「自律分散型組織(DAO)」とは?
「自律分散型組織(Decentralized Autonomous Organization :DAO)」とは、各従業員が自らの意思決定による自律的な活動で運営される組織のことである。経営層や管理者などの指示によって動くピラミッド型の「管理型組織」とは異なり、役職などの上下関係がないフラットな組織のことを指す。「自律分散型組織(DAO)」が注目される背景
テクノロジーの進化やグローバル化、少子高齢化やコロナ禍など、不確実性が高く、社会や企業の在り方が大きく変わる「VUCA」の時代では、迅速な意思決定と変化に対応できる柔軟性が求められる。その中で、メンバー各自が権限を持つ「自律分散型組織(DAO)」は、従来の「管理型組織」のように上司の指示を待つ必要がなく、一人ひとりがよりスピーディーかつ効率的に組織として最適な行動を選択できることから、変化に強く企業価値創出を続けられる組織の形として注目が高まっている。●Web3.0分野における「DAO」の注目度の高まり
2021年以降はブロックチェーン技術の発達により、特にインターネット業界において「DAO」は「分散型自律組織」と訳され、大きな注目を集めている。ブロックチェーンとは、多数のコンピューターで情報を共有・管理する技術で、「取引履歴を消すことができない」、「改ざんできない」、「発生した取引のすべてを記録し共有できる」といった特徴がある。これにより中央管理者がいなくても安全にデータを記録できるようになった仕組みを「DAO」と呼ぶのだ。このブロックチェーンの技術を基盤に、あらかじめ設定されたルールに従って契約を実行する「スマートコントラクト」が生まれ、また暗号資産(仮想通貨)の技術により、組織の資金管理や報酬の分配も容易になった。さらに、NFT(非代替性トークン)という、デジタル資産の所有権を証明する技術も、DAOの運営に活用されている。
こうしたテクノロジー技術の組み合わせにより、誰でも簡単にDAOを作ったり参加したりできるようになり、いわゆるWeb3.0というインターネット技術の進化に伴い、DAOが新しい組織の在り方として注目されている。
「自律分散型組織(DAO)」の種類
「自律分散型組織(DAO)」のあり方にはいくつかの種類がある。その中でも、代表的な「ティール組織」、「ホラクラシー組織」、「アジャイル組織」を紹介する。●ティール組織
「自律分散型組織(DAO)」には、フレデリック・ラルー氏が提唱する「ティール組織」という組織モデルがある。「ティール組織」には「上司・リーダー」や「部下・メンバー」といった階層はなく、各メンバーが企業や部署の目的をどのように達成するのかを自分で考え、動く。組織進化の最終形態といわれている。「ティール組織」を上手に運営するためには、各メンバーが、自主性を持って経営に参画していることを意識しつつ、他メンバーの考えを尊重することが重要となる。同時に、組織(企業・部署)が何を目指しているかもしっかりと認識しておく必要がある。
●ホラクラシー組織
「ティール組織」の一種。ティール組織同様、上司や部下といった階層がなく、役割によって関連づいたグループがそれぞれ意思決定権を持ち自律的に活動する組織形態である。このグループを「サークル」といい、「サークル」の結成や解散のルールを定めた「ホラクラシー文書」に従って活動を行うのが特徴。組織全体にヒエラルキー構造はないものの、「サークル」にはまとめ役となる管理者が設けられる。●アジャイル組織
「アジャイル型」とは、もともとシステム開発における1つの手法であり、小規模単位で開発とテストを繰り返すことを指す。「アジャイル組織」は、このアジャイル開発を実行し、改善を続ける組織形態のことである。それぞれに意思決定権のある小規模のチームの集合体であり、機動性を重視しながら開発とテスト、軌道修正を繰り返していく。チーム間は対等な関係であり、上下関係はない。問題の解決・改善もチーム単位で行えるため、柔軟性がある経営も可能となる。「自律分散型組織(DAO)」のメリット
「自律分散型組織(DAO)」の主なメリットは以下の3点があげられる。・変化に対応しやすくなる
・モチベーション、従業員エンゲージメントが向上する
・業務効率化につながる
・個性が発揮しやすくなる
・責任転嫁が減る
●変化に対応しやすくなる
「自律分散型組織(DAO)」では、個人やチームに意思決定権が委ねられている。そのため、現場の声を組織運営に活かしやすい。ヒエラルキーによる圧力もないため、各メンバーの能力を効率的に発揮できる。それぞれが自律的かつスピーディーに動けることで、変化が激しい時代であっても、その時々の時流に合った企業経営に柔軟にシフトしていくことができる点は大きなメリットだ。●モチベーション、従業員エンゲージメントが向上する
