間違いを認め、部下に謝れるか
リーダーが部下のミスの存在に気づいたとき、「なぜミスをしたのか」を突き詰めた結果、リーダー自身に起因していたというケースは往々にしてある。たとえば、部下が、リーダーの誤った判断・指示に従った結果、ミスが起こってしまったというケースである。このように、「自分に起因する部下のミス」に直面したリーダーの中には、次のような発言・行動を示すケースがある。
・自分の誤りに気づかない振りをする。
・「なぜ、私の指示の間違いに気づかないんだ」などと部下を責める。
・「私は直接、実務に携わっていないのだから、間違えるのは当然だろう」などと開き直る。
いずれも自身の非は認めず、責任を部下に転嫁する発言・行動である。このような発言・行動をとるリーダーに対して部下は“マイナス感情”しか持たず、その後の“好ましい行動”が期待できることはない。
このようなとき、リーダーにとって重要なのは、自分の間違いを素直に認め、部下に謝罪をすることである。「私が判断を誤ったせいで、キミたちに失敗をさせてしまった。申し訳なかった」などと頭を下げることが、部下の“前向き”な行動を引き出す上で、極めて大切なコミュニケーションと言える。
しかしながら、「上司なのだから、間違えても部下に謝る必要はない」「部下に頭を下げるのは、リーダーの沽券(こけん)にかかわる」などと考える方もいるようである。
このような考えの背景には、上司は部下よりも偉いという発想があるように思われる。だが、上司は部下よりも偉いわけではない。上司や部下という概念は、企業内での単なる役割分担に過ぎないからである。従って、たとえリーダーであったとしても、間違えた場合には部下に対し、誠意を持って謝罪する姿勢が必要である。
「自責型思考」の習慣化が部下を動かす
また、「リーダーに起因するミス」とまでは言えないが、「リーダーにもう少し配慮があれば防げたかもしれないミス」というものもある。例えば、リーダーが部下に指示を出す際、部下の理解能力を考慮し、もう少し丁寧に説明をしていれば、部下がミスをすることはなかったかもしれない、といったケースである。
ただし、リーダーがこのような自分自身の配慮不足に気づくためには、部下がミスをした際に「もしかしたら、リーダーの自分に何かできることがあったのではないか」と考える習慣を持っていることが必要になる。
「もしかしたら、リーダーの自分に何かできることがあったのではないか」という発想を「自責型思考」という。反対に、部下のミスなどに対して「自分に一切の非はない。非は全て自分以外にある」と考えるのを「他責型思考」という。リーダーの持つ思考習慣は、この自責型思考と他責型思考の2タイプに分かれるようである。
仮に部下がミスをした際、リーダー自身に直接的な原因はなかったとしても、「もしかしたら、リーダーの自分に、何かできることがあったのではないか」と考える自責型思考があれば、失敗をした部下に対し「リーダーの私にもう少し配慮があれば、ミスは起こらなかったかもしれない。申し訳ない」などといった言葉掛けもできるであろう。部下はこのようなリーダーに喜んでついてゆくものであり、このとき「二度と失敗はするまい」と心に誓うものである。そのため、部下の“好ましい(前向きな)行動”が促されるようになり、結果、自責型思考を持つリーダーの下ではミスが再発しにくくなる。
リーダーが組織で起きたミスの後にとるコミュニケーションは、『人間力』を測るバロメーターである。「間違えを認め、謝罪する姿勢」「自責型思考の思考習慣」は、その優れた『人間力』の証明であると言えよう。皆さんも同様のケースを思い出し、自身の『人間力』を振り返ってみてはいかがだろうか。
コンサルティングハウス プライオ
代表 大須賀信敬
(中小企業診断士・特定社会保険労務士)
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