正論ではあるものの、言い方があまりにもきつくて、相手を心理的に追い詰めてしまっている。それが、いわゆる「ロジハラ(ロジカルハラスメント)」だ。もしも上司が「ロジハラ」を行っている場合、部下のストレスは計り知れない。企業としても生産性の低下につながってしまうため、絶対に防止しなければならない。そこで本稿では「ロジハラ」の意味やリスク、「ロジハラ」をしがちな人の特徴、具体例を解説しつつ、企業としての対策、受けた時の対処法を紹介する。
部下を叱責す部下を

「ロジハラ」とは?

「ロジハラ(ロジカルハラスメント)」とは、正論を突きつけて相手を精神的に追い詰め、不快感を与える言動、嫌がらせを言う。職場における優越的な立場を基に起こることが多いため、パワハラの一種とされている。当然ながら、「ロジハラ」の受け手にとっては大きな負担となる。もし、職場でそのようなことが行われたらパワハラと認定されてしまうだけに、注意を要する。

●「ロジハラ」と正論の違い

正論を述べること自体は全く問題がない。むしろ、正しいことを論理的に説明することは、コミュニケーションにおいて不可欠と言って良い。ただ、いくら正論であったとしても、相手が置かれている状況や気持ちを一切無視して、一方的に押し付けてしまうのは「ロジハラ」に該当する。要は、自分の考えや意見を相手がどう受け止めているか、どんな心情なのかを思いやる姿勢があるか、ないかが正論と「ロジハラ」の違いとなってくる。

●「ロジハラ」が増えている背景

近年、「ロジハラ」が増加している背景には、働き手の変化が挙げられる。コロナ禍によってテレワークが普及したことで、メールやチャットなどでのテキストコミュニケーションが増加しているからだ。また、多様性の浸透も指摘できる。年齢や性別、国籍、障がいの有無など価値観の異なる人々と一緒に働く場面が増えている。そうした中で、言葉による意思表示の重要性が高まってきており、それが「ロジハラ」を引き起こす要因になっている。

「ロジハラ」が起こりやすい場面と具体例

次に、どのような場面で「ロジハラ」が起きやすいのか、具体例も併せて説明しよう。

●上司から部下への指導

上司から部下への指導・指摘で「ロジハラ」が起こりやすい。自分の方が、職場における役職や立場が上であると、どうしても優越感に根差した言動を取りがちだからである。こうした行為は、職場におけるコミュニケーションを悪化しかねない。

具体例
・「職場では君以外の全員が、何も問題なく業務を遂行している。いつまで人の手に頼るのか」と相手のプライドを傷つける発言をする
・「こんなこともできないのか」とささいな間違いをしつこく問い詰める

●ミスやトラブルの発生時

業務でミスやトラブルが発生した際に、原因を究明したり、対策を検討したりする段階でも「ロジハラ」が起こりやすい。なぜなら、どうしても相手の人格や能力を非難する言い方をしがちになるからだ。

具体例
・「また同じミスを繰り返しているのか。何度繰り返せば気が済むのか」、「こんなミスをするのはお前だけだ。他の皆はできているぞ」などと、攻撃的な言葉遣いを繰り返す

●会議やミーティング

会議やミーティングでは、往々にして意見が対立しがちだ。そうした場面で、「自分の意見は正しい」、「他者の意見は聞く価値もない」というスタンスで持論を展開するだけでは、「ロジハラ」となってしまう。そればかりか、誰も発言しなくなり、独創的なアイデアも生まれるはずがない。

具体例
・「その意見は全く的を外れている」、「お前の発言はいつも意味をなさない」などと断定的に批判する
・「論理的に考えれば、これ以外の選択肢はない」と一方的に結論付け、参加者を委縮させる

●取引先とのやり取り

取引先や下請け先とのやり取りでも「ロジハラ」が起こりやすい。発注者と受注者の間で上下関係が生まれてしまうからだ。過度なケースでは、下請法に違反することもあり得るので要注意だ。

具体例
・ささいなミスを殊更取り上げて、取引先や下請け先を疲弊させる
・自社にミスやトラブルの原因があっても一切認めず、相手側に責任を押し付けて来る

●情報共有時

情報を共有された際に、相手を不必要に追い詰めてしまうと「ロジハラ」となる可能性がある。テキストベースのやり取りでは温度感が伝わりにくかったり、正確性を重視するあまり細かな点を指摘してしまったりしがちだからだ。相手は嫌な思いをするくらいなら、報告や連絡をしたくなくなり、情報が共有されないことで重大な事態を招いてしまう可能性もある。

