令和6年度から「障害者法定雇用率」が2.5%に上がります。これに伴い企業では、従業員40人に1人の割合で障がい者を雇用することが求められます。しかし「今までに障がい者雇用に取り組んだことがない」、「何から手をつけたらいいのかわからない」……という企業も少なくないでしょう。これから障がい者雇用に取り組む時に知っておきたい”基礎・基本”について、ここでは解説していきます。
はじめて「障がい者雇用」担当者になったら知っておくべき“基礎・基本”

障がい者雇用の基本となる「障害者雇用促進法」とは?

障がい者雇用は、「障害者雇用促進法(正式名称:障害者の雇用の促進等に関する法律)」に基づいて進められています。障害者雇用促進法は、障がい者の職業の安定を図ることを目的とした法律です。また、それぞれの希望や能力に応じて、各地域で自立した生活を送ることができる「共生社会の実現」を目指したものです。

そして、これを実現するために、「障がい者の雇用義務等に基づく雇用の促進等のための措置、職業リハビリテーションの措置等を通じて、障がい者の職業の安定を図ること」などについて具体的な方策が定められています。まず、この法律の基本となる「障害者雇用率」、「障害者雇用納付金制度」について見ていきます。

●障害者雇用率
障害者雇用促進法では、従業員の一定割合以上の障がい者を雇用することを求めています。令和5年度現在は、雇用率が2.3%のため従業員43.5人に対して1人の障がい者を雇用することが必要とされていますが、これが令和6年度からは2.5%(従業員40人に対して1人)、令和8年度からは2.7%(従業員37.5人に対して1人)と段階的に引き上げられます。

法定雇用率は、基本は5年ごとに見直されることになっており、法定雇用率の算定式(下記図を参照)に基づいて算出されます。最近は、特に精神障がい者の雇用が増加しており、今回発表されている法定雇用率以上に、今後も障がい者雇用率が上がっていくことが想定されています。
図1 法定雇用率の算定式
●障害者雇用納付金制度
障害者雇用促進法では、障害者法定雇用率を定めていますが、すべての企業が障がい者を雇用できているわけではありません。法定雇用率を充足できていな企業が、不足する障がい者の人数に応じた金額を納めなければならない制度が「障害者雇用納付金制度」です。この制度は、事業主が相互に果たしていく社会連帯責任の理念に立ち、事業主間の障がい者雇用に伴う経済的負担の調整を図るものとなっています。

障害者雇用納付金として集められた納付金は、企業が障がい者を雇用する場合の作業設備や職場環境を改善するための助成金、特別の雇用管理や能力開発等を行うなどの経済的な負担を補填するものとして、障がい者雇用に取り組む企業へ還元されています。
図2 障害者雇用納付金制度のあらまし

出典:障害者雇用納付金制度のあらまし(独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構)

障害者雇用納付金や障害者雇用調整金等の申告申請は4月~5月の前半までに、報奨金等の申告申請は4月~7月までに行なう必要があります。なお、障がい者雇用が未達成の企業は障害者雇用納付金を納付しますが、これは納めたからといって障がい者雇用を免れるわけではありません。企業は障がい者を雇用する義務があり、障害者雇用納付金を納めたとしても、各企業では障がい者雇用を行なう努力が求められています。

障がい者の実雇用率が低い企業は、毎年6月に実施される障害者雇用状況報告に基づいて障害者雇入計画命令が出され、法定雇用率を達成できるように行政指導される可能性があります。また、障害者雇入計画命令が計画通りに進まない場合は、企業名を公表されることがあります。

障がい者雇用をサポートしてくれる公的機関や制度

障害者法定雇用率を遵守できないと障害者雇用納付金を納める必要があったり、企業名が公表されたりするなど、厳しい施策が取られていると感じるかもしれません。しかし、障がい者雇用を進める時に活用できる公的な機関や制度があります。利用する時に費用はかかりませんし、地域の障がい者雇用の情報を得られやすいので、上手に活用するとよいでしょう。

●ハローワーク
「ハローワーク」は、障がい者雇用を進めるうえで中心的な役割を果たしている機関です。企業に対しては、障がい者雇用を円滑に進めることができるように、求人票の受付以外にも、職域開拓・雇用管理・職場環境整備・特例子会社設立などについての相談を受けつけています。障がい者当事者に対しては、求職登録や職業訓練の相談・アドバイスを行ないます。就職を希望している障がい者の多くは、ハローワークに求職登録しています。

企業が活用できる場面としては、障がい者雇用に関する情報を得たい、障がい者の求人募集がしたい、助成金を活用したい、地域の支援機関を知りたい・活用したいなどの時に利用することができます。

また、求職活動中の障がい者と複数の企業のマッチングの場として、ハローワークは「障がい者合同面接会」を年に数回開催しています。合同面接会は、多くの障がい者と面接できる機会となるため、企業が求める人材が確保できる可能性があります。このような場を活用して、障がい者雇用を進めることができます。合同面接会の開催回数や時期は各都道府県で決められていますので、最寄りのハローワークに問い合わせてみるとよいでしょう。

ハローワーク等を活用して障がい者の採用が決まると、雇用関連の助成金の対象となります。障がい者雇用では、近年、中小企業向けの助成金が充実していますので、障がい者雇用を考えるときには、助成金の活用についても確認するとよいでしょう。雇用関連の助成金はハローワークが窓口となっています。

例えば、「特定求職者雇用開発助成金(特開金)」と呼ばれる助成金や、「トライアル雇用助成金」などがあります。「トライアル雇用」は、継続雇用(1年を超える期間の雇用)へ移行することを目指して、原則3ヵ月間(精神の場合は6~12ヵ月)の試行雇用を行なうと助成金が支給されるものです。

トライアル雇用では、障がい者の適性を把握でき、長期的に働けるかなどを確認しやすくなります。また、仮に企業で受け入れが難しいと判断したときには、契約満了という形で雇用を終了することもできます。

●地域障害者職業センター
「地域障害者職業センター」は都道府県ごとに1ヵ所以上あり、障がい者の就労に関する支援とともに、企業に障がい者雇用のアドバイスを行なう機関です。障がい者の職業的自立を促進・支援するため、「独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構」が設置・運営するセンターとして、障害者雇用促進法に基づき、職業リハビリテーションの実施・助言・援助などを行っています。

障害者職業カウンセラーや配置型ジョブコーチ(職場適応援助者)などの専門職が配置されており、障がい者雇用の専門的な役割を担っています。企業に対しては、障がい者の雇用管理に関する相談・援助、地域の関係機関に対する助言・援助を実施しており、特にジョブコーチ支援が必要なときや、リワーク支援(うつ病などの精神疾患で休職している社員の職場復帰支援)などで活用されています。

ジョブコーチ支援では、ジョブコーチが職場に出向き、障がい者が安心して働き続けられるための業務・職場環境の整備や、事業主が雇用する上での心配や悩みを解決する支援を行います。また、障がい者雇用の経験がなく不安を抱える企業が支援を必要とするときにも活用することができます。

障がい者雇用は企業が行なうべきことですが、それをサポートする機関や活用できる制度は多数あります。まずは、このような基本的な情報を知って、困ったときや悩んだときには相談やアドバイスを受けてみてください。



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