令和4年度の障がい者雇用未達成企業の企業名が公表されました。今回、企業名公表になった企業は5社、そのうち3社は再公表となっています。今回の企業名公表の状況から考察したことに加え、障がい者雇用状況が改善しない企業が見直すべき点についてお伝えしていきます。
令和4年度の障がい者雇用未達成企業名が公表に。障がい者雇用状況が改善しない企業が見直すべき点とは?

令和4年度の障がい者雇用未達成企業が公表

従業員が一定数以上の民間企業では、「障害者の雇用の促進等に関する法律」(障害者雇用促進法)で定められている「法定雇用率」以上の割合で障がい者を雇用する義務があります。令和5年4月現在の障害者法定雇用率は2.3%、つまり従業員43.5人に対して1名の障がい者雇用が義務付けられています。

令和4年度の障がい者雇用未達成企業については、厚生労働省から令和5年3月、該当する企業5社が発表されました。今回発表された5社のうち3社については、令和3年度(令和3年12月)にも公表されており、依然として改善が見られないとして、今回再公表となりました。

近年、企業名公表がされている企業数の推移は、以下のとおりです。
障害者雇用率未達成企業公表数の推移

出典:障害者の雇用の促進等に関する法律に基づく企業名公表について(厚生労働省)

令和3年度の公表企業数は例年よりも多く感じますが、これは平成30年の官公庁などにおける障がい者雇用の水増し問題による影響や、新型コロナウイルス感染拡大により、障害者雇用率未達成企業への指導の期間が延長されていたことが関係しています。令和4年度に関しては5社中3社が再公表となっており、一度企業名公表になったからといって、その後の指導が緩むことがないことを示しています。

今回、再公表となった企業のケースを見ていくと、「障害者雇入れ計画作成命令」が再度出され、雇入れ再計画の実施、雇入れ再計画の適正実施勧告が出されていることがわかります。障がい者雇用状況の推移では詳細は記載されていないので、実際にはどのような取り組みがなされたのかはわかりませんが、結果的にはいずれも低い水準の実雇用率が報告されています。

そもそも「企業名公表」は、多くの企業にとってどうしても避けるべきこととして考えられており、「障害者雇入れ計画作成命令」が出されて「企業名公表」の可能性があると、それなりに対策を考えて講じるケースがほとんどです。再度の企業名公表名を阻止するために優先的に対応しなかったということは、企業における障がい者雇用への関心や意識が低いことを示していると言えるでしょう。個人的には、企業名公表についての影響は社内外に大きなものがあると感じています。企業名公表の経緯やリスクについては、文末の参考リンクをご参照ください。

障がい者雇用状況が改善しない企業が見直すべき点

障がい者雇用者数や雇用率は年々上がっていますし、国としての施策や助成金なども、以前と比べると驚くほど充実しています。しかし、障がい者雇用が進まない企業や、企業にとって負担と感じさせることに対して、どのような解決策を図っていくとよいのでしょうか。下記の2点から考えてみていただきたいと思います。

●障がい者雇用のコンテクストを捉え直す
障がい者雇用を考える多くの企業では、障がい者雇用というと「障がい者を雇用すること」に焦点が当たっていることがほとんどです。しかし、障がい者雇用を「新たなコンテクストで捉え直す」と違った面が見えてきます。コンテクストというのは、「文脈」という意味があります。障がい者雇用を違った文脈で捉える、つまりもっと視野を広げて「組織」として考えると違った役割が見えてきます。

例えば、障がい者雇用の推進によって業務プロセスの効率化を図ることができ、コスト削減につながった企業があります。この企業は特例子会社で、親会社の業務であるインターネットサービスやゲーム事業に関わる検証業務などを担っています。この検証業務は、以前は社外へ業務委託するか、あるいは派遣社員が行っていましたが、特例子会社が担うことで、コスト削減のメリットに繋がっています。

検証業務に関連して、見積り取得や社内稟議、契約書のまき直しなどの工数が多々発生します。業務がスケジュール通りに進むことばかりでないため、スケジュール変更があると更に工数がかかっていました。しかし、グループ内でおこなうことで、ある程度柔軟に対応できるようになったそうです。また、グループ内であれば同じインフラ、例えば社内のネットワークや共通のシステムを使用することができるため、業務環境整備から始める外部への業務委託よりも環境面を整えやすくなりました。直接のコストには表れなくても、マンパワーや時間の短縮などの見えないコストが大幅に削減できたそうです。

さらに、外部にアウトソースしていた際には社内でナレッジ化できなかった業務ノウハウを、グループ内部に蓄積することができるようになりました。このようなメリットがグループ内で共有され、理解されることによって、組織にとって障がい者雇用が大きな役割を果たしています。

別の企業では、障がい者雇用が社員のマネジメント力アップに貢献したと感じています。中堅社員として活躍してほしいと考えていた社員がいましたが、後輩が入ってこないのでマネジメントの経験を積む機会がありませんでした。この企業では、中堅社員に障がい者のマネジメントを任せました。その結果、この中堅社員の方の成長につながったと責任者の方が喜ばれていました。

この他にも、障がい者雇用を行ったことで、障がいの有無に関係なく働きやすい職場になるきっかけづくりができた、多様性の理解が深まった、組織が活性化した、社員のキャリアップにつながった……などのポジティブな効果を得た企業があります。組織全体で障がい者雇用をどのようにポジショニングするのかにより、その役割は大きく変わってきます。

●組織に必要とされている業務を考える
「障がい者を雇用」するということだけに焦点が当たっていると、いわゆる障がい者の業務として多い事務補助や軽作業、清掃、福利厚生的な業務を考えがちです。もちろん、これらの業務が組織にとって必要なものであれば、その業務で雇用することはいいでしょう。しかし、障がい者を雇用することだけを意識して、これらの業務を作り出すことは、本末転倒です。

そもそも今までの障がい者雇用の事例としてあげられてきたこれらの業務の多くは、ITやAIの進歩、働き方や経営環境の変化によって、すでに縮小されているか、今後減ってくることが予想されるものです。そこに焦点をあてるのではなく、組織に必要とされている業務を考えていく必要があります。

例えば、下図のような視点から、業務内容を考えることができるかもしれません。
令和4年度の障がい者雇用未達成企業名が公表に。障がい者雇用状況が改善しない企業が見直すべき点とは?
「専門的な業務なので難しい」、「◯◯障がいだから、この業務はできない」という担当者の声を聞くことがあります。しかし、障がい者雇用の人材は多様になってきています。必要なスキルや能力のある障がい者がいるところで採用活動することで、必要な人材を採用する可能性が高まります。その場合には、どのような業務で、どのような役割を担ってほしいのかを明確にすることが必要です。

今後、障害者雇用率が令和6年4月1日に2.5%、令和8年度中に2.7%に上がることが発表されています。さらに、障がい者の雇用が一般的に難しいと認められる業種で設定されていた除外率の引下げが令和7年4月に予定されています。今までの障がい者雇用の方法で難しいと感じているのであれば、障がい者雇用を「組織」として捉え、組織が求める業務は何かを考えてみることが求められています。

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