「自律分散型組織(DAO)」では、各メンバーに権限や責任が与えられているため、それぞれが企業経営への参加意識を強く持つことができる。同時に、「自分は自社に必要な人材だ」という自己有用感を持ちやすく、仕事に対してのモチベーション向上が期待できる。また、「自律分散型組織(DAO)」では、各自の意見が企業の経営にダイレクトに伝わる。自分の意見が取り入れられるところを見て、「自社に貢献したい」という従業員も増えるだろう。よって、従業員エンゲージメントの向上というメリットもある。
●業務効率化につながる
従来の管理型組織では、経営陣が会社の方針を決定し、それを管理職やチームリーダー層が具体的な業務に落とし込み、メンバーに指示を出すという方法で仕事を行っていた。しかし、この方法では、方針決定から実際の業務までの時間がかかるというデメリットがあった。また、メンバーが改善点に気が付いた場合も、直属の上司を通じて報告し、それを上司が経営陣に伝えた後、具体的に改善に動くというように、非常に時間と手間がかかるという問題があった。「自律分散型組織(DAO)」では、メンバーの意見がダイレクトに業務や経営の方針に反映されるため、幾度もの報告や承認は不要であり、誰もが業務改善を進めることができる。仕事の機会損失の懸念もなくなり、業務効率化の面からも「自律分散型組織(DAO)」は非常にメリットが大きいといえる。
●個性が発揮しやすくなる
「自律分散型組織(DAO)」の大きな利点の一つは、個性や強みを最大限に活かせることだ。従来の階層型組織では、上司の指示を優先し、個人の創造性を抑制するケースも少なくない。一方で「自律分散型組織(DAO)」では、それぞれが自由に発想し、行動できるため、多様な視点やアプローチが生まれやすくなる。●責任転嫁が減る
それぞれが意思決定権を持ち、責任範囲が明確なため、自らの行動に責任を持つ文化が醸成される。上下の関係がある階層型の組織にありがちな「上司の指示だから」というような責任転嫁の姿勢が減少し、より主体的な意思決定が行われるようになる。「自律分散型組織(DAO)」のデメリット
「自律分散型組織(DAO)」には、従業員のモチベーションアップや業務効率化のようなメリットがあるが、下記のようなデメリットもある。メリットと同様に理解しておきたい。・高い自己管理能力が求められる
・情報共有がおろそかになりがち
●高い自己管理能力が求められる
「自律分散型組織(DAO)」には、管理型組織とは異なり、上司やリーダーが存在しない。よって、各自が自らの行動を自己管理する必要がある。従業員の自己管理能力が低いと、企業運営自体が滞る恐れがあるため注意が必要だ。従業員の自己管理能力が低下する可能性も考えて、チーム単位で業務の進捗状況の確認をする、経営陣と従業員で面談し、業務上の問題がないか等を確認する、などの対策も考えておきたい。
●情報共有がおろそかになりがち
「自律分散型組織(DAO)」は、各メンバーに権限が与えられているため、上司の承認を得ることなく自分の意志で動くことも可能だ。しかし、それぞれが自らの意思決定により自律的に行動するため、自分の抱えている仕事を部署で共有するという「情報共有」がおろそかになりがちという問題がある。特に、取引先とのトラブルが起きても、他のメンバーが気付きにくいといった点は企業経営のリスクになる恐れがある。大きな問題になる前に、困りごとや問題点を相談できるチームミーティングの機会を設けるなど、修正できる仕組みづくりを考えておく必要がある。
●リーダーシップがなくなる
「自律分散型組織(DAO)」では、従来の階層型組織で見られるようなリーダーシップが機能しにくくなる可能性がある。誰が最終決定を下すのかが不明確となり、組織全体を一つの方向に導くことが難しくなるのだ。また、メンバー間で意見の対立が生じた際に、それを調整する人が生まれづらい。状況に応じて柔軟にリーダーシップを発揮できる仕組みを検討することも重要と言える。●意思決定に時間がかかる
ピラミッド型の管理型組織であれば、トップの即断で決められるような事柄でも、「自律分散型組織(DAO)」では、全員の意見を聞き、調整を行う必要があるため、意思決定に時間がかかってしまい場合がある。特に、大規模な組織や複雑な問題に直面した場合、この傾向が顕著で、市場環境が急速に変化する状況下では、この意思決定の遅さが競争力の低下につながる可能性がある。そのため、重要度や緊急度に応じた意思決定プロセスの設計が求められる。●組織としてのリスク管理が難しい
それぞれが独断で行動するため、組織全体としてのリスク管理が難しいのも、「自律分散型組織(DAO)」のデメリットだ。管理者がチェックして承認するといったプロセスを踏まないため、エラーやミスを見過ごしてしまう恐れが大きくなる。そのため、定期的な会議やリスク管理の担当を設置するなどの対策を取る必要がある。「自律分散型組織(DAO)」の作り方
「自律分散型組織(DAO)」を構築する際は、単に上司・部下の枠組みを外し、各メンバーに権限を与えるだけでは上手くいかない。適切な「ガバナンス(統制)」が必要となる。どのような点に気を付けて構築すればいいのかを確認する。●MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)の浸透と実践
