「カスタマーハラスメント」の現状と影響
カスタマーハラスメントは、年々増加しています。厚生労働省の「令和2年度 職場のハラスメントに関する実態調査」によれば、過去3年間のハラスメントの相談件数は、「パワーハラスメント」(パワハラ)、「セクシュアルハラスメント」(セクハラ)に続き、「カスタマーハラスメント」が3番目の多さになっています。また、過去3年間のハラスメント件数の傾向は、カスタマーハラスメントのみが増加傾向にあることもわかりました。カスタマーハラスメントは顧客からのものですから、社内のハラスメント意識が変わってもなかなか減らせるものではないことが見て取れます。
しかしながら、カスタマーハラスメントが企業に及ぼす影響は、決して小さくありません。従業員にとっては、日々の業務のパフォーマンス・モチベーションの低下に繋がるでしょう。メンタル疾患を発症してしまい、休職や退職をする方も増えてきています。企業の対応によっては、自社に対する不信感にも繋がる可能性も否定できません。
また、企業にとっても、該当顧客への対応の時間が余分にかかりますし、正常な業務が行えないほどの行為があれば大きな支障となります。業務が停滞することで、顧客や取引先にとっても悪影響を及ぼすでしょう。
近年では、従業員の対応が個人名と共にSNSで拡散される事案もしばしば見かけます。その後の企業の対応により、企業イメージの低下に繋がっているものもいくつも見かけました。イメージ低下だけでなく、企業が安全配慮義務違反に問われることもあります。
このように、カスタマーハラスメント対応は、今や企業にとって不可欠といっても過言ではありません。
「カスタマーハラスメント」への対策方法
厚生労働省の「カスターハラスメント対策マニュアル」では、カスタマーハラスメントを「顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・様態により、労働者の就業環境が害されるもの」と定義しています。クレーム等がすべてカスタマーハラスメントに該当するわけではなく、“提供する商品やサービスに瑕疵・過失がない場合や無関係の場合”、あるいは“身体的・精神的な攻撃を伴う場合等”がカスタマーハラスメントに該当します。例えば、頻繁な来店・架電によるクレームや、大声や暴言、過度な要求のようなものです。パワーハラスメント、セクシュアルハラスメントの定義にも重なる部分があるので、イメージはしやすいかと思います。
ここからは、「カスタマーハラスメント対策」として企業ができることを紹介します。
●企業の基本姿勢の明確化と周知
カスタマーハラスメントから従業員を守る姿勢・メッセージを社内外に周知することは、従業員にとっては安心感に繋がります。カスタマーハラスメントは社内だけでは起きないものですので、ホームページ等を通じて社外にも公表しましょう。●相談窓口の設置
いわゆる「パワハラ防止法」において、社内の相談窓口の設置が義務付けられています。2022年4月からは、中小企業を含む全企業において設置が義務付けられることになりましたので、皆さまの企業でも既に対応済みのことと思います。この相談窓口はパワーハラスメントだけでなく、セクシュアルハラスメント等も広く相談できるものにすることとされていますので、カスタマーハラスメントもこの窓口で相談を受けられるようにしましょう。窓口の役割や相談先を定期的に周知することも効果的です。
●対応方法の策定と社内教育
従業員がカスタマーハラスメントを受けたときの対応方法をあらかじめ決めておきます。具体的には、(1)どのようなラインで誰に連絡が届くようにするのか、誰が調査・判断・対応をするのか、といった社内体制、(2)カスタマーハラスメントの調査・判断の基準・対応方法です。このとき、カスタマーハラスメントのタイプ別に対応を考えておくと良いでしょう。“タイプ別”とは、「執拗に繰り返される場合」、「暴力行為がある場合」、「セクシュアルハラスメント」を伴う場合、等です。また、社内体制とも関係してきますが、カスタマーハラスメントの対応として「1人で対応させないこと」が重要なのは押さえておきましょう。
社内ルールを定めたら、従業員にも周知します。社内制度と併せて、“カスタマーハラスメントを受けた場合の対応方法”を伝えるのも効果的です。最近では、クレーム対応研修等を取り入れる企業も増えています。
厚生労働省のカスタマーハラスメント対策企業マニュアルでは、付録として、カスタマーハラスメント対策のチェックシートがついていますので、まずは対応の第一歩として、現在どれほど対応できているかのチェックをしてみるのも良いかもしれません。
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