またこれらは、公表・周知そして届出が義務付けられています。マイナンバーやストレスチェックなどの対応に追われて、こちらは手つかずという企業は、たった3ヵ月弱でこれら全てを行わなければならないわけです。とはいっても、新たにスタートする制度ですから、どこから、どうやって手を付けてよいのか頭を抱えていらっしゃる方も少なくないと思います。
そこで今回は、全3回にわたって女性活躍推進法について企業がやるべきことについて解説いたします。
法案成立の背景
なぜ、法律を制定してまで、女性の活躍推進に国を挙げて取り組むことになったのでしょうか。現在、日本の人口は6年連続で減少しています。この減少のスピードは、他の先進国とは比べものにならないくらい加速しており、なんと2025年には、65歳以上の人口が3割を超えると予測されています。このように人口が減り、少子高齢化が進んでいけば、おのずと労働力人口も減少します。今後日本が経済成長し続けていくためには、どのようにして労働力を確保するのかが命題となってくるわけです。
また経済が成熟し、個々の価値観や意識が多様化する中で、消費者のニーズもまた多角化してきていると言われています。高度経済成長期には、安いものを多く供給することに重きが置かれていましたが、現代では、多様化する消費者のニーズに対応するため、市場の多極化が顕著になってきています。そういった状況下において注目されるのが、女性の購買力です。女性の社会進出が進んだことでその購買力は高まり、また家庭内における購入決定権においても女性の存在が大きいことから、商品やサービスの開発において女性の視点を入れること、さらに企業において意思決定ができるポジションへ女性を登用することが不可欠になります。
しかしながら、現在の日本における女性の就業状況をみると、就業を希望しているのに育児や介護を理由に働いていない女性は約300万人に上り、また子育て期の女性に焦点を当てると、第一子出産を機に約6割の女性が離職しているのが現状です。もっとも企業側としても採用・育成に時間を掛けた女性労働者が離職してしまうことは、大きな損失です。そこで安倍政権では成長戦略の一つの柱として、東京オリンピック・パラリンピックが行われる2020年までに、指導的地位に占める女性の割合を30%にするという目標を掲げ、経済界や各企業において女性活躍推進のために自主的な取り組みを行ってきました。しかし、自主的な取り組みだけでは限界もあり、女性の管理職の割合は現在、11.3%と欧米諸国やアジア諸国と比べても大きく下回っているのです。
このような状況を踏まえて、女性の個性と能力が十分に発揮できる社会を実現するために、法律を制定することで、より女性の活躍を加速していきたいというのが法案成立の背景になります。
女性活躍推進法の対象となる企業とは
女性がより能力を発揮できる社会を実現するために、女性活躍推進法では企業に対して、以下のことを行うことを義務付けています。② 状況把握、課題分析を踏まえ、行動計画の策定、社内周知、公表
③ 行動計画を策定した旨の都道府県労働局への届出
④ 女性の活躍に関する状況の情報公表
本来は、すべての企業で何らかの取り組みを行うべきではありますが、その事務作業に関する負担が大きいことから中小企業は除くかたちで、常時雇用する労働者数が301人以上の全ての企業(国・地方公共団体は除く)に行動計画の策定及び公表が、義務付けられることになりました(300人以下の企業は努力義務)。
ここでいう常時雇用する労働者とは、以下に該当する労働者を指します
・期間を定めて雇用されている者(日々雇用されるものを含む)は、過去1年以上引き続き雇用されている者又は1年以上引き続き雇用されることが見込まれる者
そのため、正社員だけをカウントしたり、パートタイムやアルバイトといった身分の者を除外することはできません。一方で、国外にある支店や出張所に勤務する労働者やいわゆる昼間学生はこのカウントの対象外となります。当然ながら、女性が全くいない企業や、逆に女性がすでに十分に活躍できている企業だとしても301人以上であれば①~④を行わなければなりません。
女性活躍に関する状況を把握する
