「社会保険」とは
「社会保険」とは、働く人をさまざまなリスクから守るための公的な保険制度だ。具体的には病気やケガ、失職、老齢、労働災害などのリスクを想定しており、「健康保険」、「厚生年金保険」、「介護保険」、「雇用保険」、「労災保険」などの5種類を用意している。ただし、「社会保険」は広義の「社会保険」と狭義の「社会保険」に分けて使われるケースもある。前者は上述の5つの保険を指しているのに対して、後者は健康保険、厚生年金保険、介護保険の3つに限定している。後者に含まれない雇用保険と労災保険は、まとめて「労働保険」と呼ばれている。
会社の従業員からすると、一般的には後者を指すことが多い。本稿でもそれに準じて解説していくこととする。
事業所の「社会保険」の加入条件
次に、「社会保険」の加入条件について説明しよう。強制適用事業所と任意適用事業所で条件が異なる。●強制適用事業所
強制適用事業所とは、法律によって「社会保険」への加入が義務付けられている事業所を意味する。なので、事業主や従業員の意思、従業員数、事業の規模、業種などには一切関わらず加入しなければならない。強制適用事業所に該当する条件は、以下の通り二つある。
・5人以上の従業員を常時雇用している個人の事業所。ただし、農林水産業、サービス業などの非適用業種は除外
また、株式会社や合同会社などの法人は、必ず強制適用事業所となる。そのため、社長1人のみの会社であっても、「社会保険」には加入しなければいけない。
●任意適用事業所
任意適用事業所とは、強制適用事業所に該当しない事業所で、厚生労働大臣(日本年金機構)の認可を事前に受けて、健康保険・厚生年金保険の適用となった事業所を意味する。任意適用事業所になるためには、従業員の半数以上の同意を得て事業主が申請し、厚生労働大臣(日本年金機構)の認可を受ける必要がある。●一括適用ができる場合
一括適用とは、複数事業所分を一つの事業所として申請できる仕組みだ。具体的には、本社が従業員の労務管理などを集中的に行っている事業所では、本社と支社を一つの適用事務所とみなすことができる。一括適用されると、本社と支社間で異動があった際でも「社会保険」の資格喪失届などの手続きを行う必要はない。一括適用を受けていないと、承認をもらう際に「社会保険」の届け出の処理過程や、労務管理の範囲・方法などについて説明した書面を所轄の年金事務所に提出しなければならない。
従業員の加入条件と適用範囲
ここでは、従業員の社会保険の加入条件と適用範囲について触れたい。●従業員の加入条件と適用範囲
適用事業所で働いている従業員は、一定の条件を満たす場合、「社会保険」に加入しなければいけない。加入条件は、以下の通りとなっている。・1週間の所定労働時間および1カ月の所定労働日数が雇用されている従業員の4分の3以上の従業員
他にも、パートやアルバイトの従業員なども条件に応じて加入対象となってくる。ちなみに、介護保険は、健康保険に加入している40歳以上の人が対象となる。
●パート・アルバイトの加入条件
パート・アルバイトであっても、以下の条件にすべて該当する場合は、「社会保険」の加入対象となる。・2カ月を超える雇用の見込みがある
・月額賃金(所定)が8.8万円以上(年収約106万円)
・学生でない(定時制や夜学等を除く)
・従業員が51人以上の事業所に勤めている(50人以下であっても労使が合意をすれば、加入可能)
2024年10月からは法改正により、「従業員が101人以上の事業所に勤めている事業所」から、「従業員が51人以上の事業所に勤めている事業所」へと、適用範囲が拡大されていることに注意を要する。パートやアルバイト従業員の全員が「社会保険」の適用を望んでいるとは限らないだろう。「扶養の範囲内で働きたい」、「手取りが減るのは嫌だ」と考える人もいるはずだ。中には、加入条件が変更されたことを知らないパートやアルバイト従業員もいるかもしれない。該当する従業員と再確認の機会を持つことをお勧めしたい。
●派遣労働者・契約社員の加入条件
派遣労働者・契約社員の社会保険の加入条件も、フルタイムやパート・アルバイト従業員と同様となる。フルタイムと同じ労働時間である場合、もしくは「1週間の所定労働時間が、正社員の4分の3以上」、「契約期間が2カ月以上であること」を満たす場合は社会保険に加入しなければいけない。
また、上記の条件を満たさなくても、前項で解説した5つの条件を満たしているかを確認する必要がある。
・2カ月を超える雇用の見込みがある
・月額賃金(所定)が8.8万円以上(年収約106万円)
・学生でない(定時制や夜学等を除く)
・従業員が51人以上の事業所に勤めている(50人以下であっても労使が合意をすれば、加入可能)
●適用除外となる場合
後期高齢者医療の対象となる75歳以上の方、あるいは65歳以上75歳未満で一定の障害の状態にある方で、さらに以下のいずれかに該当する方は、「社会保険」の適用除外となる。・船員保険の被保険者の方
・所在地が定まらない事業所で勤務している方
・国民健康保険組合の事業所で勤務している方
・健康保険、あるいは共済組合の承認を受けて国民健康保険に加入している方
「社会保険」の適用拡大の流れ
国内の出生率は下がり続け、労働人口が減少していくなかで、「社会保険」の制度そのものを運営していくためには、保険料の徴収を維持しなければならない。そのため、「社会保険」は近年、適用範囲が拡大している。その流れを整理しておこう。「社会保険」はこれまでも何回か適用範囲の拡大が行われている。最近では、2016年10月と2022年10月、2024年10月に実施されている。それぞれの主な変更点を見てみたい。
・2016年10月
従業員が501名以上に。見込み雇用期間が1年以上に。
・2022年10月
従業員が101名以上に。見込み雇用期間が2カ月以上に。
・2024年10月
