日本で10年働けば、母国で“日本の年金”が受け取れる
日本企業が外国籍者を雇用する場合には、日本国籍者を雇用する場合とは異なる年金制度上の注意ポイントが存在する。外国籍者を“採用”する際の年金上の注意ポイントについては、平成29年11月27日付HRプロニュース『外国人採用と年金の手続き』で解説したところだが、外国籍者の“退職”に際しても、企業側が気をつけたい年金上の注意ポイントがある。雇用していた外国籍者が退職する場合には、日本で掛けた厚生年金のメリットがどのように享受できるかを、ぜひ確認してほしい。たとえば、日本の年金制度に10年以上加入しているのであれば、母国に帰ってから日本の老齢年金をもらえることをキチンと説明したいものである。
平成29年7月までは、日本の老齢年金は25年以上加入しないと全くもらえなかったが、同年8月からは10年の加入で受け取れるように制度が大幅に変更されている。そのため、従来であれば日本の年金を受け取れるほどの長い期間、日本で働く外国籍者はかなりの少数に限られていただろう。しかし、10年の加入で老齢年金がもらえる現在の制度では、対象となる外国人労働者は少なくない。
たとえば、現在、日本の外国人労働者の約3割を占めるといわれる中国国籍者を雇用した日本企業のケースを考えてみよう。退職して母国の中国へ帰るまでその企業で12年間、厚生年金に加入して勤務をした中国国籍者がいたとする。この場合、日本の年金制度に加入した期間が10年以上あるため、老後は日本の老齢年金を、中国にいながら生涯受け取ることが可能になる。そのため、年金をもらえる年齢になったら忘れずに手続きをするよう、退職時にキチンと伝えてから母国に帰すことが大切である。
また、雇用した外国籍者が「年金の加入期間を通算する社会保障協定」を日本と締結している国の出身者の場合には、日本の年金制度の加入期間が短くても、母国と日本の両国の年金加入期間を足して10年以上あれば、日本の年金をもらうことが可能になる。現在、日本と「社会保障協定」を締結のうえ発効している国は17ヵ国あるが、そのうち14ヵ国は「年金加入期間を通算する協定」を結んでいる(平成29年8月現在)。
たとえば、日本企業がアメリカ国籍者を5年間、雇用したとする。この場合、このアメリカ国籍者は日本の厚生年金の加入期間だけでは日本の年金をもらうための10年という基準年数を満たしていない。しかしながら、日本はアメリカと「年金の加入期間を通算する社会保障協定」を締結しているため、日米両国での年金加入期間が合わせて10年以上あるのであれば、5年間という厚生年金の加入実績に応じた日本の老齢年金をアメリカに帰ってから受け取ることが可能になる。
短期加入の外国籍者には「一時金」が支給される
さらに、上記のいずれでもない場合であっても、日本の年金制度に6ヵ月以上加入した外国籍者であれば、帰国後、日本の年金制度から「脱退一時金」というお金を受け取ることができる。「脱退一時金」とは日本の年金制度に加入したものの、年金受給に結び付くほどの加入実績がない外国籍者に対し、掛けた保険料の一部を払い戻すような制度である。たとえば、中国国籍者が3年間、日本企業で厚生年金に加入して勤務し、その後、中国に帰ったとする。厚生年金の加入は3年間なので、これだけでは日本の年金制度から老齢年金を受け取ることはできない。また、中国は日本と「社会保障協定」を結んでいないので、母国の年金制度の加入期間と合わせて日本の老齢年金の受給を判断されることもない。しかしながら、6ヵ月以上厚生年金への加入実績があるので、「脱退一時金」の受け取りは可能なのである。
この「脱退一時金」は日本に住所を有しなくなった日から2年以内に手続きをしないと受け取りができない。また、万一、老齢年金をもらえる条件を満たしているにもかかわらず「脱退一時金」の受け取り手続きをすると、老齢年金を受け取る権利は消滅してしまう。その結果、日本で掛けた厚生年金のメリットを十分に享受できなくなるので注意が必要である。
わが国の年金制度は「外国籍者である」という理由で加入を制限していない。また、外国籍者が加入中に掛けた保険料は、半年未満の加入のケースを除き、原則として年金または一時金としてメリットを享受できる仕組みになっている。外国籍者特有の年金制度上の取り扱いも存在するので、よく確認のうえ、外国籍者本人の理解を十分に得ることが大切である。
コンサルティングハウス プライオ
代表 大須賀信敬
(中小企業診断士・特定社会保険労務士)