実際に目標や行動計画を立てるにあたっては、自分の会社がどのような状況にあるのか、現状把握が必要です。そのため、女性活躍推進法では、自社について把握すべき項目を25定めています。このうち、4項目(基礎項目)については、多くの企業が抱える問題であるとして、把握することが義務付けられていますので、基礎項目の4つとそれ以外の項目とに分けて解説をいたします。ⅰ 基礎項目 ~採用した労働者に占める女性労働者の割合~
直近の事業年度の女性の採用者数(中途採用含む)÷直近の事業年度の採用者数(中途採用含む)×100(%)
上記の計算式により女性の採用割合を算出することになるのですが、この計算は、雇用管理区分ごとに行わなければならないとされています。雇用管理区分とは、職種・資格・雇用形態・就業形態等の区分を指します。もう少しかみ砕くと、仕事内容や転勤等の人事異動の幅や頻度等について違いが存在している区分となり、例えば「総合職・一般職」や「事務職・技術職・専門職」「正社員・契約社員・パートタイム」などで区分することができると言えばわかりやすいかもしれません。なお、営業職や事務職のように職種が違う場合であっても、様々な職務を経験させるため、人事異動が同一の基準で行われている等、両者を区別することなく配置等を行っているのであれば、これらは一つの雇用管理区分として判断することになります。
なお、パートタイムなど有期雇用契約者の場合、入れ替わりが多かったり、各営業所単位で採用を行っているなどの理由から、採用者全体を把握できないというケースが想定できます。このような場合に限り、その雇用管理区分については、当該事業年度を含む過去3年以内の一定時点における女性労働者の割合で代替することができます。
ⅱ 基礎項目 ~男女の平均継続勤務年数の差異~
平均継続勤務年数についても、全労働者ではなく下記に該当する労働者を、前述同様に雇用管理区分ごとに、把握することになります。
・契約期間を通算した期間が5年を超える有期雇用労働者(労働契約法第18条により無期労働契約への転換を申し込むことができる権利を有する労働者)
なお、有期雇用労働者については、上記かっこ書きにある通り無期労働契約への転換を申し込むことができる労働者を指します。そのため「専門的知識等を有する有期雇用労働者等に関する特別措置法」により労働局長の認定を受けた無期転換ルールの特例の対象の労働者(参照)については、含めて算出する必要はありません。 また、労働契約の通算の考え方も、労働契約法第18条第2項のクーリングと同様に原則6ヶ月以上の空白期間があれば、前後の有期労働契約は通算しないことになります。
ⅲ 基礎項目 ~労働者の各月ごとの平均残業時間数等の労働時間の状況~
ここでは、各月の労働者の平均残業時間数を下記の計算式で算出することになります。
「各月の対象労働者の(法定時間外労働+法定休日労働)の総時間数の合計」÷「対象労働者数」
これにより難い場合は
[「各月の対象労働者の総労働時間数の合計」―「各月の法定労働時間の合計=(40×各月の日数÷7)×対象労働者数」]÷「対象労働者数」
対象労働者数については、事業年度の各月の労働者数の平均になりますので、事業年度の各月の労働者数(月途中の入退社除く)を12ヶ月分足して12で割った数とし、法定時間外労働・法定休日労働・総労働時間についても月途中入退社の分はカウントせずに計算します。
また、事業場外みなし労働時間制の適用を受ける労働者や労働基準法第41条に該当する管理監督者については、残業時間を算出する際には対象外となります。一方で、パートタイム労働者(名称に関わらず、正社員よりも労働時間が短い労働者)や専門業務型裁量労働制・企画業務型裁量労働制の適用を受ける労働者については、それ以外の労働者とは別に各々の平均の残業時間数を把握します。
なお、裁量労働制(専門・企画)の労働者については、協定等でみなしている時間ではなく、健康福祉確保措置により把握している在社時間で算出することが求められていますので、例えばPCのログオン・ログオフの記録やICカード等による出退勤時間によって、平均残業時間を算出すことになりますので注意が必要です。
ⅳ 基礎項目 ~管理職に占める女性労働者の割合
女性の管理職数÷管理職数×100(%)
