経営×人事×タレントマネジメント

タレントマネジメントに取り組まれている企業を訪問し、その導入事例をシリーズでご紹介するとともに、
タレントマネジメントを切り口として、人事と経営の関係性や今後求められる人事のあり方を考察していきます。

Vol.6 サントリーならではの「らしさ」と強みを失うことなく、世界の「GLOBAL ONE SUNTORY」を実現する人と組織をつくっていく

サントリーホールディングス株式会社 グローバル人事部 部長 田中 憲一氏(左)/課長 森原 征司氏(右)
聞き手:中央大学 大学院 戦略経営研究科(ビジネススクール) 客員教授 楠田 祐氏

2014年に米蒸留酒大手のビーム社を1.6兆円で買収するなど、積極的な海外戦略を展開し、総合酒類食品企業としてグローバル市場での事業拡大を図るサントリーグループ。
大型買収を契機にグローバルHRへの取り組みを本格始動
サントリーさんは、近年、グローバル化を加速されていますが、今、世界で従業員数はどのくらいですか。
2016 年4月1日現在で、欧州、アジア・オセアニア、日本、米州の各地域にグループ会社が337社あり、従業員数は約4万2000名です。従業員数では、国内と海外の比率がだいたい4対6というところです。
もう海外で働いている人の方が多いんですね。売上高比率はどうなっていますか。
こちらは逆で、国内と海外の比率が6対4程度です。
そういう状況になると、あるべきタレントマネジメントの姿も変わってきますね。グローバル人事部という組織にされたのはいつからですか。
以前は人事部内にグローバル人事の部署を置いていましたが、当社が2009年にフランスの清涼飲料メーカー、オランジーナ・シュウェップスグループの大型買収を行ったことを受けて、2010年にグローバル人事部を発足させました。グローバルなHR、タレントマネジメントに本格的に取り組み始めたのはその時からです。
これまでの取り組み状況を教えてください。
グローバル人事では、当社の創業の精神である「やってみなはれ」をグループグローバルに伝承することで、真の「GLOBAL ONE SUNTORY」としての求心力、一体感を高めて競争力の源泉とすること、また、グローバルな事業拡大に対応すべく人材マネジメントガバナンスの変革を推進することを大きな方針としています。この方針の下、グループ全体、日本国内という2つのカテゴリーでタレントマネジメントを展開していますが、前者においては、従業員数が4万人を超えた中で、いかにグループ内の人材を発掘、活用するか、そして、グループシナジー創出の基盤をいかにつくるか、エンゲージメントの強化をいかに図るかということを重点課題として取り組んでいます。
具体的には、いわゆるキータレント、グローバルにサントリーグループの経営を担う人材を把握する仕組みとして、今年からグループタレントレビューをスタートさせました。数十のグローバルな重要ポジションの現任者と後継者候補が対象で、主要会社の社長が集まり、対象のポストと一人ひとりの状況を共有するとともに、今後の育成計画やクロスボーダーのアサインメントについても議論しています。また、このグループタレントレビューにつながっていくハイポテンシャル人材の選抜型研修として、選抜リーダーシップ研修というものをグローバルで実施しています。これには部長層と課長層の2つのプログラムがあります。
どのようなプログラムですか?
去年実施した課長層のプログラムは、海外から15名、日本人6名の合計21名が参加しました。4〜5名でチームを組み、半年間ほどかけてひとつのテーマに取り組むアクションラーニングが中心で、全員が集まるのは3回。最後は社長へのプレゼンを行います。
ハイポテンシャル人材の育成、把握というほかに、メンバー同士のネットワークがグローバルにできて、その後のビジネスにつながることにも期待しています。実際、研修で取り組むテーマは具体的な仕事のプロジェクトです。参加者が毎年蓄積され、グループ内で人が有機的につながって何かを生み出していく契機になれば、という狙いです。
確かに、それは人事が仕掛けていく大きな役割のひとつですね。
それぞれのビジネスを支援するHRの共通インフラをどうつくるか
グローバルHRの仕組みや考え方を教えてください。
仕組みとしては、グローバルHRの戦略的な議論と意思決定の場としてステアリングコミッティというものがあります。本社の人事担当CHROや執行役員、主要事業部門の人事のヘッドがメンバーで、グローバル人事部門がサポートに入っています。ただ、今はまだ、グループシナジーを生み出すためのグローバルなインフラづくりの段階です。過去数年のいろいろな共同プロジェクトで、リーダーシップコンピテンシーはすでにグループで共通化し、徹底させているところですが、グループ内での異動を加速させるための共通のグレーディングシステムやモビリティポリシーなどについてはこれからです。
また、我々の特徴として、ビームやオランジーナ・シュウェップスグループといった規模が大きく歴史がある欧米の成熟した企業を買収してきており、グローバルな人材マネジメントのノウハウなど、すでにそれぞれが独自のものを持っています。ですから我々からワンスタイルを押しつけるのではなく、それぞれのビジネスを支援する形でいかにインフラをつくるかという考え方で進めています。
グループ会社の独自性を尊重するガバナンススタイルであると。ただ、サントリーさんでは「やってみなはれ」を始めとして、創業の精神を非常に大切にされていますね。歴史ある企業を買収されて、そういう理念、価値といったものが簡単に受け入れられたのでしょうか。
「やってみなはれ」に基づくチャレンジ精神のほかにも、事業で得た利益の一部を社会に還元する「利益三分主義」など、「GLOBAL ONE SUNTORY」の原動力として創業の精神を今後も継承していきたいという思いを我々は強く持っています。その創業の精神を海外のグループ会社の社員に伝えていく場を数多くつくってきた中で、次第に受け入れられてきたと思います。
例えば、企業理念・創業の精神を共有していくことを大きな使命の一つとして、グループのすべての人の学びの場となる「サントリー大学」を2015年4月に開校しましたし、2016 年1月には、創業の精神を体感できる空間として「Suntory Founding Spirits Hall」を当社内に設立しました。サントリー大学では、海外グループ会社の従業員を対象にした「アンバサダープログラム」を実施し、参加者を日本に招いてサントリーグループのDNAを学んでもらい、終了後はそれを各社に持ち帰って伝道師として広めてもらうという活動も行っています。
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