「ひとり親」の就業環境を整備する上での「3つの視点」
【視点1】従業員の「個別性」を大切に!
まずは従業員の「個別性」を、法律の解釈により、読み解いていきます。法律を遵守することは当然必要ですが、「『労働基準法』などの法律は最低基準である」という認識も併せて必要です。例えば、「育児・介護休業法」にある「時間外労働の制限」については、就学前の子を養育する労働者を対象としており、時間外労働を減らすことで保育園の迎えなどに時間を当てることができます。そのため、小学校へ入学すれば「時間外労働の制限」は、法律上義務ではなくなります。
共働き夫婦であれば、時間外労働があったとしても、夫婦で家事・育児などを分担しながらワークライフバランスを実現できるかもしれません。しかし「ひとり親」であれば、「時間外労働=子どもと過ごす時間が確保できない」ことになります。特に小学校低学年であれば、子どもと過ごす時間を少しでも確保したいところです。
法律を画一的に解釈するだけでなく、従業員一人ひとりの事情や悩みなどの「個別性」を最大限に尊重し、法律を柔軟に解釈することで「ひとり親」が働きやすい環境をつくっていきましょう。
【視点2】伴走的な「キャリア開発」を!
一方で「ひとり親」の多くは、経済的な不安があることも事実です。近隣に頼る親戚などがいなければ、<子を養育する役割>と<経済的な役割>を一人で担わなければなりません。そして、テレワークなどの環境下になければ、基本的にその2つの役割をまったく同じ時間に行うことはできません。この「ひとり親」が抱える<経済的な役割>については、「キャリア開発」を通じて長期的な視点から捉えることが大切です。まずは、会社が定期的な面談などによって、<子を養育する役割>と<経済的な役割>を両立する「ひとり親」の気持ちに寄り添っていきましょう。そして、会社が子どもの成長を温かく見守りながら、職業人としてのキャリアを共に考えることで、「ひとり親」が抱える<経済的な役割>の見通しを共有していきましょう。
このように会社が伴走的に支えることで、「ひとり親」が会社で長く活躍できる環境整備につなげられます。
【視点3】会社として「子どもの幸せ」を追求する
会社として「子どもの幸せ」を追求する方法は、大きく分けて3つ考えられます。1)自社の商品やサービス
おもちゃを製造する会社であれば、子どもたちが喜ぶおもちゃをたくさん売ることで「子どもの幸せ」に直接つながります。また、子どもが直接の対象でなくとも、その保護者を対象とした商品・サービスであれば、間接的に「子どもの幸せ」につながります。
つまり、直接的であれ間接的であれ、質の高い商品やサービスが「子どもの幸せ」につながることを念頭に企業活動をすることが大切なのです。
2)CSR(=企業の社会的責任)
例えば、「自社商品に関する子ども教室を開催する」、「子どもが職業体験できる機会を設ける」、「売上げの一部を子どもの成長のために寄付する」などが挙げられます。
3)従業員のワークライフバランス
就業環境などを整備することによって、「保護者である従業員の幸せ」が、結果として「子どもの幸せ」にもつながるということです。
会社として「商品・サービス」、「CSR」、「従業員のワークライフバランス」の3つの方法を実現できれば、企業として「子どもの幸せ」を願う強いメッセージとなります。そして、この強いメッセージは「ひとり親」が働きやすい環境をつくるだけでなく、将来的な会社の成長にもつながっていくのです。
「ひとり親」の就業環境に関する実践例
最後に、厚生労働省が毎年行っている「はたらく母子家庭・父子家庭応援企業表彰」より、具体的な企業の実践例をご紹介します。厚生労働省の公式サイトにて、受賞企業のメッセージもぜひ直接ご覧いただき、自社での取り組みの参考になさってください。●採用にあたっては、会社説明、勤務相談など、母子家庭等就業・自立支援センターと積極的に連携を図っている
●子の看護休暇を就業規則に規定。また、時間休制度を設けて急な休みにも対応できるようにしている
●定期的に面談を行い、家庭と仕事の両立で困ったことがないかなどヒアリングして、必要に応じて社内で共有・対応する
●参観日等の短時間の休暇も積極的に取得を促す
●ひとり親家庭であることによる時間的制約に対する職員間理解の向上を図る
●職員の相談に様々な分野で対応できるよう、人事課・庶務課・厚生課・健康保険組合等を集約した相談窓口を設置している
●多様なライフスタイルを持つ様々な世代の方を配置して勤務表を作成することでフォロー体制を構築している
なお、「ひとり親」に関する施策全般は、2023年4月より厚生労働省から「こども家庭庁」へ移管しています。
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