具体例
・「そんなことも知らなかったのか」、「どうしてできていないのか」などと批判的に言ってしまう。

「ロジハラ」をしがちな人の特徴

実は、「ロジハラ」をしがちな人には共通した特徴がある。それらを取り上げたい。

●正当性を主張したがる

「ロジハラ」をする人は、自分の正当性を強く主張する傾向がある。絶対的に正論であると思い込みがちだからだ。そのため、相手の立場や気持ちを無視し、自己中心的な言動をしてしまう。

●優位に立ちたがる

自分は相手よりも優位な立場にいると示しがちである点も共通している。言い換えれば、自分自身の優越感や自尊心を充足したいという欲求が強いのである。実は、こうした傾向は自分に自信がない人ほど顕著であったりする。弱みを隠したい、さとられたくないが故に、攻撃的な言動を取りがちとなる。

●想像力や共感性に欠ける

他者がどんな気持ちでいるのかを想像したり、共感したりする能力に欠けている点も指摘できる。「正しいことを言っただけだ」と捉え、相手がどう受け取るかを全く気にしなかい。その結果として、相手からの反発や怒りを買うこともあったりする。正論を言うにしても、その伝え方が問題となることをわきまえておきたい。

「ロジハラ」によるリスク

「ロジハラ」が職場内で発生すると、被害者はもちろん組織全体にもさまざまなリスクをもたらす。具体的に5つの項目について説明しよう。

●従業員のメンタルヘルス不調

「ロジハラ」が多発している職場では、社員が常に批判や否定にさらされ、ストレスや不安を抱えてしまうので、メンタルヘルスの不調・悪化につながりかねない。

●モチベーション低下

「ロジハラ」によって従業員のメンタルヘルスが悪化してしまうと、仕事へのモチベーションも低下しがちだ。症状が深刻化すると、うつ病などの精神疾患になる可能性もありえる。最悪の場合には、休職や離職へとつながりかねない。

●心理的安全性の欠如

「ロジハラ」の被害者はもちろんだが、周りの社員も「いつ自分も同じ嫌がらせを受けるかわからない」という恐怖や不安を抱いてしまうと気が気ではない。そうなると、自由に意見を述べたり、新しいアイデアを提案したりすることを躊躇してしまう。自分の意見を言えないとなると、職場への帰属意識は一気に低下するに違いない。

●雰囲気の悪化

「ロジハラ」は職場全体の雰囲気をも悪くしてしまう。相互のコミュニケーションが少なくなるし、信頼感を持ちにくくなるからだ。当然ながら、チームとしての協力関係も構築しにくくなってしまう。

●生産性低下

「ロジハラ」が起きやすい職場だと、従業員一人ひとりの仕事に対する意欲も低いし、チームワークも生まれにくい。パフォーマンスや生産性が低下し、組織がますます脆弱化してしまうと言って良い。

「ロジハラ」をしないためのポイント

実は「ロジハラ」が厄介なのは、誰もが被害者にも加害者にもなり得ることだ。それだけにすべての従業員が「ロジハラ」をしないよう意識して行動しなければならない。3つのポイントを紹介しよう。

●アサーティブコミュニケーションを心掛ける

アサーティブコミュニケーションとは、相手を尊重し、対等な立場で自分の考えや気持ちを伝えていくコミュニケーション手法を言う。これを理解することで、自分の意見をただ単に押し付けるのは良くないと考えることができるようになるし、チームのメンバーにも心理的安全性が醸成されやすくなる。

●相手の発言を受け止める

相手の発言にしっかりと耳を傾け、受け止めることも重要だ。いわゆる、傾聴を心がけたい。まずは、日頃から相手の話を注意深く聞くことができているかを振り返ってみてはどうだろうか。

●言葉遣いに気をつける

言葉遣いに配慮することも大切となる。自分の考えや気持ちを相手に伝えることは不可欠だが、それがストレートでありすぎたり、過度な言い方になったりしていないだろうか。他に人がいる中で特定の人に厳しく言い放っていないか。そうした点には常に気を配るようにしなくてはいけない。

