それは、ドラッカー氏が、著書『マネジメント エッセンシャル版』において紹介するダグラス・マクレガー氏の理論「Y理論」です。
それは、ドラッカー氏が、著書『マネジメント エッセンシャル版』において紹介するダグラス・マクレガー氏の理論「Y理論」です。マクレガー氏は、X理論とY理論という考え方を用いて、人と労働のマネジメントをまとめています。
X理論では、「人は、元来仕事を嫌うもの」という考えがあり、仕事を通じた自発的な成長や自己実現といった考え方はありません。一方、Y理論では、「人は常に欲求をもち、仕事を通じた自己実現を求める」という考え方があります。
かつて、アルバイト・パートスタッフに対する考え方は、一時的な業務の手伝い役として流動性の高い「フロー型人材」という認識が主流でした。加えて、マネジメントの多くが、自発的な成長や自己実現の機会を提供しないX理論に近しいものであり、個々人の潜在的な能力を開発するといった意識はそう高くはありませんでした。
ドラッカー氏は、前述の著書『マネジメント エッセンシャル版』でこう指摘をしています。
“X理論によるマネジメントはもはや有効ではない。 ~~ 知識労働者に対しては、いかなる国でも通用しない。”
P.F.ドラッカー『マネジメント エッセンシャル版』P65より。 ダイヤモンド社 上田惇生訳
一方で、日本の採用の現場を見渡しますと、アルバイト・パートスタッフのマネジメントにおいて、Y理論のような「個人の成長機会を多く提供する」企業が増えてきています。その一社が、「天丼てんや」を運営するテン コーポレーション様です。拙著「潜在ワーカーが日本を豊かにする」や「時代を勝ち抜く人材採用」でもご紹介をさせていただきました。
同社の上野店では、とある中国人スタッフの方と新しく赴任した店長との間にこんなエピソードがあります。厨房でもくもくと皿洗いをしていた男性がおり、気になった店長が他のスタッフに聞いてみると、三ヶ月間ずっと洗い場をやっているとのこと。背景には、就業開始時の日本語能力に課題があったことがわかりました。
すると、店長は、「彼にキッチンの仕事を教えてあげてほしい」と日本人スタッフに依頼。スタッフ全員も店長の考えに賛同し協力をはじめます。その後、中国人スタッフの方は、もともとの意欲的な姿勢が手伝い、キッチンの作業をどんどん吸収。日本語での会話もできるようになっていき、今では非常に活躍をされているといいます。
個人の可能性を意識し、周囲との協働を通じ、店舗全体で生産性を上げる。働く個人のモチベーションが高まる取組みがそこにはありました。
この経験を一つの契機として、多くの外国人に雇用機会を提供する、同社上野店。2015年6月時点で、24名中17名が外国人スタッフという採用を実現されています。
スタッフ採用の成功が、一人当たりの業務負担量の軽減にも繋がったといいます。そして店舗としての業績も明らかに向上されたといいます。
全てのスタッフの自主性を尊重し、最大限の機会を提供。
採用を通して経営力の向上につなげる取組みは、今後ますます重要となっていくのではないでしょうか。
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