「振替休日」と「代休」の違いはどこにあるのか
●「振替休日」とは
「振替休日」は、厚生労働省のモデル就業規則では「休日の振替」と表記されています。元々休日と定められていた日を労働日とし、その代わりに他の労働日を休日とすることを言います。暦通りの会社では「今週の日曜日を労働日にする代わりに、次の月曜日を休日にする」のような運用です。これにより、日曜日が「労働日」に、月曜日が「休日」に替わります。「振替」よりも「入れ替え」や「交換」と言った方がイメージはしやすいかもしれません。ポイントは、休む日を「あらかじめ」指定することです。「休日 → 労働日にする日」と「労働日 → 休日にする日」をセットで指定することが、振替の条件です。このような休日の振替(振替出勤・振替休日)をする場合には、就業規則に「休日を他の日に振り替えることがある」旨を定めておく必要があります。
●「代休」とは
一方で「代休」は、まず休日出勤をさせ、事後にその代償として休みを与えるものです。「今週土曜日に休日出勤をしてほしい、その代わりどこかで休んでいいから」というように、休日出勤の時点で代わりの休日を指定しない方法がこれにあたります。休日出勤した日は休日のまま、代わりの休み(代休)も労働日扱いのままです。「労働基準法」上、代休を設けることは義務ではありませんので、制度として設ける場合には、就業規則に「代休を付与する条件や賃金の取り扱い」などを定めておく必要があります。「振替休日」と「代休」で異なる賃金の支払い方に注意
「振替休日」と「代休」をなぜ区別する必要があるかというと、割増賃金支払義務の有無に関係してくるからです。例として、日曜日(法定休日)に労働した場合を考えてみましょう。これが振替出勤なら、この日曜日の労働は休日労働ではないため、休日労働分の割増賃金支払義務は発生しません。一方、休日の振替を行っていない場合、この日曜日の労働は休日労働ですので、休日労働分の割増賃金の支払いが必要になります。両者の違いを理解できていないと、未払賃金のリスクを抱えるおそれがあるのです。以下で、振替休日と代休に関する“勘違いしやすい点”を解説していきます。
1)「休日の振替=割増賃金不要」ではない
前述の通り、振替出勤日は休日出勤の扱いにはならず、当然、振替出勤日の休日出勤分の割増賃金は不要です。ただし、振替出勤日は通常の労働日です。振替出勤により週40時間の労働時間を超えれば、超えた分は割増賃金が必要になります。●振替出勤が8時間を超えたとき
●振替出勤時に深夜労働が発生したとき
上記の場合には、それぞれに応じた割増賃金の支払いが必要となります。「休日の振替をすれば割増賃金が不要」という勘違いは非常に危険です。
2)賃金締日を跨いで「振替休日」や「代休」を取得する場合はまず全額支払う
振替休日も代休も、取得日が賃金締日を跨ぐ場合には注意が必要です。「労働基準法」第24条では、賃金は法令で定められているものを除き、全額を残らず支払わなければならないとされています。つまり、振替出勤・休日出勤した月には一旦その分の賃金を全額支払い、振替休日・代休を取得した月に、その休日分の賃金を控除する必要があるのです。ただし、控除できるのは基本賃金(1.0の部分)のみで、割増賃金分を控除することはできません。また、就業規則に「代休が付与された場合は、その日は割増賃金部分のみ支払う」旨の規定がないと、代休取得日にも通常賃金を支払わなければならない点は押さえておきましょう。
●休日出勤した月:21,600円(=2,000円×8時間×1.35)の支給
●代休取得した月:16,000円(=2,000円×8時間×1.0)の控除
⇒ 結果、5,600円(=2,000円×8時間×0.35)が支給されたことになる
3)「振替休日」との名称で運用しているが、実態が「代休」の場合は「代休」扱い
代わりの休日を事前に指定していないのに「振替出勤/振替休日」として運用している企業は要注意です。その振替出勤に対して休日出勤相当の賃金(割増賃金含む)を支払っていれば良いですが、そうではない場合、賃金の未払いが発生していることになります。「労働法」は、名称にかかわらず実態で判断しますので、いくら社内で「振替出勤/振替休日」として運用されていたとしても、実態が「代休」であれば「振替出勤/振替休日」とは捉えられません。
割増賃金分の差分と思えば小さく感じるかもしれませんが、それが数十時間、数十名、と積み上がっていけば大きな金額に変わります。現在、未払賃金は3年まで遡及して請求できることも留意したい点です。正しい運用ができていないことは、すなわち企業にとって未払賃金請求のリスクを抱えていることになります。この機に、自社の運用を見直していただければ幸いです。
山形労働局:「代休?振替休日?」
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