そこで最終回となる第3回は、何をどのように公表しなければならないのか、そして新たに創設された認定制度や助成金について解説をいたします。
女性の活躍に関する情報公表
常時雇用する労働者数が301人以上の企業では、女性の職業生活における活躍に関する情報を定期的に公表しなければならないとされています。公表する項目は、あらかじめ定められていて、以下の14項目のいずれか一つ以上を選択することになります。1 採用
・採用した労働者に占める女性労働者の割合(区)
・男女別の採用における競争倍率(区)・・・①
・労働者に占める女性労働者の割合 (区)(派)
2 継続就業・働き方改革
・男女の平均継続勤務年数の差異・・・②
・10事業年度前及びその前後の事業年度に採用された労働者の男女別の継続雇用割合
・男女別の育児休業取得率(区)
・労働者の一月当たりの平均残業時間・・・③
・労働者の一月当たりの平均残業時間 (区)(派)・・・③
・有給休暇取得率
3 評価・登用
・係長級にある者に占める女性労働者の割合
・管理職に占める女性労働者の割合
・役員に占める女性の割合
4 再チャレンジ(多様なキャリアコース)
・男女別の職種又は雇用形態の転換実績 (区)(派:雇入れの実績)
・男女別の再雇用又は中途採用の実績・・・④
枠内の(区)の表示のある項目は、雇用管理区分ごとに公表を行う事項(但し、属する労働者数が全労働者の1割に満たない場合は類似する雇用区分にまとめて公表することは可)、(派)の表示のある項目は、派遣労働者を含めて算出する項目になります。また、①~④の項目については、第1回でご説明した状況把握と定義や算出方法が違いますので、パンフレットを確認するようにしてください。
公表する情報は、最新の情報(古くても公表時点の事業年度の前々事業年度の数値)を、おおむね1年に1回以上、公表した日を明らかにして自社のホームページや厚生労働省の「女性活躍・両立支援総合サイト」内の「女性の活躍推進企業データーベース」で公表することになります。以下は、女性活躍推進企業データーベースのイメージになります。
認定取得を目指そう
第1回、第2回に引き続きここまでは、女性活躍推進法によって義務付けられている事項について解説をしてきましたが、ここからは積極的に女性の活躍推進について取り組む企業をサポートする制度についてご紹介いたします。まずは、認定制度についてです。行動計画の策定・届出をした企業のうちで、女性活躍推進のための取組状況が優良な企業は、都道府県労働局に申請することで、厚生労働大臣の認定を受けることができます。認定を受けると、認定マーク(愛称は募集中)を自社の商品や広告、名刺等につけることが可能になり、『女性活躍推進企業』としてPRすることができるようになります。行動計画の策定・届出をした企業が対象になりますから、行動計画の策定等が努力義務となっている300人以下の企業でも対象になります。この認定は3段階に分かれており、①採用、②継続就業、③労働時間等の働き方、④管理職比率、⑤多様なキャリアコースの5つの評価項目の内、要件を満たした項目の数に応じて、取得できる認定段階が変わってきます。
●満たしていない基準についての取組を実施し、取組状況を厚生労働省のウエブサイトに公表し2年以上連続で実績が改善していること
●満たしていない基準についての取組を実施し、取組状況を厚生労働省のウエブサイトに公表し2年以上連続で実績が改善していること
上記に挙げた基準以外にも、どの段階においても、行動計画を定め、適切に公表・労働者への周知をしたこと、また女性活躍推進法等その他関係法令に違反する重大事実がないことなどが要件とされています。なお、5つの評価項目の詳細については、「認定パンフレット」を参考にしていただければと思いますが、いくつか例を挙げると「管理職に占める女性の割合が産業ごとの平均値以上であること」や「女性労働者の平均継続勤務年数÷男性労働者の平均継続勤務年数が各雇用管理区分ごとにそれぞれ0.7以上であること」等、なかなか簡単には満たすことのできない内容になっています。また、もし認定を受けることができたとしても、その後評価項目が基準の9割未満の状態が2年連続で続いたり、公表を2年間にわたり怠った場合には、認定が取り消されることになります。つまり、その場限りの努力だけではなく、継続できる体制づくりもまた問われているというわけです。
なお、認定マークの取得を目指すには、上記の基準を満たすための取組を進めていくことが肝要ですが、その他に、申請をする前や行動計画の期間中に雇用均等室を積極的に活用することをお勧めいたします。これは、次世代法の認定マーク「くるみん」の取得時に多くみられた例ですが、評価項目の数値を達成することにばかりに気をとられて、「労働者への周知を忘れていた」「周知した事実が確認できる書類がない」「行動計画の内容が変更になったのに変更届が出てない」等、数値ではないところで引っかかってしまい認定が受けられないという事が多くの企業で発生したからです。ですから、今回の女性活躍推進法の認定でも事前に相談等をすることで、思いもよらないところで足元をすくわれないようにしていただきたいと思います。
