「“誰が”ミスをしたのか?」ではミスの原因は分からない
トラブル発生の報を受け、リーダーが部下のミスの存在に気づいたとき、「誰が間違えたんだ!」「誰がやったんだ!」などの発言に至ることが少なくない。このように「“誰が”ミスをしたのか」を問う発言は、必ずしもトラブル再発の防止に有効なコミュニケーションとはいえない。たとえば、このような状況を設定してみよう。受注した商品の納品場所を誤り、顧客からクレームが入ったとする。このクレームの事実について部下から報告を受けた上席者は、思わず「誰が間違えたんだ!」と声を発してしまった。
この「誰が間違えたんだ!」という発言は、一般的に冷静な精神状態で発せられる言葉ではない。「失敗の原因を見つけるため」というよりも、リーダーの心の中に芽生えた「やり場のない怒りの感情をぶつけるため」に発せられるのが「誰が間違えたんだ!」という発言である。つまり、ミスの原因ではなく、ミスの原因となった部下を探し出そうとする、いわゆる“犯人探し”の発言といえる。
このような言葉を投げかけられた部下が、「ミスを無くそう」という“前向き”な気持ちになり、“好ましい行動”を起こすことは少ない。反対に「怒られたくない」などのマイナス感情を抱くことが多いため、ミスの内容が正しく報告されない、もしくは遅れるなど、部下の“好ましくない行動”を引き起こしやすい面がある。
その結果、「トラブルを再発させてはいけない」というリーダーの思いとは裏腹に、ミスの根本原因に効果的な対策が打てず、かえってトラブルの再発を招きがちである。
さらに、こうした発言が頻繁に繰り返された場合、トラブルが発生した事実自体がリーダーに全く報告されず、隠ぺいされるケースすら出てくる。こうなってくると、トラブルの事実が明るみに出る頃には、取り返しのつかない事態にまで状況が悪化していることもあるだろう。組織の隠ぺい体質は、このようにして生まれることもある。ミスに対して怒りの気持ちが生じるのは分からないではないが、本当にトラブルの再発を防ぎたいのであれば、発言には十分に注意をしなければならない。
「“なぜ”ミスをしたのか?」が前向きな業務改善につながる
このようなときに有効なコミュニケーションとして「“なぜ”間違えたのか」を問う手法がある。部下に対して“誰が”ではなく“なぜ”と問いかけるのである。もちろんリーダーが「“なぜ”間違えたのか」と問いかけた場合、結果として「“誰が”ミスを犯したのか」も判明するケースが多い。しかしながら、ここではミスを犯したのが誰かはさほど問題ではない。ミスが発生してしまうような“仕組み”が何かを探し出し、その“仕組み”を改善するのが「“なぜ”間違えたのか」の発言の意図だからである。従って、こうした発言をする際は、あえて冷静な口調で問いかけることが重要なポイントになる。
また先ほどの設定に戻ってみよう。リーダーが部下に対して、「“なぜ”間違えたのか」と問うた場合には、「顧客から納品場所の変更連絡を受けていたが、その事実が配送担当者に伝わっていなかった」などのミスの原因が、部下から報告されやすくなる。その結果、「受注後の各種変更連絡に関する業務フローを見直す」などの対策がとれることになり、同じ誤りを起こす確率が激減するわけである。
人が集まり組織活動を営むとき、常に運営が順風満帆というケースは少なく、業種業態にかかわらず、トラブルの発生は日常茶飯事である。トラブルが発生するところには、必ず原因が存在する。そしてその原因の多くは「人為的なミス」である。従って、トラブルを繰り返さないためには、原因となる「人為的なミス」を解明し、対策を講じることが必要になる。
しかしながら、その際に使われる「“誰が”ミスをしたのか」と「“なぜ”ミスをしたのか」という2つの発言は、似て非なるものであり、部下の行動に与える影響には大きな違いがあることを認識しておく必要があるだろう。これまで部下のミスに直面したとき、皆さんはどちらの発言をすることが多かっただろうか。もし“誰”を問う言い方だったならば、ぜひ今回紹介した“なぜ”を問う言い方を試してみて欲しい。
コンサルティングハウス プライオ
代表 大須賀信敬
(中小企業診断士・特定社会保険労務士)
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