各メンバーに権限があるといっても、自社が何を目指しているのかが理解できていないと、業績や企業価値の向上につながらない恐れがある。そのため「自律分散型組織(DAO)」の構築には、MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)の策定と浸透が不可欠である。MVV浸透のためには、経営者とのミーティングなど、経営者の声を従業員に直接伝える機会を設けることも考えたい。また、浸透させるだけではなく、各自が自社のMVVに共感し、何をすべきか自ら考え、それを実践していくことが重要である。
●目標と成果指標(OKR)の設定
「自律分散型組織(DAO)」では、上司から目標を与えられて業務を行うわけではないため、従業員は自らの目標達成度や成果が分かりにくいといった問題もある。「自律分散型組織(DAO)」を構築する際は、目標の設定方法や成果指標(OKR)も同時に整備しておかなければ、各従業員が同じ方向や目標に向かって仕事ができないという問題が生じる恐れがある。成果発表会の開催など、目標と成果をはっきりさせる仕組みづくりを行うことが有効だ。●積極的な情報共有
「自律分散型組織(DAO)」のデメリットの一つに、上司・部下といった枠組みがなく、各自が自らの意思決定で行動するため、報連相の機会が少なく、メンバーがどのような仕事をしているかが見えにくいという点がある。このような状況が発生するのを防ぐために、組織やチーム内での積極的な情報共有を心掛けたい。ランチミーティングや社内SNS等の導入など、従業員同士が積極的に意見交換できる場の設定を検討すべきだろう。「自律分散型組織(DAO)」導入のポイント
実際に「自律分散型組織(DAO)」を導入する際に、気をつけておくべきポイントを解説しよう。●部分的な導入も検討する
「自律分散型組織(DAO)」は、段階的に導入していくことが賢明と言える。組織全体を一気に移行するのではなく、原則や仕組みの設計を小規模で試して、問題点や改善点を見出しながら進めていくと良いだろう。そうすれば、従業員が新しい働き方に慣れていく時間も確保しやすい。●ルールを整備する
意思決定のプロセス、意見対立の解決プロセス、評価システムなど、組織運営に必要な基本的なルールを明確にすることが重要だ。案件の重要度や影響範囲に応じて、誰がどの範囲まで決定できるかを明確化し、全員に公平で透明性のあるルールを整備したい。●情報共有の仕組みを作る
「自律分散型組織(DAO)」を機能させるには、スムーズな情報共有が欠かせない。情報の共有や一元化ができる仕組みを作り、組織全体の透明性を高め、メンバー間の信頼関係を構築することが導入成功の決め手となり得る。具体的な施策としては、定期的なミーティングや進捗状況を可視化するためのダッシュボードの活用、社内SNSを活用した協力体制の構築などが挙がる。「自律分散型組織(DAO)」の導入事例
最後に「自律分散型組織(DAO)」を導入する企業の事例を簡単に紹介していく。●ビットコイン
ブロックチェーン技術によって仮想通貨の取引を運営・管理するビットコインは、世界初の「自律分散型組織(DAO)」の事例として知られている。ブロックチェーンの技術を活用して、仮想通貨の管理や発行、不正のチェックをすることで、中央管理者を置くことなく、構成する投資家のみで運営を成り立たせている。●Gaudiy
ブロックチェーンの技術とエンタメカルチャーを組み合わせたビジネスを展開するGaudiyは、2022年から運用する「Gaudiy Protocol」というプロトコルに則って、誰もが意思決定ができるという仕組みを導入している。ただし、完全な「自律分散型組織DAO」になると、イノベーションが阻害されるというデメリットを踏まえ、一部に中央集権制を残し、そのバランスの取れた組織の確立を目指している。まとめ
「自律分散型組織(DAO)」とは、従来の管理型組織とは異なり、メンバー一人ひとりが意思決定権を持ち、自律的に動くフラットな個人の集合体である。従業員の意見が直接経営方針に反映されるため、業務改善や開発などが柔軟に、そしてスピーディーに行えるというのが大きなメリットだ。不確実性の高いVUCA時代において、時流に合った経営を行っていきたい企業ならば注目したい組織形態といえる。また、各従業員に権限があることで、それぞれが「自分も経営に参加している」といった意識を持ちやすく、モチベーションアップや従業員エンゲージメントの向上につながる点も大きなメリットである。ただし、上司やリーダーといった立場から管理されることがないため、情報共有の遅れが発生しやすく、各従業員には高い自己管理能力が求められるところも注意点といえるだろう。「自律分散型組織(DAO)」を構築する際は、MVVの策定・浸透はもちろん、こうしたデメリット部分の対策についてもしっかり考えておく必要がある。
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