失業や休業などの理由で就労できない労働者の生活を守るとともに、再就職を促進するための制度として位置づけられている「雇用保険」。実は、その加入対象となるには、一定の条件を満たす必要がある。また、雇用保険は失業手当だけを指すわけでもない。他にもさまざまな種類の給付がある。そこで、今回は人事担当者であっても意外と知っているようでいて知らなかったりする「雇用保険」について、さまざまな角度から解説していく。給付の種類や加入条件、保険料の計算方法などは本記事を通じてぜひ理解を深めていただきたい。
「雇用保険」とは? 給付の種類や加入条件、保険料の計算方法を解説

「雇用保険」とは

最初に「雇用保険」の定義や目的、メリットを解説していこう。

●「雇用保険」とは

「雇用保険」とは、失業や休業などによって労働者が働くことができなくなった時に、一定期間に渡って生活や雇用をサポートするための公的保険である。労働者はその給付金によって、何らかの資格を取得したり、能力を高めることができたりなど、再就職の準備を安心して進めることが可能となる。雇用保険制度への加入は事業者の義務であり、実際の保険料も労働者と事業者で負担しなければいけない。

●「雇用保険」の目的

「雇用保険」の目的は、労働者の生活維持である。失業した場合はもちろん、育児休業や介護休業、定年後の再雇用などによってどうしても収入が減少してしまう。それをサポートすることが、「雇用保険」の役割となる。さらには、事業主に対して雇用を継続するために助成金や給付金が支給されることもある。具体的には、特定求職者雇用開発助成金やキャリアアップ助成金、トライアル奨励金などが挙げられる。

●「雇用保険」のメリット

「雇用保険」に加入することで、色々な給付を受けることが可能となる。特に、失業した場合には、基本手当(失業手当)を受け取ることができるのは大きなメリットだ。また、教育訓練給付を利用すれば、能力開発やキャリア形成の支援も得られるので再就職の機会を増やすこともできる。

● 社会保険との違い

「雇用保険」は、失業した労働者の生活安定や再就職支援を目的としている。これに対して、社会保険は労働者およびその家族の生活保障を目的としている。広義の意味では、「雇用保険」は社会保険の一つとなる。ただし、狭義の意味では健康保険や厚生年金保険、介護保険が社会保険と位置づけられ、「雇用保険」と労災保険は労働保険と呼ばれている。前者は加入に際して一定の月額基準があるのに対して、後者はそれが設けられていないなど、条件が異なっている。

「雇用保険」の給付の種類

次に、「雇用保険」の給付の種類について触れたい。4つに大別できる。

●求職者給付

自己都合により退職し失業した場合に、生活の安定と再就職に向けて一定期間に渡って給付金を支給できる。代表的なものとして、「基本手当」と「技能習得手当」がある。

「基本手当」は一般的には失業手当と呼ばれている。期間は、雇用保険料を払っていた期間や離職した理由によって異なり、90日~360日。離職者本人がハローワークに来所して求職活動を行うことも義務付けられている。

一方、「技能習得手当」は基本手当を受給する資格を持っている離職者が、ハローワークや地方運輸局長の指示を受けて、公共職業訓練などを受けた際に支給される手当を言う。これは、基本手当とは別で支給されることになっている。

●教育訓練給付制度

これは、労働者がキャリアアップやスキルアップを意図して、厚生労働大臣が指定した教育訓練プログラムを受講した際に、要した学費の一部が支給される制度となる。「雇用保険」の加入期間が1年以上であれば(訓練の内容によっては2年以上のケースもある)対象とされる。この教育訓練給付金には、一般教育訓練給付金や特定一般教育訓練給付金など、さまざまな種類がある。それぞれで受給条件が異なるので管轄のハローワークで確認するようにしたい。

●就職促進給付

就職促進給付は、求職者の早期の再就職を支援することを目的とした「雇用保険」の給付制度だ。失業手当を受給している離職者が新たに就職した際に支給される。具体的には、就業促進手当や移転費、休職活動支援費などがある。このうち就業促進手当には、再就職手当や就業手当、就業促進定着手当、常用就職支度手当などがある。

●雇用継続給付

雇用継続給付とは、労働者の就労継続支援を目的として支給される「雇用保険」の給付制度だ。具体的には、60歳以上の労働者が継続的に働くことを支援する高年齢雇用継続基本給付金や育児休業中の労働者に支給される育児休業給付金、要介護状態の家族を介護するために休業する労働者に支給される介護休業給付金などがある。

「雇用保険」の加入条件

続いて、「雇用保険」の加入条件を見ていこう。

●雇用保険の適用事業所

たとえ、1人であっても従業員を雇用していたら、「雇用保険」の適用事業所となる。それは、法人であっても個人事業主であっても変わらない。強制的に適用されるので、必ず「雇用保険」の加入手続きを行い、保険料を納付する必要がある。

また、「雇用保険」と労災保険は労働保険と総称されるが、一元適用事業か二元適用事業かによって申告や納付の段取りが異なってくる。前者の場合には、申告や保険料の納付をまとめて行えるが、後者だとそれぞれを個別で行う必要がある。建設業や農林水産業は、一般的に後者とされている。