助成金を活用しよう
何か行動を起こそうというときには、インセンティブがあると勢いがついたり、モチベーションが保たれやすくなるのは、人も企業も同じです。女性の活躍を推進する企業を支援するための助成金が昨年の10月からスタートしています。「女性活躍加速化助成金」です。この助成金は、行動計画で定めた取組内容を一つでも実施したら申請できる「加速化Aコース」(支給額30万円)と、取組を実施しその数値目標を3年以内に達成したら申請できる「加速化Nコース」(支給額30万円)の2種類が設けられています。「加速化Aコース」は、常時雇用する労働者が300人以下の中小企業事業主(支給申請時の労働者数で判断)のみが対象となり、「加速化Nコース」はすべての企業が対象になります。どちらのコースも行動計画の策定・届出・労働者への周知・公表、そして女性の活躍に関する情報公表といったこれまでご説明してきました内容を実施していることが前提となりますが、以下の2点はこの助成金独自のものですので注意が必要です。●行動計画や情報を公表する場は、「ポジティブ・アクション応援サイト」(公表先は改定予定あり)であること
●行動計画には、「長時間労働是正など働き方の改革に向けた取組」を盛り込むこと
また年度が変わると助成金の内容が変更される可能性もありますので、最新の情報を入手することも肝要です。
終わりに
全3回にわたって女性活躍推進法について解説をしてまいりました。女性の個性と能力が十分に発揮できる社会の実現は、アベノミクスの柱の一つでもありますが、果たして当の女性たちは、男性と等しく活躍することを望んでいるのでしょうか。採用の門戸が等しく開かれ、長時間労働がなくなるという側面では非常に喜ばしいことだと思われますが、一方で管理職になりたいと希望する女性が男性同様に多くいるのかと問われると、現在のような状況であれば首をかしげる方も多いのも事実でしょう。それは、従来から日本企業で根強く評価されてきた働き方、つまり「長時間働けて、転勤もいとわない」という働き方が、働く女性のライフイベントにはそぐわないためです。結婚をすれば、家事にも時間を取られるようになり、出産・育児となれば、長期間の職場からの離脱や、職場復帰後も時間や場所の制約がついて回ります。また、そもそも体力的に男性には到底敵わないと思う女性も多くいるはずです。キャリアアップを目指したとしても、男性と同様の働き方を求められ、さらに転勤が必須だと言われてしまえば、キャリアアップどころか継続して就業することですら諦めざるを得ない女性が多くでてくるのは当然のことなのです。真の意味で女性の活躍を加速化させるためには、従来の労働時間の多さ(成果物の量)が直結するような評価制度の見直し、そして一時的に職場から離脱してもまたキャリアが積み直せる仕組み作りが必要なのです。そして、経営者の方々には是非、この女性活躍推進法における取組は、決して女性のためだけではないという認識をお持ちいただきたいと思います。今や核家族化が進み、男性もまた家族の介護をするようになり、本当は継続して働きたいのに、その両立ができずに辞めざるを得ない人が年間10万人以上いるという現実があります。これは、育児との両立に悩む女性たちと等しい悩みではないでしょうか。今までの働き方は、男性にとっても適合しなくなりつつあるのです。今まさに、ライフスタイルやライフイベントと労働が無理なく両立できる働き方を考える時期にあると言えるのではないでしょうか。そして、10年先、20年先を見据えて本気で取り組んだ企業こそが、少子高齢化社会に突入する日本で勝ち抜く企業になることができるのです。
たいそう大きなことを書きましたが、大きなことを行うにはまずは、小さな一歩が必要です。この女性活躍推進法をきっかけとして、すべての企業においてまずはできることから、女性活躍における小さな一歩が踏み出されることを期待したいと思います。
■一般事業主行動計画を策定しましょう!!(パンフレット)
「そもそも、女性活躍推進法ってなに?」という方はこちら↓↓
■厚生労働省 女性活躍推進法特集ページ
企業が所在地の労働局に届け出る書類の様式は、上記「女性活躍推進法特集ページ」からダウンロードできます。
・様式第1号 一般事業無視行動計画策定・変更届(女性新法単独型)
行動計画の届け出は、平成28年4月1日までと記載されています。
これは3月31日午後5時までに所定の労働局に提出されているか、郵送で届いている必要があります。
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