企業が行うべき「ロジハラ」対策

ここでは、企業が実践すべき「ロジハラ」対策を取り上げたい。

●社内での方針の明確化と周知

まずは、企業として「ロジハラ」にどう対処していくのかという方針を策定し、それを就業規則や労使協定、研修などを通して社内に周知徹底していく必要がある。具体的には、「ロジハラ」の定義や発生した際の対応方法、加害者の処分などを明らかにしたい。

●ハラスメントやコーチングなどの研修の実施

ハラスメントやコーチングなどの研修を行うことも「ロジハラ」対策には有効だ。「ロジハラ」とは何か、どのような行為が該当するのかを理解していなければ、無意識のうちに正論を振りかざしてしまいかねない。また、「こうした行動が『ロジハラ』に該当する」と理解できていれば、自分の行動を見直す良いきっかけにもなる。健全な職場環境づくりのためにも、管理職向けだけでなく全従業員を対象とした研修をぜひ実施してもらいたい。

●「ロジハラ」をする可能性がある人の特定

「ロジハラ」をする人には共通した特徴や傾向が見られる。具体的には、自分の正しさをアピールしがち、他者に対して優位性を保ちたい、他者になかなか共感しない、などが挙げられる。企業としては、そうした兆候が伺える人物を特定し、本人に適切なトレーニングやカウンセリングを受けてもらえるよう推奨する必要がある。

●相談窓口の設置

「ロジハラ」の未然防止や発生した際の迅速な対応に向けて、相談窓口の設置も検討したい施策だ。「ロジハラ」は時間の経過とともに、事態がますます深刻化してしまう。相談窓口があれば、被害者も問題を一人で抱え込まずに済む。該当する行為を目撃した社員も、声を発することができるだろう。会社としても事態を早めに把握することができれば、対応もしやすくなってくる。留意しなければいけないのは、プライバシーの保護と迅速かつ的確な対応だ。自社でノウハウに自信がないのであれば、外部機関と連携するのも良い選択と言えよう。

「ロジハラ」を受けた時の対処法

「ロジハラ」を受けた時に、ただ単に我慢するのは良くない。では、どうしたら良いのか。対処法を説明したい。

●相手との距離をとる

一つは、「ロジハラ」をする人との距離を取ることだ。会話も必要最低限に留めたい。無理に関係を維持する必要はないと割り切る必要がある。

●相手にハッキリ伝える

二つ目は、相手に「それは『ロジハラ』に該当する言動だ」と明確に伝えることだ。意外と加害者は自覚がなかったりする。「あなたの発言に対して私はこういう感情や気持ちを抱いている」とアピールすることで、不当な行為であると認識させられる。

●上司や人事、相談窓口へ相談する

最も効果が期待できるのが、「ロジハラ」をする人の上司や人事、相談窓口に相談することだ。相談するとなると勇気が必要になるかもしれない。だが、いつまでも自分一人で悩みを抱え込んでも何も解決されないため、誰かに打ち明けてみると良いだろう。

まとめ

仕事を進める上では、ロジカルであることは重要だ。しかし、相手の心理状態を度外視して正論を突きつけ、苦痛を与えてしまうことは良くない。こうした「ロジハラ」が社内で起きてしまうと、社員一人ひとりの勤労意欲が低下するだけでなく、チームとしての一体感も保てなくなってしまう。企業としては、「ロジハラ」を未然に防ぐ努力が欠かせない。想定される施策には、相談窓口の設置や定期的な研修の実施、指針の策定などさまざま挙げられる。優先順位を決めて、必要な手立てを確実に推進していってもらいたい。



よくある質問

●「ロジハラ」の具体例は?


「ロジハラ」は以下のようなケースで起きやすい。
・上司から部下への指導で、相手のプライドを傷つける発言をしたり、ささいな間違いをしつこく問い詰める
・ミスやトラブルの発生時に攻撃的な言葉遣いで原因を追究する
・会議やミーティング時に、他者の意見を断定的に批判し、一方的に結論付ける
・取引先や下請けとのやり取りで、ささいなミスを殊更取り上げて相手を疲弊させたり、自社のミスを一切認めない
・情報共有時に、正確性を重視するあまり細かな点を指摘して、相手を不必要に追い詰めてしまう
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