障がい者を採用するときには、履歴書や職務経歴などの実績、スキルとともに見ておくべき点があります。それが「職業準備性」です。職業準備性は、どんな職種・職業においても共通して必要とされる「基本的な社会人としての資質」で、大きく5つの要素があります。今回は、なぜ障がい者を採用するときに職業準備性を確認すべきなのかと、その5つの要素について解説していきます。
障がい者雇用で重視される「職業準備性」とは?採用時に必ず確認しておくべき5つの要素

なぜ、「職業準備性」を確認しておく必要があるのか?

障がい者を採用した際に、履歴書や職務経歴書の内容に問題はなく、面接での受け答えを見ても大丈夫だと思っていたはずが、実際には職場に定着してもらえず、短期間で退職に至ったという経験をする企業は少なくありません。このとき、企業は「採用するときに、どのような点を確認しておくべきだっただろう……」と感じるでしょう。求職者の業務経験や知識、スキルに注目してしまいがちですが、実は、安定して長期的に雇用したいのであれば他にも見るべき点があります。

ある企業では過去、障がい者を採用するときに、一般的に求められがちなスキルや経験に着目して選考を進めていました。しかし、実際に雇用した後に、体調管理ができずに職場に定着できない社員が一定数出てきたため、現在では職業生活のベースとなる「健康管理」や「日常生活管理」といった点も確認するようにしています。

経験やスキルは、適性さえあれば入社後からでも業務に則したものを身につけることができます。しかし、働く上での土台がしっかりと築けていないと、働くこと自体に困難が生じてきてしまい、安定して長い間、働き続けることができなくなってしまいます。障がい者雇用では、この働くために必要な土台を「職業準備性」と呼んでいます。

職業準備性とは具体的にどんなものか?

「職業準備性」とはつまり、障がいの有無にかかわらず、働く上で必要とされる基礎的な能力のことです。安定的に働き続けるためには「健康管理」「日常生活管理」「対人技能(対人スキル)」「基本労働習慣」「職業適性」という5つの資質が必要とされています。そして、この5つの項目を階層で並べたものが「職業準備性ピラミッド」です。ピラミッドの一番下から順にしっかりと備わっていないと、働き続けることが難しいとされています。
出典:職業準備性ピラミッド(障害者職業センター)

出典:職業準備性ピラミッド(障害者職業センター)

重要なのは、これが「ピラミッド」になっている点です。下から順に積み上がっていくことに意味があります。どれかが欠けていれば一時的には大丈夫そうに見えても、どこかで職場定着へ影響が出てしまいます。つまり、たとえ適性のある職業に就いたとしても、どんなに作業能力が高くても、このピラミッドの基本ができていないと働き続けることは難しくなってしまうのです。

就職を希望する障がい者の中には「働くために資格を取りたい……」と焦っている人を見かけますが、実際には資格の有無よりも体調をしっかり整えるなどの自己管理ができる人の方が就労しても長く働き続けることができています。そのため、体調面の管理が自分でできているのか等の基本的な点を、障がい者の採用面接ではしっかり確認しておくことが大切です。では職業準備性における5つの要素を具体的に解説していきます。

職業準備性における5つの要素

(1)健康管理
障がい者にとっての健康管理とは、自身の障がいについて正しく理解し、日常生活を維持することをいいます。自分の特性を理解していると、職場や周囲の人に合理的配慮を申し出ることができます。一方で健康管理が十分にできていないと、体調を崩しやすく仕事に影響がでます。また、体調が悪化すると長期休暇や長期入院が必要になる恐れがあり、その結果として休職や離職につながってしまうケースも見られます。

規則正しい生活や疾病の予防・早期発見に対する意識を持ち、仕事を不必要に休まないことは、安定した労働力を供給するための最低限の責任であり、基本的な「職業準備性」スキルです。

採用側としては、具体的に、求職者の次のような点を確認するとよいでしょう。
・自分自身で通院や服薬ができている。
・自分の障がいや特性を理解している。
・不調時には周囲に伝えたり、休んだりできる。

(2)日常生活管理
遅刻や欠勤が多く職場に出られない状態が続くようでは、職業適性やスキル、能力が高くても働き続けることが難しくなります。障がい者雇用の際には、基本的な生活習慣が現在できているのかを確認することは大事です。

また採用した後も、規則正しい生活ができているのか、毎朝出勤できるのかなどを見守りましょう。睡眠不足の生活を続けてしまう従業員は、仕事中に眠くなったり、体調を崩したりしてしまうかもしれません。

(3)対人技能(対人スキル)
職場で仕事をしていく上で、対人関係は重要です。職場では組織で動くことが求められており、好き嫌いで人事配置はできません。苦手な人や性格が合わない人とでも、一緒に働いてもらう必要があります。特に、初めて就職する障がい者を採用する際には、組織として動く点を理解しているか、お互いが不快にならないように意思疎通を図れるかをチェックしておくとよいでしょう。

障がい者を配置するときには、社内や部内の理解促進を図っておくことも大切です。数回の研修や実習だけでは、理解が行き届いている職場環境を作ることは難しいかもしれません。それでも一緒に働く社員に対しては、障がい特性や、どのようなことに困りそうか、どのような場面で合理的配慮が必要なのかを伝えることで安心するでしょう。事前に現場とのコミュニケーションを図っておくと、一緒に働く職場の社員からの協力も得やすくなります。

合わせて職場での理解を深めるには、職場だけでなく、障がい者本人の考えや行動も必要です。会社としては、一緒に働く社員の理解を深めるための研修を実施しているなどの努力はしているものの、社員が障がいについて詳しい人ばかりではないことを伝えておきます。本人には、積極的に自分から挨拶することや、周囲の方とのコミュニケーションを図ることで、働きやすい職場を作れることを理解してもらいましょう。

(4)基本的労働習慣
障がいの有無にかかわらず、社会人として仕事をするためには、基本的労働習慣を身につけることが不可欠です。例えば、ビジネスマナーとして、基礎的な心得や身だしなみ、敬語、接客、電話対応など、社内外を問わず求められるものがあります。

しかし、時としてこのようなビジネスマナーの理解やスキルが不足している人材を採用してしまうことがあります。もし不足している社員がいる場合には、職場で指導しなければなりません。「社会人として当たり前」と思うようなことでも、働いた経験が少なかったり、障がい特性によっては見て学んで、自分から気づくことが苦手だったりする人もいます。

特に、職場で求められるチームプレーは、働いていないとほとんど経験する機会がありません。仕事には定期的に進行状況や問題点を上司や先輩に報告・連絡・相談する(ホウ・レン・ソウ)ことが重要であること、上手な「ホウ・レン・ソウ」をすることによって、業務の軌道修正や見落としを防ぐことができることを伝えるようにしましょう。

(5)職業適性
「職業適性」とは業務を行うために必要な能力です。もちろん、会社や職場、仕事内容によって求められる能力は異なります。ですから自社における職業適性のイメージを伝えると、応募してくる障がい者との差を埋めやすくなります。仕事の適性や作業量、正確性やスピード、職務遂行に必要な知識・技能、指示理解などを伝え、さらに実際に体験してもらうことで、職場で求めているものが伝わりやすくなります。

障がい者雇用で重視すべき職業準備性について見てきました。中には「こんな点まで確認する必要があるのか」と感じる点があったかもしれません。しかし、「健康管理」や「日常生活管理」など基本的なことがクリアされていないと職場定着につながりづらくなることは間違いありません。採用時には、経歴やスキルなどに注目してしまいがちですが、必ず職業準備性について押さえておくことが大切です。

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