前回は、「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」(以下、「女性活躍推進法」という)の成立の背景、対象となる企業の考え方そして、最初のステップである自社の現状を知るために把握することが義務付けられている4つの基礎項目の把握方法等についてご説明をいたしました。前回の振り返りになりますが、女性活躍推進法では、常時雇用する労働者が301人以上の企業に対して、次のことを行うことを義務付けています。
①自社の女性の活躍に関する状況把握、課題分析
②状況把握、課題分析を踏まえ、行動計画の策定、社内周知、公表
③行動計画を策定した旨の都道府県労働局への届出
④女性の活躍に関する状況の情報公表


 第2回では、状況把握以降に行う、課題分析から行動計画の策定、労働局への届出までについて解説をしていきたいと思います。

女性活躍に関する課題を分析する

  前回ご説明した基礎項目や選択項目の把握が完了すると各企業における女性の活躍状況が少しずつ見えてきます。想定より良かった・悪かった、算出した数値が良いのか悪いのか判断がつかないなど感想は様々であったと思います。これらの数値が算出できましたら、この後策定する行動計画の内容を決めるために、数値や現在の状況を分析して、自社の課題を明らかにしていきます。各企業の実態に応じた課題があるでしょうから、分析は各社独自に行っていただければそれで構いません。そうはいっても、どうやって分析をするのか、何をもって課題だと判断をするのか首をひねってしまう企業も多くあると思います。そこで、厚生労働省の女性活躍推進法のホームページに、2つの分析方法が参考として挙げられていますのでご紹介いたします。

●一般事業主行動計画を策定しましょう!! (8p~15p参照)
基礎項目で把握した内容を元にして「採用関係」「継続就業及び職場風土関係」「長時間労働関係」「配置・育成・教育訓練及び評価・登用関係」の視点から目安を設け、目安を下回るようであればフローチャートで、その原因を分析。

●行動計画支援ツール
基礎項目で把握した「採用率」「平均継続勤務率」「管理職率」の3つの項目の値から企業の女性活躍の状況を6つのタイプ別に分類して、該当するタイプごとの特徴に応じた原因を分析。


 これらは、あくまでも参考として例示されているにすぎませんので、必ずこのとおりに課題分析をしなければならないということではありません。ただ、これらを利用すると分析の後に決定する目標や具体的な取り組み例などを絞り込むことができますので、参考にすることで、課題分析から行動計画の策定までがより簡便になるかと思われます。

行動計画を策定する 計画期間と数値目標

  続いて課題改善に向けた行動計画を策定します。行動計画には、【計画期間・目標・取組内容・取組の実施時期】を盛り込みます。計画期間とは、目標を達成するための取り組みを行う期間で、おおむね2年から5年で区切り、PDCAサイクルにより、結果を受けて、見直し・次の行動計画に反映させることが求められています。もし、立てた目標を達成するのには5年以上かかるというのであれば、5年を超える計画を立てるということ自体は否定されませんが、通達においても進捗を検証しながら、改定を行うことが望ましいとされていますので、目標を再度見直すことや、計画の途中で検証・変更を行うような体制をとることが望まれます。

 また、行動計画で設定する目標は、例えば、「採用者数に占める女性比率を●%以上とする」や「女性管理職の人数を●人以上とする」等のように、必ず1つ以上は、数値で定めなければいけないので注意が必要です。1つ以上ですので、複数の目標を立てても、1つの目標に集中して取り組むことも可能です。数値の値についても、先の課題分析の結果から企業ごとに任意で設定することができますが、最も大きな課題と考えられるものから優先的に数値を設定するのがよいでしょう。設定した目標に合わせて「何に」「いつ」取り組んでいくのかということを決定すれば、行動計画策定は完了となります。
なお、自社で受け入れている派遣労働者については、派遣元事業主が行動計画を策定しますが、長時間労働対策については職場単位での取組になりますので、派遣労働者も含めて取り組むことが求められます。

行動計画と男女雇用機会均等法

  行動計画を策定するにあたっては、目標や取組内容について「このラインはクリアしなければならない」ですとか「●●について取り組まなければならない」というものは定められていません。あくまでも、各企業の実状に応じてその裁量で定めることができるのですが、取組内容については、男女雇用機会均等法(以下、雇均等法という)を意識して定める必要があります。行動計画を策定するにあたっては、どうしても女性を有利に扱う取り組みを行いたいと思うところです。しかし、雇均等法では募集・採用・配置・昇進・教育訓練等において、性別を理由にどちらか一方を排除したり、不利(または有利)な取り扱いをすることを原則として禁じています。そのため、よかれと思って策定した取組内容が法違反にあたってしまう可能性があるのです。
 
 もし、女性を有利に取り扱う措置を講じたいのであれば、その雇用管理区分において女性労働者が男性労働者と比較して相当程度少ない状態であれば、この不均衡な状況を改善するために行う措置(ポジティブアクション)として、法違反にはなりません。この「相当程度少ない」とは、女性労働者の割合がその雇用管理区分において男性労働者と比べて4割を下回っている状態を指します。ですから、総合職において女性労働者が男性労働者の4割を下回っているのであれば、総合職の募集や採用における情報の提供について女性を有利に扱ったり、採用基準を満たす人の中で女性を優先的に取り扱うことができるというわけです。また昨年の11月に雇均等法が改正され、雇用管理区分だけでなく、各役職に占める女性の割合が4割を下回っている場合にも、女性のみを対象としたり、女性を有利に扱うことが可能になりました。例えば、部長職の女性の割合が4割を下回っている場合、部長職の募集を女性限定にしたり、必要な能力を付与する教育訓練を女性のみに行うこと等ができるようになったのです。

