経営×人事×タレントマネジメント

タレントマネジメントに取り組まれている企業を訪問し、その導入事例をシリーズでご紹介するとともに、
タレントマネジメントを切り口として、人事と経営の関係性や今後求められる人事のあり方を考察していきます。

Vol.1 グループ・グローバル経営を担う次世代リーダーを国内外から選抜・育成

帝人株式会社 人財部長 酒井 幸雄氏
聞き手:中央大学 大学院 戦略経営研究科 客員教授 楠田 祐氏

日本、アジア、米国、欧州のグループ会社150社から成り、高機能素材、ヘルスケア、ITなど幅広い事業をグローバルに展開する帝人グループ。同社では、グループ・グローバル経営を担う次世代リーダー人財を育成するため、国内外の全グループ会社を対象としたコア人財選抜・育成プログラム「ストレッチ(STRETCH)Ⅰ、Ⅱ」を2002年からスタート。その修了者が、現在では執行役員の大部分を占めるに至っています。同社の取り組みについて、中央大学大学院戦略経営研究科客員教授の楠田祐氏が、帝人株式会社人財部長の酒井幸雄氏にお聞きしました。
2段階のグループコア人財育成プログラム「ストレッチ」
タレントマネジメントは、人事を訪問するとこの言葉が出ない日はないというくらい一般化してきましたが、帝人さんではどのような形でやっていらっしゃるのか聞かせてください。
概念的に幅広いかと思うのですが、ご質問のタレントマネジメントとは当社がこれまで「コア人財育成」と言っていたことだろうと考えます。そういう意味では、当社の場合、「ストレッチ(STRETCH)Ⅰ、Ⅱ」という選抜・育成制度を運用しています。
対象はどのあたりですか。
「ストレッチⅠ」はトップマネジメントを目指していく役員候補の位置付けで、部長層が中心です。「ストレッチⅡ」はその一歩手前で課長層が中心です。選抜された人たちに対しては3年間の研修を実施しています。1年目は集合研修、2年目以降は個々人に応じて外部のビジネススクールなり研修機関なりに行って切磋琢磨してもらうという形です。
いつごろから始めていらっしゃるんですか。
2002年からです。1970年代からコア人財の選抜・育成制度としては「MDP(マネジメントディベロップメントプログラム)」という制度を運用していましたが、対象は日本人だけでした。それが2002年に持株会社制になり、グループ・グローバル経営を進めるとなった中で、MDP制度を見直す必要がありました。日本の、しかも帝人㈱の人財だけを対象にするのではなく、グローバルにグループ会社も含めて選抜していこうと、「ストレッチ」という形に変えたのです。
現在、帝人さんの売上高と従業員の海外比率はどのくらいなんですか?
2013年度の連結売上高は約7,800億円、売上高の国内外比率はおおよそ6対4です。これを中期的に4対6に変えていこうとしています。従業員数はグループ全体で約16,000人、国内外比率はおおよそ6対4ですが、これも4対6にしていこうとしています。
そうなってくると、まさに真のグローバル企業へと姿が変わりますね。それで、ストレッチⅠ、Ⅱへの選抜はどのようになさっていますか?
基本的に事業部門からの推薦で選抜しています。まず、9〜11月に事業部門と我々人事部門の間で事業別人事会議を開いて、そこで事業部門からストレッチⅠ、Ⅱへの新規の推薦を受け、こういう人たちだという話を聞いて、すでに選抜されている人たちの育成計画などについても議論しています。その上で12月に開かれる人事会議Ⅱで、新規に選抜された人たち全員を確認した上で、別途、経営陣の前で、今の問題意識を踏まえ、1〜2段上の立場で会社や事業を更に発展させるためにどういうことをやればいいと思っているかといったテーマでプレゼンをしてもらいます。
経営陣の前で、ですか。将来の経営幹部候補ですからね。なるほど。
それで、この人はストレッチ認定者としていいだろうということになると、研修が始まるわけです。研修が終わるときにもまたプレゼンを行います。
3年間の研修と戦略的配置で幹部候補を育てる
ストレッチⅠ、Ⅱでプールされた方に対しては、研修のほかに、異動ということでも特に考えてやっていらっしゃるんですか。
戦略的配置といいますか、3つの領域を経験させたいという考え方でやっています。1つ目は海外、2つ目は他事業、3つ目は他機能。3つ目はたとえば営業から人事に配置するということです。目標としては、ストレッチⅠの認定者にはこの3つの配置を全部経験させたいと思っています。
選抜するとき、英語力は見ていらっしゃるんですか。
英語力も選抜の要件に入れていて、当初はストレッチⅠであればTOEIC730点以上で厳格に切っていました。ただ、たとえば国内で医師に当社医薬品の情報を提供するMRのような職種では、業務上英語が殆ど必要なく、TOEICの基準をクリアできないことが少なからずあったりします。
英語は仕事で必要だから使うというのでないと難しいですよね。
そのような、英語は苦手だけれども優秀な成果をあげている人財を選抜から外してしまっていいのかという議論もあって、研修の3年間で730点を超えればいい、と考え方を変えましたが、それでもなかなか変化が見られないので、再度、基準を見直そうかということになってきています。
この制度を2002年から運用されてきた中で、ストレッチⅡに選抜されて研修を受けた人がストレッチⅠに上がるケースは多かったですか?
ストレッチⅡを経た人でないとストレッチⅠに選抜されないということではありませんが、結果的には多かったですね。
その中から役員になられた方も、現在ではいらっしゃるんですか。
います。執行役員の大部分をストレッチ修了者が占めています。但し、ストレッチを経験しないと役員になれないわけではありません。
素晴らしいですね。現地法人の外国人の方や女性の方もストレッチⅠ、Ⅱに入っていらっしゃるんですか。
当初は少なかったのですが、増えつつあります。研修は日本語と英語の両方で行っていますし、グループワークなどは日本人と外国人が一緒に取り組むように仕組んでいます。女性に関しては、2001年から新卒総合職採用に占める女性比率を3割以上と決めており、彼女たちが年齢的に管理職になりはじめていますから、今後はもっと増えていくと思います。
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