家庭の子育てで「褒めて育てる」か「叱って育てる」かは、万人が大いに悩むポイントだろう。これは、会社内で上司が部下を指導・教育する場合でも同様である。読者は、どちらのタイプだろうか? あるいは、どちらが正解だと思われるだろうか? 今回は、「褒める」、「叱る」の功罪を考えながら、「褒めて育てるか」、「叱って育てるか」を考えてみよう。
上司は部下を「褒めて育てる」べきか? 「叱って育てる」べきか?

「褒めて育てる」メリット・デメリットは

まず、部下を褒めてばかりいるとどうなるだろうか? 一見、部下は心地よい環境を享受し、モチベーションは高まるばかりで、いいことずくめのように思える。しかし、冷静に考えると問題が浮かび上がる。

ひとつは、褒められ続けることで「自分の行動は正しい」と思い込んでしまうことである。そうすると、その行動が正しくなかった場合にトラブルが発生してしまうことになる。それでも自分の行動を正当化するので、さらにトラブルが拡大する。これが、仕事の出来不出来にとどまるうちはいいが、社外との取引にまで及ぶと会社の信用問題になってくる。

二つ目の問題は、褒められることを目的にした行動をとるようになってしまうことである。そうすると、失敗する確率の低い仕事しか取り組まなくなり、困難な仕事や新しい仕事には及び腰となる。結果的に失敗することが僅少となるのはいいが、積極的な失敗で自己成長する機会を失ってしまう。子どもの教育でも同じことが言え、脳科学の世界でも「子どもを褒めすぎると失敗を恐れる大人になる」というのが定説のようだ。

「叱って育てる」ことによる本人や社内への影響は

褒めるのとは正反対に叱ってばかりいるとどうなるか? これにも褒め続けること以上の問題を内包する。

まずは、部下のモチベーションが低下してしまうことである。飴玉のひとつも与えられず、常に鞭打たれていると、誰であっても心身ともに疲弊する。上司たる者、部下の疲弊アラームを常に感知して、指導・教育をフレキシブルに変えていかなければならないはずである。

しかし、叱ってばかりの上司はただ厳しくすればいいと思っているため、部下の疲弊アラームに気づかない。そのため、部下はどんどん弱っていき、最終的には仕事が出来ない状態に陥ってしまう。つまり、休職や、最悪の場合は退職してしまうのである。

二つ目は、叱られてばかりでいると、部下はそれを恐れて仕事の失敗やミスを隠蔽するようになってしまう。叱られることが好きな人はいないから、叱られないためには、失敗しないか失敗を隠すしかない。最終的には、失敗は誰でもするから、失敗を隠す以外なくなるのである。こうなってしまえば、会社としては由々しき事態に直面することになる。

さらに三つ目は、組織全体の雰囲気が悪くなることである。部下も鈍感ではないから、叱ってばかりの上司の下で働く部下は、常に上司の顔色を伺いながら仕事をするようになる。また、部下にしてみれば、周りの同僚が叱られているのを見るのも気が滅入るものである。そうして、職場全体が疑心暗鬼に満ちてしまい、澱んだ空気が漂うようになる。時には、責任の押し付け合いが起こったり、他人を貶める言動まで起きるようになる。つまり、一人の叱ってばかりの上司が、個々の部下にとどまらず、職場の人間関係までも破壊してしまうのである。そうなると、成果の出せる組織どころの話ではなくなる。

「褒める」と「叱る」を使い分けることが重要

改めて、「褒める」、「叱る」を定義してみよう。「褒める」という行為はモチベーションを上げることであり、「叱る」という行為は間違った言動を正すということである。従って、どちらも悪いマネジメントではない。ただ、それが効果を発揮するためには、適切に使い分ける必要がある。

部下が全力で頑張り、いい成績を挙げたときは、間髪おかずにしっかりと褒める。そして、判断ミスや怠慢な言動が見られた場合は、その場で叱って注意指導する。このバランスが取れていることが、極めて重要である。

また、このバランスの基準は一律であってはならない。なぜなら、部下にも様々なタイプがいるからである。若くして活躍する社員、遅咲きの社員、精神的にタフな社員、メンタルが弱い社員などなど。これらすべての社員をウォッチしながら、個性に応じて「褒める」、「叱る」を使いこなさなければならない。

部下のマネジメントをする立場の人は、これを疎かにしてはならない。このように、ただ褒めるだけ、ただ叱るだけ、の一方に偏るマネジメントは避けなければならない。
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