管理職とは、「課長級」と「課長級より上位の役職(役員は除外)」にある労働者を指します。「課長級」というフレーズはあまり聞きなれない言葉ですが、原則はその役職の名称や組織の最小単位である係の数(2係以上の組織の長であること)又は構成員の人数(課長を含み10人以上)といった形式的な要件に該当するかで判断します。もし、これらの形式的要件に該当しない場合でも、その職務や責任の程度が「課長級」に相当するのか企業側で判断をして、管理職に該当するのか否かを決めていくことになります。(ただし、一番下の職階では該当しません)。
Ⅴ 選択項目
必ず把握しなければならない基礎項目以外にも選択項目として、21項目が下記のとおり列挙されています。各項目の後に(区)の表示のある項目は、基礎項目で説明をした雇用管理区分ごとに把握する必要があり、(派)の表示のある項目は、派遣労働者を受入れている企業においては、その派遣労働者も含めて把握する必要があります。これらは、把握することにより、この後行う状況分析や行動計画策定において効果的であるとされていますが、基礎項目とは違い把握することは義務付けられていません。把握するかどうかは各企業単位で判断をすることになります。なお、①~⑬まで数字が振ってある項目については、計算方法が別途示されていますのでパンフレット等にてご確認ください。
(1) 採用
・男女別の採用における競争倍率(区)・・・①
・労働者に占める女性労働者の割合(区)(派)
(2) 配置・育成・教育訓練
・男女別の配置の状況(区)
・男女別の将来の人材育成を目的とした教育訓練の受講の状況(区)・・・②
・管理職や男女の労働者の配置・育成・評価・昇進・性別役割分担意識その他の職場風土等に関する 意識(区)/ (派:性別役割分担意識など職場風土等に関する意識)・・・③
(3)継続就業・働き方改革
・10事業年度前及びその前後の事業年度に採用された労働者の男女別の継続雇用割合(区) ・・・④
・男女別の育児休業取得率及び平均取得期間(区) ・・・⑤
・男女別の職業生活と家庭生活との両立を支援するための制度(育児休業を除く)の利用実績(区)・・・⑥
・男女別のフレックスタイム制、在宅勤務、テレワーク等の柔軟な働き方に資する制度の利用実績
・労働者の各月ごとの平均残業時間等の労働時間の状況(区)(派)
・管理職の各月ごとの労働時間等の勤務状況・・・⑦
・有給休暇取得率(区)
(4)評価・登用
・各職階の労働者に占める女性労働者の割合及び役員に占める女性の割合・・・⑧
・男女別の1つ上位の職階へ昇進した労働者の割合・・・⑨
・男女の人事評価の結果における差異(区)・・・⑩
(5)職場風土・性別役割分担意識
・セクシュアルハラスメント等に関する各種相談窓口への相談状況(区)(派)
(6)再チャレンジ(多様なキャリアコース)
・男女別の職種又は雇用形態の転換の実績(区)(派:雇入れの実績)
・男女別の再雇用又は中途採用の実績(区)・・・⑪
・男女別の職種若しくは雇用形態の転換者、再雇用者又は中途採用者を管理職へ登用した実績 ・男女別の非正社員のキャリアアップに向けた研修の受講の状況(区)・・・⑫
(7)取組の結果を図るための指標
・男女の賃金の差異(区)・・・⑬
さぁ、現状を把握した結果はいかがでしたでしょうか。なお、これらの情報については公表することが義務付けられています。公表するということは一般の人の目に触れるということです。例えば、就職活動中の学生であれば、「この会社は、残業は多いのかな。」「女性は働きやすい職場なのだろうか。」などと、公表している情報を活用しながら、志望する会社を決めるということが今後は起こり得るということなのです。そのため、あまり良くない結果であれば、これからの採用にも大きく影響しかねませんので、改善に向かっての課題分析や行動計画の策定が重要になってきます。
次回は、状況把握後のステップについて解説をしていきたいと思います。
■一般事業主行動計画を策定しましょう!!(パンフレット)
「そもそも、女性活躍推進法ってなに?」という方はこちら↓↓
■厚生労働省 女性活躍推進法特集ページ
企業が所在地の労働局に届け出る書類の様式は、上記「女性活躍推進法特集ページ」からダウンロードできます。
・様式第1号 一般事業無視行動計画策定・変更届(女性新法単独型)
行動計画の届け出は、平成28年4月1日までと記載されています。
これは3月31日午後5時までに所定の労働局に提出されているか、郵送で届いている必要があります。
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