相談の多いリーダー
ひとつ、事例を紹介しよう。サービス業を営む某社では、人材不足が大きな問題となっていた。求人募集を出してもなかなか人が集まらない。また、離職率も高く、しかも短期間で退職してしまう。その結果、採用コストが大きく膨らみ、顧客対応を行う現場業務の品質も一向に上がらない。従業員が頻繁に入れ替わるため、現場を切り盛りするのは、いつも新人ばかりだからである。
人事部門を管轄するリーダーのA氏は困り果て、以前、自分の下で働いていた元部下のB氏に相談することにした。「最近、求人募集を出しても、なかなか人が集まらないんだが、人を集める良い知恵はないだろうか」。すると、相談を受けたB氏は「それでは、○○という方法を取ってはどうですか?」と、A氏が思いつかなかったプランを提案した。リーダーのA氏は「なるほど」と答え、自身の部署に戻っていったのである。
1ヵ月後、リーダーのA氏はまた、元部下のB氏に相談を持ちかけた。「最近、離職率が高くて困っているのだが、離職を防ぐ良い知恵はないだろうか」。相談を受けたB氏は、「それでは、△△という取り組みを行ってはどうですか?」と提案をした。リーダーのA氏は「なるほど」と答え、自身の部署に戻っていった。
さらに1ヵ月後、A氏はまたまた、元部下のB氏に相談を持ちかけた。「最近、短期間で退職する従業員が非常に多いのだが、長く勤務させる良い知恵はないだろうか」。相談を受けたB氏は、今度はこのように答えた。「私には分かりません」。
それまで、人事部門のリーダーA氏にさまざまなアイデアを提供し、業務に協力していた元部下のB氏であったが、ある時から協力を拒むようになったのである。なぜ、B氏は協力を拒むようになったのだろうか。
説明の欠落が『不満』『不信』を生む
A氏の協力を拒むようになった理由をB氏にヒアリングすると、このような答えが返ってきた。「せっかくアイデアを提供しても、その後、どうなったかが分からないからです」。自分のアイデアが採用されたのかどうか、採用されたのであれば上手くいったのかどうか、上手くいったのであれば目的を達成できたのかどうか。これらの情報を全く知らされることがない。にもかかわらず、何度も相談を持ちかけられる状況に嫌気がさしたというのである。
相談事を持ちかけた場合、欠かせないコミュニケーションのひとつが、相手への「結果の説明」である。これがないと、相談を受けた側は、「どうなったのだろう?」という『疑問』の気持ちを持つものである。
それでも「結果の説明」が行われないと、『疑問』の気持ちは次第に「もしかしたら、私のアイデアでは上手くいかったのではないか?」という『不安』の気持ちへ変わることが多い。
さらには、「結果の説明」が何もないまま、また別の相談を持ちかけられると、「一体、前回提供したアイデアはどうなったんだ!」という『不満』、『不信』の気持ちへと変わっていく。
このように、リーダーから相談を受けた部下の心理状態は、「結果の説明」がないと、『疑問』→『不安』→『不満』、『不信』と悪化の一途を辿ってしまうのである。
「結果の説明」が部下の“好ましい行動”の原動力になる
「ホウ・レン・ソウ」という言葉がある。ご存じのとおり、「報告・連絡・相談」の略であり、上司から部下に指導されることが多い仕組みである。しかしながら、この「ホウ・レン・ソウ」は、部下だけに必要な行動ではない。リーダーにとっても、部下に対して「ホウ・レン・ソウ」に準じたコミュニケーションを取ることが欠かせない。たとえば、部下が上司に「相談」をした場合、上司に対して途中経過や結果を「報告」することが重要なように、上司が部下に「相談」をした場合も、その上司は部下に対して結果などを「説明」すべきなのだ。
それなのに、リーダーの中には、部下に対して「相談」はするが、その結果を説明しないというケースが少なくない。その結果、部下がその後の相談に応じなくなるなどの“好ましくない行動”を引き出してしまうことがある。
反対に、「結果の説明」を適切に行ったことが部下のモチベーション向上に繋がり、皆がアイデアを積極的に提供するなど、組織メンバーとしての“好ましい行動”に結び付いている事例も存在する。
皆さんは、部下に対する「ホウ・レン・ソウ」が適切にできているだろうか。
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