳で入社して、半世紀以上ひとつの会社に勤められる時代ではありません。人間の寿命より会社の寿命の方が明らかに短いケースが多くなってくるわけです。これからは複数の会社や組織で仕事をするというのが「ニューノーマル」になってくると思います。人生のステージごとに別の会社に移っていくこともあれば、同時に複数の会社、仕事に就くという形もありえるでしょう。
これまでは、小学生から大学生までが「学ぶ」、会社勤め以降は「働く」というように、「学ぶ」ことと「働く」ことがステージによって分かれていました。しかし、これからは同時に複数の会社、組織で働くということが常態化してくる中で、かつ長期間に渡ってリタイヤまで時間があると考えるならば、「学ぶ」ことと「働く」ことが混然一体となり、入り混じったステージが生まれることになります。それに合わせて、日本の教育システムや雇用労働システム、社会保障システムを相当程度手直ししなければいけない時期に差し掛かっています。いわば「一億総学び社会」です。そこで人材育成の観点から3つのことを行っています。

一つ目は、色々な働き方や学びを通じてスキルを高めていくという観点から、副業解禁、フリーランスという働き方ができる社会を目指しています。そうすることによって、働き手一人ひとりが色々な経験を積むことで学ぶことができます。ただし、現実には企業に雇用されていることで労働法制や社会保障システムが作られているので、現状色々なところでミスマッチが起きています。多様で柔軟な働き方ができる社会になるために、どういう手段を講じなければならないのか、具体的な施策として実現に向けて関係省庁に働き掛けています。

二つ目は、個人がITやデータのスキルを習得できるための職業訓練(Off-JT)の構築に着手しています。今までのようなOJTでは賄えない人材育成をどうしていくか。特にITやデータを扱うスキルが急速に変化しており、社内では対応できなくなっています。よって産業界のニーズに沿った形で、ミドル層がスキルを習得できる新たな職業訓練の在り方を厚生労働省と一緒に模索しています。

三つ目は、「大学」の役割です。「学ぶ」と「働く」が混然一体となって学び続けるために非常に大切です。人生100年時代においては、その都度リセットしていけるような、F1で「ピットイン」があるように、高校を卒業した生徒を受け入れるだけの大学ではなく、長い人生のプロセスの中で、社会人教育の担い手としての役割が益々求められてきます。日本の成長を支え、産業界の期待に応えていくための在り方について、文部科学省も交えて政策を検討しているところです。

経済産業省 産業人材政策室長 参事官
伊藤 禎則 氏

1994年東京大学法学部卒、通産省入省。コロンビア大学ロースクール修士、米国NY州弁護士登録。日米通商摩擦交渉、エネルギー政策、筑波大学客員教授、大臣秘書官等を経て、2015年より現職。経産省の人材政策の責任者。政府「働き方改革実行計画」の策定に関わる。経営リーダー人材育成指針、ITスキル認定制度の創設等も手がける。