●雇用保険の加入対象者

「雇用保険」に加入するためには2つの条件を満たしていなければいけない。1つ目が1週間の所定労働時間(雇用契約上の労働時間)が20時間を超えること。そのため、一時的に超えたとしても要件を満たすことにはならない。

そして、もう1つが31日以上の雇用が見込まれることである。この2つをクリアできていれば、正社員はもちろんパートやアルバイトでも対象となる。また、国籍も問わない。ただし、学生の場合は定時制や通信教育であれば加入対象となるものの、高等学校や大学生は対象外となるので注意を要する。

「加入対象」とならないケース

以下の方は、「雇用保険」の加入対象とはならないことも覚えておこう。

・法人の代表取締役や取締役
・公務員
・個人事業主
・昼間学生
・同居親族
・家事使用人

さらには、1週間の所定労働時間が20時間未満の労働者や雇用期間が31日未満の労働者も対象外となる。

「雇用保険料」の計算方法

ここからは、「雇用保険料」の計算方法や計算例を紹介したい。

●「雇用保険料」の計算方法

「雇用保険料」の計算方法は以下の通りである。

計算式としては、従業員負担の雇用保険料=雇用保険の対象となる賃金(給与額、あるいは賞与額)×従業員負担の雇用保険料率

この場合の賃金は、税金や社会保険料などを控除する前の金額を指しており、残業手当や通勤手当は含まれるが、出張旅費や持株奨励金などは含まれない。

一方、雇用保険料率は従業員の給与や賞与にかかる雇用保険料の割合を意味しており、定期的に見直されている。料率に変更がある場合には、毎年4月1日から施行されることになっている。ちなみに、令和6年度の雇用保険料率は、労働者負担が0.6%、雇用主負担が0.95%となっている。当然ながら、来年度以降もは変わる可能性が高いため、その都度、厚生労働省や都道府県労働局、ハローワークなどのサイトを通じて確認するようにしたい。

●「雇用保険料」の計算例

例えば、従業員Aさんが基本給20万円、役職手当5万円、資格手当1万円、残業手当5万円、精勤手当5000円、通勤手当1万円、欠勤控除1万円とした場合、支給合計額は31万5000円。従業員負担の雇用保険料率は6/1000なので、雇用保険料は1890円となる。

「雇用保険」の手続きについて

最後に、「雇用保険」の手続きについて説明したい。

●入社時の手続き・必要な書類

まず、従業員を雇用したら管轄のハローワークに雇用保険被保険者資格取得届を提出しなければいけない。提出期限としては、雇用した日の翌月10日までとされている。その際には、書類に被保険者番号や個人番号、給与、職種、1週間の所定労働時間などを記入する必要がある。

届け出が完了すると、ハローワークから雇用保険被保険者資格取得等確認通知書(被保険者通知用)と雇用保険被保険者証が交付されるので、それらを従業員に渡すようにしたい。

●退職時の手続き・必要な書類

従業員が退職する際にも、「雇用保険」の手続きが必要となる。まずは、退職者本人に雇用保険被保険者離職票が必要かどうかを確認しよう。もし、必要となったら管轄のハローワークに雇用保険被保険者資格喪失届と雇用保険被保険者離職証明書を提出する。提出の期限は、従業員の退職日の翌々日から10日以内となっている。その際には、賃金台帳や出勤簿、退職届などを一緒に提出し、ハローワーク側の確認をもらう必要がある。

この審査が完了した後は、ハローワークから雇用保険被保険者離職票が発行される。3枚つづりとなっているので、離職票の1と2を退職者本人に渡し、控えを保管しておくようにしなければいけない。

●受給までの流れ

「雇用保険」の受給までの具体的な流れは以下の通りだ。

▼離職
離職後、雇用保険被保険者離職票が届く。
▼受給資格の決定
管轄のハローワークを訪ね、求職の申込みを行うとともに雇用保険被保険者離職票を提出する。
▼雇用保険受給者初回説明会
指定期日に参加する。
▼失業認定
原則として、4週間に1度のペースで失業を認定している。失業認定の期間中に原則として2回以上、求職活動を行う。
▼受給
失業の認定日から通常は5営業日で、指定した金融機関の預金口座に基本手当が振り込まれる。

まとめ

「雇用保険」は労働者が失業した際の生活や雇用の安定を図るだけでなく、再就職に向けたサポートを行う重要な制度だ。加入条件を満たす労働者に関しては、必ず被保険者となった旨をハローワークに届け出なければいけない。万が一、この届け出が適正に行われていなければ、労働者は不利益を被ってしまうので注意を要する。

また、今すぐではないが「雇用保険」の対象者を拡大する動きがあることも、人事としては把握しておく必要がある。2024年5月に雇用保険の加入対象を、1週間の労働時間が現行の「20時間以上」から「10時間以上」の労働者に拡大することを盛り込んだ改正雇用保険法が、参議院本会議で可決・成立した。これによって、2028年10月からはパートやアルバイトなど短時間勤務で働く人たちの中でも、多くの方が失業給付や育児休業給付などを受け取れるようになる。こうした政策の移り変わりもしっかりとウォッチしておきたい。
  • 1

この記事にリアクションをお願いします!