個人で事業を営むよりも圧倒的に有利な「企業勤務者の年金」
企業勤務者の年金は、個人で事業を営む者が加入する年金に比べて利点が多く、圧倒的に有利である。一例を挙げると、企業勤務者の年金には「複数の制度から年金の支払いを受けられる」というメリットが存在する。一般的に、企業の社会保険事務担当者は「社員が加入する年金は厚生年金である」と理解しがちだが、その認識は正確ではない。社員の採用に際して年金事務所に資格取得届を提出すると、厚生年金と国民年金の両制度に同時加入するのが通常だからである。この場合、老後には厚生年金と国民年金の2つの制度から、それぞれの年金が受け取り可能となる。
一方、個人事業者やフリーランサーなど個人で事業を営んでいる場合には、国民年金にしか加入できないため、老後も国民年金からしか支払いを受けられない。このことから、企業勤務者の年金のほうが、総受取額が遥かに多くなるのである。
また、企業勤務者の年金には「保険料を全額自分で支払わなくてよい」というメリットも存在する。個人で事業を営む場合には、国民年金の保険料を全額自分で捻出しなければならず、支払いが滞れば老後に受け取る年金額がその分少なくなる。しかしながら、企業勤務者の場合には、給料額に応じた厚生年金の保険料の半分を本人が支払うだけで、給料水準に見合った年金を受け取り可能となる。残り半分の保険料は、企業側が支払うためである。
以上のことから、企業勤務者の年金は、社員にとっては「半分のコスト負担で2つの年金をもらえる」という大きな利点を持つ制度といえる。自身が加入する年金の基本的特徴として、新入社員に理解させたい仕組みである。
保険料支払いは「意義ある社会的行為」であることを認識づける
日本の年金制度には、「どんなに長生きをしても、同等の価値の年金が一生涯、支払われ続ける」という特徴がある。それを可能にするのが、「現在の保険料収入」を「現在の年金支払い」の原資とするわが国の年金制度の仕組みだ。つまり、現在、厚生年金や国民年金の加入者が毎月支払う保険料は、現在の年金受給者への支払いに充てられているわけである。このような仕組みを「賦課方式」と呼ぶ。社会に出て働き、毎月定められた厚生年金の保険料を支払うことにより、現在の高齢者や障がい者、一家の大黒柱を失った方などへの適切な年金支払いが実現される。一般的に、高齢者や障がい者などは稼得能力が高くないため、そのような方々の現在の生活を支えているのが、現在の年金制度加入者が支払っている月々の保険料になるわけである。
その意味では、厚生年金に加入して保険料を支払う行為は、極めて重要かつ意義深い「社会的行為」といえる。仮に、自身が年金をもらう立場になった場合には、そのときの年金制度加入者が毎月支払う保険料によって生活を支えてもらうことになる。厚生年金や国民年金は私たちが末永く安心して生活できるように工夫された「社会保障の仕組み」であることを、しっかりと説明したい。
学生時代に年金の特例を利用していると「年金の満額受給」が困難に
20歳を過ぎた学生は、国民年金への加入が義務付けられる。しかしながら、学生が月々の保険料を支払うのは困難なケースが多いため、学生に対して保険料の支払いを猶予する「学生納付特例制度」という仕組みが用意されている。学生時代にこの特例に申し込んでいると、保険料を支払わなくても督促を受けなくて済むため、大卒新入社員の場合にはこの制度の利用者が少なくないであろう。ところが、学生納付特例制度を利用した場合には、将来的に年金の受取額が少なくなるトラブルに見舞われることがあるため、注意が必要である。
国民年金の老後の年金は20歳から60歳になる前までの40年間加入し、定められた保険料を漏れなく支払うことで満額の年金受け取りが可能になる。しかしながら、学生時代に特例を利用して保険料を支払っていない期間がある場合には、その分だけ老後の年金額も少なくなるのである。
このような状況を回避するには、特例を利用して支払わなかった保険料を後から支払う「追納制度」という仕組みを活用するとよい。この制度を利用して、学生時代に支払いが猶予された保険料を社会人になってから全額支払っておけば、満額の年金受給が可能になる。自身が学生時代に行った年金の手続きによって高齢になってから不利益を被らないよう、若年社員に教育したい内容である。
「新入社員への年金教育」で次代を担う社員育成を
多くの企業では、新入社員に公的年金制度の意義や仕組みを指導することがない。そのため、若年社員は年金制度に対して「加入すると給料の手取りが減る」などのマイナス感情しか持たないことが多い。しかしながら、新入社員に適切な年金教育を実施することで、自身が加入する公的制度に対する正しい認識を植え付けられるとともに、制度上の不利益を回避することも可能になる。さらには、「企業勤務者の社会的意義」を指導することにより、近視眼的思考に陥りがちな若年社員に対し「多角的視野を持つことの重要性」も教育することができる。
企業勤務者の年金に関する研修指導は、“次代を担う若年社員教育の一環”として意義ある取り組みといえるのではないだろうか。
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