従業員が51名以上に。見込み雇用期間は上記と変わらず。
引用:社会保険適用拡大特設サイト
引用:社会保険適用拡大特設サイト
事業所が「社会保険」に加入するための手続きと提出書類
ここでは、事業所が「社会保険」に加入するための手続きと提出書類を確認したい。●手続きの流れ
強制適用事業所か任意適用事業所で、手続きの方法や提出書類、提出期日が異なってくる。強制適用事業所になるためには、会社設立から5日以内に必要書類を提出する必要があるかなりタイトなので、期限に遅れないようにしなければいけない。●必要書類
強制適用事業所の必要書類は、以下の通りだ。②健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届
③健康保険 被扶養者(異動)届
④健康保険・厚生年金保険 保険料口座振替納付申出書
⑤各種添付書類
また、任意適用事業所の必要書類は、以下の通りとなっている。
②健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届
③健康保険 被扶養者(異動)届
④健康保険・厚生年金保険 保険料口座振替納付申出書
⑤各種添付書類
従業員の「社会保険」加入・適用除外手続き
次に、従業員の「社会保険」加入・適用除外手続きについても押さえておきたい。●従業員の入社時(加入手続き)
「社会保険」の加入条件を満たす従業員が入社したときは、被保険者の資格取得手続きが必要となる。その従業員を雇用してから5日以内に、従業員の基礎年金番号、またはマイナンバーが記載されている「被保険者資格取得届」を、所轄の年金事務所、または所轄の事務センター、あるいは年金事務所に提出しなければならない。もし、会社が組合管掌健康保険(組合健保)に加入しているとしたら、健康保険組合での手続きを別途行う必要がある。
また、定年再雇用や70歳以上の従業員の厚生年金加入は、条件や必要書類が異なる。年金事務所などに詳細を確認し、必要な手続きを行うようにしたい。
●従業員の退職時(資格喪失手続き)
従業員が退職したときには、被保険者の資格喪失手続きを速やかにしなければいけない。期限は、従業員の退職から5日以内。書類の提出先は、「被保険者資格喪失届」を所轄の年金事務所、あるいは事務センターとなる。健康保険が全国健康保険協会(協会けんぽ)の場合には、健康保険証(扶養家族分を含む)を返却する必要もある。ちなみに、会社が組合管掌健康保険(組合健保)に加入している場合は、別途、健康保険組合での手続きを行うこととなる。
●社会保険の加入条件を満たさなくなった場合(資格喪失手続き)
パートやアルバイト従業員の勤務日数や労働時間が減少し、「社会保険」の加入条件を満たさなくなった場合には、被保険者の資格喪失手続きを行わなければいけない。この場合には、必ず本人への確認を怠らないことが重要だ。もし、それを行わずに勝手に手続きを進めてしまうと、労使間でトラブルを招きかねない。資格喪失手続きを行うにあたっては、従業員本人が「社会保険」の加入条件を満たさなくなったことを認識しているか、さらには加入継続の意思があるかを必ず確認することにしたい。●従業員が家族を被扶養者にする場合
パートやアルバイト従業員だと、配偶者や親族の扶養に入っているのではと思い込みがちだが、実際には反対のケースもあったりする。従業員が配偶者や親族を「社会保険」の扶養に入れる場合もあり得る。このケースでは、従業員に「健康保険 被扶養者(異動)届」と「国民年金第3号被保険者関係届」、被扶養者の戸籍謄(抄)本、あるいは住民票や収入要件確認のための書類などを提出してもらい、所轄の年金事務所または事務センターに届け出ることになる。「社会保険」の加入義務違反の罰則
最後は、「社会保険」に絡む罰則についても触れておきたい。強制適用事業所であるのに、従業員を恣意的に社会保険に加入させなかったりした場合、悪質と判断されると罰則の対象になり得る。具体的には、以下のいずれかが課される。
・過去2年前に遡及加入して未納分の社会保険料を納入
ただし、いきなり罰則となるわけではない。加入していない状態が続くと、まずは日本年金機構から加入状況に関する調査や加入指導が行われる。それを無視し続けると、強制加入手続きや罰則が適用されることとなる。
まとめ
2024年10月から、従業員数が「51~100人」の企業等で働くパート・アルバイトの方が新たに「社会保険」の適用対象となった。本来であれば、そのタイミングで経営陣や幹部への説明・報告・承認、現場責任者への案内・説明、対象となる従業員への周知を進めておくべきであるが、果たして実行できていたのであろうか。まだ、十分でないと判断するならば、この機会にぜひ再確認しておきたい。詳細に理解したいということであれば、厚生労働省が開設している「社会保険適用拡大特設サイト」も併せて参照されることをお勧めしたい。●厚生労働省:社会保険適用拡大特設サイト
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よくある質問
●「社会保険」に加入するための条件は?
「社会保険」に加入する従業員(パート・アルバイトを含む)の条件は以下の通りとなる。・週の所定労働時間が20時間以上(残業時間は含まない)
・2カ月を超える雇用の見込みがある
・月額賃金(所定)が8.8万円以上(年収約106万円)
・学生でない(定時制や夜学等を除く)
●月収8.8万円を一度でも超えた従業員は「社会保険」に加入しないといけない?
一時的に月収8.8万円を超えても、すぐには「社会保険」加入の必要はない。加入が必要となるのは、昇給や所定労働時間の増加など雇用条件の見直しにより、恒常的に月額8.8万円(年収106万円)を超えることが確定した場合のみです。また、通勤手当や残業代は計算には含まれない。- 1