Q12 この1年のうちに、仕事について学び、成長する機会があった。
This last year, I have had opportunities to learn and grow at work.(Challenge me)
連載1回目で見たように、この「12の問」の順番は計算されたものだ。順番通りにたどっていき、最後に見える景色はなんだろうか。
多少の回り道も許容する
人を育てるのには、教えるのではなく、学ばせることが必要だ。仕事についての最大の学びの場は、当然ながら仕事そのものである。社内研修や自己研鑽も必要なのだが、それだけでは成長できない。何より自分に課せられた職務上の課題に取組むことが、人を成長させる。課題を達成するためにはいくつかの道があり、上司はその近道を知っていることが多い。近道を行くことを職務命令として強制することももちろん可能だ。
だが、この質問の略称を見てほしい。「Challenge me(挑戦させて)」なのである。「上司が教えてくれる通りにやって、うまくいきました」というのでは挑戦にならない。まったく脇道にそれたり、隘路に入り込んでスタックしてしまったりするのでは、業務上の合理性から考えて問題だ。だが、部下が自分で考えて選んだ道であれば、多少の回り道も許容するのが、「Q12:学び、成長する機会」を保証することになる。
もちろん、仕事にはスピード感が必要であるから、人材育成のためとはいえもたもたしていられない、という事情もあるだろう。しかし、回り道を許容する余裕もない職場では、部下は単に目的達成のためのコマになるだけで、自律的な行動は期待できない。部下が指示待ちではなく、自ら考え、動くよう育てるためには、業務全体に一定の余裕が必要だ。
そのような余裕はひとりの管理職だけで作り出せるものではない。しかし、「うちは忙しいから部下が試行錯誤しているのを許しているヒマはない」と上司が考えるかどうかだけでも、大きな違いが出てくる。「多少時間がかかっても、部下を大きく成長させている」という上司を会社が評価するかどうか、ということになり、ひとつの職場だけの問題でなくなる。
今回まで、Q12について「管理職の心得」として説明してきたが、最終的には会社全体の姿勢を問うものでもあるのだ。
「基礎に時間をかけること」が何より大切
さて、最後に「12の問」とそれぞれの段階を、ここでもう一度おさらいしておこう。フェーズI「何が手に入るのか」
Q1 職場で自分が何を期待されているのかを知っている
Q2 仕事をうまく行うために必要な材料や道具を与えられている
フェーズII「自分はどんな貢献をしているか」
Q3 職場で最も得意なことをする機会が毎日与えられている
Q4 この7日間のうちに、よい仕事をしたと認められたり、褒められたりした
Q5 上司または職場の誰かが、自分をひとりの人間として気にかけてくれるようだ
Q6 職場の誰かが自分の成長を促してくれる
フェーズIII「自分はここの人間なのだろうか」
Q7 職場で自分の意見が尊重されるようだ
Q8 会社の使命や目的が、自分の仕事は重要だと感じさせてくれる
Q9 職場の同僚が真剣に質の高い仕事をしようとしている
Q10 職場に親友がいる
フェーズIV「全員が成長するにはどうすればよいか」
Q11 この6ヵ月のうちに、職場の誰かが自分の進歩について話してくれた
Q12 この1年のうちに、仕事について学び、成長する機会があった
この順序にも意味があり、それぞれの段階を経て次の段階があるということは、連載の初回に説明した。さらに、順序だけではなく、もうひとつ重要なポイントがある。当初のプロセス、とくにフェーズIとIIを大切にし、この段階をきちんとクリアしてから次に進むということだ。
Q11やQ12で要求されていることは、部下のマネジメントについて真剣に考えている上司にとっては当然のことなので、最初からそれに取り組めばいいではないか、と思うかもしれない。だが、フェーズIやIIが満たされていない中では、いくら上司がフィードバックしたり、挑戦の場を与えたりしても、うまく機能しない。
まずは、基礎に時間をかけること。納得いく結果が出るまで取組む、ということを自分に課してほしい。上司ひとりひとりがQ12のプロセスに取組み続ける会社こそが、成長を止めない会社になるのだ。
李怜香(り れいか)
メンタルサポートろうむ 代表
社会保険労務士/ハラスメント防止コンサルタント/産業カウンセラー/健康経営エキスパートアドバイザー
http://yhlee.org
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