日本骨髄バンクによれば、血液疾患により骨髄移植を待っている患者さんは毎年約2,000人近くいるそうです。骨髄移植などのドナーが見つかる確率は、親族でない場合、数百~数万分の1程度。その確率で選ばれたドナーのうち、4人に1人が“仕事”を理由に辞退しているのです。これを受け、厚生労働省も「ドナー休暇」について「働き方・休み方改善ポータルサイト」で紹介しています。そこで、今回は、ドナー休暇について紹介します。
「ドナー休暇」とは? ドナーに選ばれても4人に1人が仕事を理由に辞退とのデータも

仕事を理由に辞退するのはなぜか

今回主な話題にしているのは、骨髄移植のドナーです。骨髄移植は生きている間しか行うことができず、ドナーに登録できる年齢は「18歳~54歳」と、働いている方も多い層であることがわかります。4人1人が仕事を理由に辞退している理由として、ドナーに選ばれてから提供までの期間が長く、病院へ通う回数も複数回になることが挙げられます。

ドナー登録とドナーに選ばれてから提供までは、以下のような流れで行われます。
造血幹細胞提供までの流れ

この流れを見ると、ドナーに選ばれてからは何度も病院に行く必要があることがお分かりいただけるでしょう。当然、病院へ通うのは平日の日中です。前述のドナー登録できる層を思い出していただければ、使える休暇がなかったり、職場の理解がなかったりすることで、辞退する人が出てしまうのも理解できます。

ドナー休暇を企業が導入するメリット

「ドナー休暇」が制度としてあれば、企業がそれを後押ししているというメッセージになります。周囲の理解も得やすく、該当従業員の安心感にも繋がります。

また、企業の社会貢献にも繋がります。実際に、導入した企業の声として、「従業員の自己実現や安心感の向上に繋げるため」、「東日本大震災を機にボランティア休暇などの社会貢献を検討した一環で導入」などが紹介されています。

最近では、経済産業省および東京証券取引所が行う「健康経営銘柄」の選定のために実施されている「健康経営度調査」の中に、「骨髄等移植のドナー休暇制度」が追加され、健康経営指標にも位置付けられるようになりました。

ドナー休暇制度の導入方法

ドナーに選ばれると、3~4ヵ月に10日間程度、病院へ通う必要があります。年次有給休暇だけでは病院へ通いきれない方が出る可能性もありますし、かといって、ドナーに選ばれたときのため10日間の年次有給休暇を残しておくというのは、年次有給休暇の本来の目的からは外れています。企業に課せられている「年次有給休暇の年5日取得義務」も考慮すると、年次有給休暇は使えるときに使ってもらう方が良いわけです。

さて、ドナー休暇制度の導入ですが、単純に「ドナー休暇」のように用途が限られた専用の休暇を設けるのも良いですが、「ボランティア休暇」や「特別休暇」のような既存休暇の日数を増加したり、取得理由に「ドナーとしての通院・入院」を追加したりするだけでも導入は可能です。

新たに休暇日数を付与することが難しければ、「積立年休制度」を設けることも有効です。積立年休とは、有効期限が切れた年次有給休暇の残日数を、消滅させずに別休暇として使えるようにする制度です。有効期限が切れた年次有給休暇は「会社独自の休暇」の扱いになりますので、通常の年次有給休暇とは異なり、取得日数や取得理由、有効期限を会社が独自に定められます。元々取得されるはずだった休暇を特別休暇にしただけですので、休暇日数を増やすことへ抵抗がある場合には、導入ハードルが下がります。

また、すべての日数をドナー休暇等で取得させるのが難しければ、「ドナー休暇等は上限5日、足りなければ年次有給休暇を取得」のような部分導入の制度でも有用です。

さらに、ドナー休暇が利用された場合に企業に助成金を出している自治体もあります。例えば、弊所所在の東京都千代田区では、骨髄などの提供のための通院・入院1日につき1万円の助成が事業主に対して行われます。制度の有無や助成内容は自治体によって異なりますので、事業所所在地の情報を確認してみることを推奨します。

いかがでしたか。ドナー休暇制度を導入した企業では、「実際にドナーに選ばれた従業員から相談があって制度の導入に至った」という事例も少なくないようです。制度導入に至らずとも、こういった事情を抱える従業員がいるかもしれないと知る機会になれば幸いです。
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