経営×人事×タレントマネジメント

タレントマネジメントに取り組まれている企業を訪問し、その導入事例をシリーズでご紹介するとともに、
タレントマネジメントを切り口として、人事と経営の関係性や今後求められる人事のあり方を考察していきます。

Vol.4 会社を変革できるリーダーのポテンシャルを見極め、グローバルに選抜、育成

富士通株式会社 人事本部 グローバルタレントマネジメント Director 西明 尚隆氏(左)
聞き手:中央大学大学院 戦略経営研究科(ビジネススクール) 客員教授 楠田 祐氏

グローバルキーポジションのサクセッションプランを2014年に開始
富士通さんは、いま、グローバル化を加速されていて、組織的にもグローバルマトリクス体制にチェンジした中で、人材マネジメントのあり方や考え方なども大きく変わってきたとお聞きしています。まず、現在の状況を簡単にご説明いただけますか。
当社が2014年4月から移行した新たなグローバルマトリクス体制では、EMEIA(欧州、中東、インド、アフリカ)、アメリカ、アジア、オセアニア、日本の5リージョン体制に再編すると同時に、海外ビジネス部門を廃止して、海外ビジネス部門のコーポレート機能などを本社に統合しました。こうした全社的なマネジメント体制の変化と並行して、一定層以上を対象とした統一のグローバルグレード導入、グローバル職制表の作成、グローバルリーダー人材の選抜・育成基準の統一といった、グローバル人事基盤の整備を進めてきました。その中の一つとして、グローバルキーポジションのサクセッションプランを始めとするタレントマネジメントを、2014年からグローバル共通の形で実施しています。
サクセッションプランはどういう仕組みですか?
グローバルキーポジション、すなわち主要ポストの長が、そのポストの将来的な課題を踏まえて、自らのサクセッサー候補をリストアップします。加えて、将来的にサクセッサー候補に成りうるようなポテンシャルが高い人材をリストアップします。リストアップした人材については、強み・弱みを踏まえた育成計画を検討します。検討結果の内、サクセッサー候補の状況については、部門長が社長に報告します。また、直近から将来のサクセッサー候補の育成計画については、部門人材戦略委員会において部門の主要リーダーと共に組織を越えたローテーションなど、育成計画をより具体化し、人事が継続的にフォローしながらキャリアプランを実行していくというプロセスです。
グローバル共通のタレントマネジメントという方向に転換する中で、難しさはありませんでしたか?
当社は、グローバルマトリクス体制になる前は、インターナショナルと、日本というビジネス単位が別々にやっている実態でした。その中で、インターナショナルでは統一のサクセッションプランを含むタレントレビューの仕組みが発展していました。その海外の仕組みをベースに日本も出来るだけ合わせてグローバル統一の仕組みを実行していこうということに対して、当初、現場ではやや抵抗感がありました。一言でいえば「なじみにくい」と。日本は人材が辞めにくく、異動も頻繁にあるわけではないので、わざわざサクセッサーを決めなくても本部長の頭の中でわかっている、と。加えて、優秀な人材を「選抜」して差をつけていくということもやってきていませんでした。差をつけても周りにつぶされるのでは、もしくは周りがモチベーションを下げるのではという懸念の声の方が大きかったんです。現場では今までのやり方に課題を感じておらず、かつ新しいやり方にメリットを見出しにくいという中で、なぜこんなややこしいものに変えるのかという納得感の不足が課題でした。
現場にしてみれば、そんなことをしなくてもやってこられたのに、仕事が増えるという感覚だったかもしれませんね。
パフォーマンス重視からポテンシャル重視へどう転換するか
海外では一般的なパフォーマンスとポテンシャルの2軸で人材を評価する仕組みについても、「なじまない」という声がありました。現状の評価制度が「成果評価」と「コンピテンシー評価」であるため、まずはその2つと何が違っているのか、違うものをなぜ導入しなくてはいけないのか。そして、新たなポテンシャルという将来を見据えた評価軸をどう解釈し、どのように評価するか、評価した場合の根拠をどう示していくのか、ということへの理解・納得感の浸透に相当の壁がありました。
ポテンシャル評価は日本人が不得意とするところですね。グローバルにタレントマネジメントをやろうとしたとき、ここで苦労される日本企業が多いんです。
2016年度からは、社外のアセスメントを使って客観性の高いポテンシャル測定を行う仕組みを導入することとしました。さらに、人事部門とその組織のトップが一緒に対象者への面接を行ってポテンシャルを見極めるプロセスも行います。社外の目と社内の目、両方でその人のポテンシャルを見るわけです。
なるほど、それなら納得感があるでしょうね。社内の面接では、ポテンシャルをどのように見ていくのですか?
ポテンシャルをどう定義するかですが、上位のポジションに行く意欲と能力があって、上位のポジションで変革を起こせる人、新しいことに挑戦できる人であると考えています。
旧来の日本的なやり方だと、それができるかできないかは昇格してからやってもらうというのが一般的でしたね。それも年次管理の中で(笑)。
そうですね。これまで当社では、ポテンシャルというよりはパフォーマンスをどれだけ出しているか、つまり成果重視で上位ポジションに上がる人が決まりがちでした。人事としてはそこを変えたいのです。いざポジションが上がったとき、いままでのやり方やビジネスを変革できるかどうか、そこを見極めることがポテンシャルを測ることだと定義したいと思っています。
昇格の基準自体が変わる。すると会社が変わってきますね。
デジタルトランスフォメーションが急激に進む中、この会社で求められていることは破壊と創造ではないかと思います。ポテンシャルの高い人がより大きな責任範囲を持って、既成概念や変えるべき既存プロセスを壊し、新たなサービスを創出する。そういうことを進めていかなければいけないというのが人事の課題意識です。上に上がる人を見極める評価軸が変わって、社外アセスメントと面接を受けた人が増えていけば、だんだん風土文化が変わってくると思っています。
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