 一方で、すべての雇用管理区分や役職において女性が4割以上を占めている企業では、どのような取り組みを行えばよいのでしょうか。そのような場合には、女性のみでなく、対象となる男女労働者に対して等しく、「長時間労働対策」や「対象となる男女労働者に対する研修の実施」等の取組を設定することになります。

行動計画の社内周知と公表

  行動計画の策定後は、社内に周知します。目標達成を目指し組織全体として取り組んでいくための大切なプロセスです。周知の方法は、事業所の見やすい場所への掲示やイントラネットへの掲載等、労働者が行動計画を容易に確認できる方法をご選択ください。

 また行動計画は、外部へも公表しなければなりません。自社のホームページ上で公開するという方法もありますが、女性活躍・両立支援総合サイトでも公表することができます。なお、インターネットの利用が不可能な企業であれば、一般の方の求めに応じて知り得るように、事業所の見やすい場所に備え付けるということでも構いません。この女性活躍・両立支援総合サイトでの公表は、2月末開始を予定しています。このサイトでは公表することもさることながら、他社の取り組みを閲覧することもできるので、同業他社や規模が同等の企業がどのような取り組みをしているのか参考にするのもよいでしょう。

行動計画の届出

第2回 女性活躍推進を徹底解説! 課題分析・行動計画策定・労働局届け出
  策定又は変更した行動計画は、
「一般事業主行動計画策定・変更届」にて本社を管轄する都道府県労働局雇用均等室に提出しなければなりません。記入方法は、下記にある記入例をご参照にしていただければ、手間取ることなく作成ができるかと思います。
第2回 女性活躍推進を徹底解説! 課題分析・行動計画策定・労働局届け出



●「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律に基づく 一般事業主行動計画を策定しましょ う!!」

(厚生労働省 都道府県労働局雇用均等室 
 パンフレット P23、24)









なお、一点注意していただきたいのが、この『一般事業主行動計画策定・変更届』という書類は3種類あるということです。

女性活躍推進法にかかる行動計画を届け出る場合には、右上に女性活躍推進法と記載がありますので、そちらを確認してから書類を作成するようにしてください。なお、次世代法・女性活躍推進法 一体型となっているものは、次世代育成支援対策推進法に基づく仕事と子育ての両立支援のための行動計画と女性活躍推進法で定める行動計画の期間が同じ場合に利用するものになります。多くの場合は、女性活躍推進法と記載のあるものを利用することになるでしょう。

 なお、最初の行動計画は、今年の4月1日までに提出しなければいけませんので、まだ何も行っていないという企業は、すぐにでもはじめないと間に合わなくなってしまいます。

行動計画策定にあたって

  状況把握からはじまって、課題分析・行動計画を策定し、届け出までが完了しました。せっかく多くのプロセスを経てここまで来たからには、絵に描いた餅にしないよう、計画を実行に移し、結果を残していただきたいと思います。そのためには、まずはこの行動計画策定にあたって多くの意見を集めることが重要になります。行動計画は、企業全体で取り組んでいくわけです。場合によっては、一部の女性を有利に取り扱う措置を講じることがあるかもしれません。そうなったときには、なるべく多くの人の理解を得た行動計画でないと、途中で反対にあって取り組みが進まないということにもなりかねません。そのため、行動計画を策定するにあたっては、多くの意見や、数値だけでない職場の実情が反映できるように、幅広い層の労働者が参画する委員会のようなものを作ったり、必要に応じて広くアンケートを取る等が有効になるでしょう。

 また、2年から5年と長いスパンで行動計画に取り組むわけですから、継続して高い意識を持ち続けるためには、なぜ取り組まなければならないのか、組織全体で問題点を共有することも必要です。そのためには、単に社内に周知するだけではなく組織のトップからの強いメッセージを発信することが有効です。経営陣が本気で取り組むことを表明すれば、それは従業員にも必ず伝わります。そうやって、担当者だけでなく、経営陣や他の労働者すべてを巻き込んで組織全体で取り組んでいこうという風土を作ることが何よりも大切であると考えます。

 最終回となる次回は、女性の活躍に関する情報公表そして、新たに設けられた認定制度について解説をしたいと思います。
本記事でご説明したパンフレットはこちら↓↓
■一般事業主行動計画を策定しましょう!!(パンフレット)

「そもそも、女性活躍推進法ってなに?」という方はこちら↓↓
■厚生労働省 女性活躍推進法特集ページ

企業が所在地の労働局に届け出る書類の様式は、上記「女性活躍推進法特集ページ」からダウンロードできます。
・様式第1号 一般事業無視行動計画策定・変更届(女性新法単独型)

行動計画の届け出は、平成28年4月1日までと記載されています。
これは3月31日午後5時までに所定の労働局に提出されているか、郵送で届いている必要があります。
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