経営×人事×タレントマネジメント
Vol.4 会社を変革できるリーダーのポテンシャルを見極め、グローバルに選抜、育成
従来の人事のやり方を越え、ビジネスパートナーに
今後、会社をさらに変革していくリーダーのパイプラインをいま構築しているということですね。
面接では、本人がこれまでやってきた変革について、どういうプロセスでそれをやり遂げたか、また、上のレベルに上がったら何が課題で、どのように解決し、変革しようとしているかを聞いていきます。ほかにも、仮定の状況を設定して、自分ならどう行動するかを聞くなどして、変革の再現性がどれぐらい高いのかを判断しようと考えています。
見極めるポイントはどのあたりになりそうですか?
変革を実行するためには戦略が必要です。自分のビジョンをどう提示し、どうやってチームやステークホルダーを巻き込み、リスクに対応するのかといった、変革のプロセスをきちんと考えながら情熱をもって実行していけるかどうかを、見極めるポイントのひとつにしたいと考えています。
評価のための面接というだけではなくて、人事がその方に対してコーチングをするイメージですね。
実はそういう狙いもあります。話を聞きながら、こういう考え方をするといいですよ、こういうプロセスがありますよねといったアドバイスをしたり、それはこういうことですよねと本人の考えを引き出して意識付けをしたり、そういうふうにインタビューの場を使えることができればベストだと思っています。
それをなさるというのは、まさにビジネスパートナー人事ですよ。何かありませんか?とやっていたら御用聞きになってしまうので、御用聞きになるか、ビジネスパートナーになるか、分岐点ですね、そこは。
普通に面接をやろうと思えばできてしまうんです。インタビューシートを作って本人に聞けばいいわけで、それは従来の人事のやり方だったかもしれませんが、それを越えないといけない。越えて初めてビジネスパートナーだと思います。見極めることと、本人の育成を同時にやっていくという仕組みを、いま作っているところです。また、各人の育成計画をどう立てるかも重要ですから、そこにも人事がもっと入り込んでやっていこうと考えています。
そういう形でポテンシャルのある人を上に上げることによって、会社としての戦略を達成していく、戦略的HRとしての役割を果たしていくという構図ですね。なるほど。
インタビューの場には人事だけではなく、その組織の長もいますから、本人が目指すところ、自分はこうしたいというのが会社や部門の戦略ときちんとアラインしているかどうかを確認しながら話ができるはずです。
参加者の9割近くが外国人のグローバルリーダー研修
選抜されたビジネスリーダー候補の方たちには、どういうディベロップメントのプログラムが用意されていますか。
主なものでは、GKI(Global Knowledge Institute)リーダーシッププログラムを実施しています。部長レベルが対象のアドバンスドコース(3カ月)と若手マネージャー層対象のディベロップメントコース(6カ月)があり、前者のプログラムはすべて英語です。また、主に海外人材の部長レベルを対象としたGOLD (Global Organization Leadership Development) プログラムも行っています。こちらは、 3日間のモジュールを世界各地で4回実施する形式で、25 人のクラスが2クラス、日本人は各クラス3人ぐらいずつです。講義もディスカッションもすべて英語です。
日本人は完全にマイノリティな状態ですね。それは鍛えられるでしょう。日本人のグローバル化についてはどういう取り組みをされていますか。
若手を対象としたグローバルリーダー育成プログラムが2つあります。ひとつはGEP(Global Exchange Program)という1年間の海外派遣プログラムで、2008年から実施しています。単身赴任で海外のグループ会社に行って、現地のことを肌で感じながら仕事を経験してくるというものです。
対象は? 女性社員も行っていますか?
入社5~7年目、30歳前後の社員が多いですね。もちろん女性社員も行っています。結婚されていても行くというケースもあります。それから、もう少し若年層向けにGCDP(Global Competency Development Program)という研修があります。こちらはいわば初級グローバル研修で、海外ビジネスに必要な知識の講義や英語の合宿研修を行い、最後は海外グループ会社で1週間の実地研修です。年間100名が対象で、これを受けた人がいずれGEPや海外赴任につながっていくような人材プールを作ろうというのが狙いです。
人事の上司はイギリスにいるスコットランド人
お聞きしてきたグローバルタレントマネジメントを推進する上で、システムは導入されているんですか?
それぞれが使っているものはありますが、各社バラバラなので、これまで、本当のトップタレントを見るタレントマネジメントについては、手作業的にPowerPointでやっていました。
えっ、富士通さんがですか。意外ですね。
ただ、ようやく新たなシステムの導入が決まったところで、今後はいろいろな作業がかなり楽になりそうです。
でも、本当は、業務が動き出してからシステムを入れた方がいいのかもしれませんね。タレントマネジメントのシステムを導入して、サクセッサー候補人材を現場でプールさせて、ナインボックスで管理していくだけで、タレントマネジメントが単なる作業になっている企業も意外にあると聞きます。
作業で終わっては意味がありません。当社のタレントマネジメントの取り組みでも、これまでのステップで人材・組織を見える化し、グローバル人事基盤を作ってきましたが、肝心なのは次のステップです。作ってきた基盤の上で、組織をどう最適化するのか、どこかに重複感があるならどうやって負荷分散するのかといったことを戦略的に考えるところが一番大事です。
人事の役割がこれから本当に重要になってきますね。人事の仕事の進め方などもグローバル化で変わってきましたか?
変わりましたね。私たちの上司は外国人なんです。イギリスにいるスコットランド人で、毎日のようにイギリスやあちこちの国と全部英語でやりとりしています。人事部門のナンバー2もブラジル人ですし、以前は人事の仕事も日本のことは日本で、海外のことは海外でと分かれていましたが、いまは全く違います。
人事も完全グローバル化しているわけですね。グローバルタレントマネジメントを始めて2年経って、今年からは新たな取り組みも始まって、これからさらにどんな会社に変わっていかれるのか、非常にエキサイティングだなと感じました。今日はありがとうございました。
西明 尚隆
富士通株式会社 人事本部 グローバルタレントマネジメント Director
1992年に富士通㈱に入社以来、一貫して人事・人材育成の分野に従事。海外経験として米国カリフォルニア州ベイエリアに2度駐在。現在は汐留のグローバル本社でリーダーシップ開発、人材マネジメントを担当。休日は家事など家族のために勤労。
楠田祐
中央大学大学院 戦略経営研究科(ビジネススクール) 客員教授
戦略的人材マネジメント研究所 代表
東証一部エレクトロニクス関連企業3社の社員を経験した後にベンチャー企業社長を10年経験。2009年より年間500社の人事部門を5年連続訪問。人事部門の役割と人事の人たちのキャリアについて研究。多数の企業で顧問も担う。主な著書:「破壊と創造の人事」(出版:ディスカヴァー・トゥエンティワン)2011年は、Amazonのランキング会社経営部門4位(2011年6月21日)を獲得した。最新の著書は「内定力2015〜就活生が知っておきたい企業の『採用基準』」(出版:マイナビ)
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