従業員1人につき最大50万円が支給される新しい助成金
厚生労働省が「年収の壁・支援強化パッケージ」で示した4施策は、次のとおりである。2.キャリアアップ助成金『社会保険適用時処遇改善コース』の新設
3.事業主の証明による被扶養者認定の円滑化
4.企業の配偶者手当の見直し促進
上記の2番目にある「キャリアアップ助成金『社会保険適用時処遇改善コース』の新設」とは、2023年10月1日以降、短時間労働者を社会保険に新規加入させた上で同時に収入を増やす取り組みを実施すると、従業員1人につき最大で50万円(大企業は4分の3の額。以下同じ)の助成金が支給されるという施策である。申請手続きは同年10月20日から可能となっている。
2023年度のキャリアアップ助成金は、当初は『正社員化コース』、『賃金規定等改定コース』などの計6コースで構成されていたが、今般、新たに『社会保険適用時処遇改善コース』が7番目として用意されたものである。
3つのメニューで構成された『社会保険適用時処遇改善コース』
『社会保険適用時処遇改善コース』には、従業員の収入を増やす方法の相違により次の3つのメニューが用意されている。(2)労働時間延長メニュー
(3)併用メニュー
(1)手当等支給メニューは、社会保険適用促進手当の支払いなどで収入を増やす場合に助成金が支給される仕組みで、条件および金額は次のとおりである。
●【2年目】標準報酬月額・標準賞与額の15%以上を追加で支払うことに加え、3年目に賃金の18%以上の増額を行うと、従業員1人につき20万円を支給
●【3年目】賃金を18%以上増額していると、従業員1人につき10万円を支給
従って、従業員1人につき3年間で計50万円が支給されることになる。
「標準報酬月額・標準賞与額の15%以上」と聞くと、随分、企業負担が重い印象を受けるかもしれない。しかしながらこの割合は、協会けんぽの加入者が負担する平均的な社会保険料率と同程度である。そのため、社会保険適用促進手当を支払う企業であれば、必ずしも過度な負担とはならないであろう。
労働時間の延長で最大30万円が支給される「労働時間延長メニュー」
(2)労働時間延長メニューは、所定労働時間の延長や賃金の増加で収入を増やすケースで、次のいずれかの条件を満たすと従業員1人につき30万円が支給される。●週の所定労働時間を3時間以上4時間未満の範囲で延ばし、同時に賃金を5%以上増やす
●週の所定労働時間を2時間以上3時間未満の範囲で延ばし、同時に賃金を10%以上増やす
●週の所定労働時間を1時間以上2時間未満の範囲で延ばし、同時に賃金を15%以上増やす
最後に(3)併用メニューは、手当等支給メニューと労働時間延長メニューとを組み合わせて行う仕組みである。
具体的には、1年目には「手当等支給メニュー」の取り組みを、2年目には「労働時間延長メニュー」の取り組みを行い、従業員1人につきそれぞれ20万円、30万円の支給を受けることが可能である。この場合、2年間で計50万円が支給されることになる。
50万円の支給を受けるのに要する期間は、手当等支給メニューが3年間であるのに対して、併用メニューは2年間である。従って、「今は所定労働時間を延ばせないが、1年後であれば延ばすことが可能になる」などの事情を抱える従業員が在籍する場合には、併用メニューのほうが早期に計50万円を受給できるので有用といえよう。
何人分でも申請可能な『社会保険適用時処遇改善コース』
『社会保険適用時処遇改善コース』を利用するためには、キャリアアップ助成金の他のコースと同様に「キャリアアップ計画書」を事前作成し、自社の所在地を管轄する労働局またはハローワークのいずれかに提出しなければならない。ただし、申請人数には制限がない。従って、条件を満たす従業員がいれば、1社で何人分でも助成金を申請して受け取ることが可能である。また、申請時の提出書類が一部削減されるなど、手続き負担も緩和されている。そのため、キャリアアップ助成金の他のコースに比し、利用の便宜が図られた助成金といえるだろう。
なお、『社会保険適用時処遇改善コース』の対象になるのは、2023年10月1日から2026年3月31日(2025年度末)までの間に従業員を社会保険に新規加入させた場合に限定されている。それ以降に新規加入させても同コースの対象にはならないので、留意していただきたい。
ところで、気になるのが「自社ではこの助成金を利用できるのか」、「3つのメニューのうち、どのメニューの対象となるのか」などであろう。この点につき、厚生労働省では以下のようなフローチャートを用意しているので、参考にしてはいかがだろうか。
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