「研修を実施しても、その効果をなかなか検証できない」、「リモートワークが広がる中、コミュニケーションが不足しており入社後の定着支援がしづらい」といった課題感を抱いている人事担当者も多いのではないだろうか。人材育成において重要なのが、学習内容の定着や離職防止に役立つ「フォローアップ」だ。本稿では、「フォローアップ」の詳しい意味や重要性、面談や研修など有効な施策を行うためのポイントなどを解説していきたい。
人材育成における「フォローアップ」の意味とは? フォローとの違いと有効な研修や面談を解説

「フォローアップ」の意味と重要性とは?

「フォローアップ」とは、一度学習した内容をさらに強化したり、その効果を確認するために、一定の時間が経ってから繰り返し行ったり、進展を調べることを言う。人材育成においては社内研修や訓練を受けた後に「フォローアップ」を行うことで、社員の理解が深まりスキルアップにつながりやすい。また、定期的に実施していけば従業員の帰属意識を高めることができる。

◆「フォローアップ」と「フォロー」の違い

「フォロー」とは、「対象者ができていないことを代わりに補うこと」を意味する。これに対して、「フォローアップ」は「対象者が特定のことを習得できるよう、身につくまで面倒を見たり、進捗ぶりを一緒に確認したりすること」と定義付けられる。仕事においては、上司が部下をフォローすることもあれば、上司が部下を「フォローアップ」することもあるだろう。
このうち、部下の育成や成長につながる施策としてより有効なのは「フォローアップ」である。上司は部下の目標達成や課題解決を共に目指し、時にはできない原因を問いかけて本人に考える機会を提供しながら並走する。それを繰り返し行うことで、部下の知識やスキルの定着が可能になる。

◆新入社員の離職状況にみる、「フォローアップ」の重要性

「フォローアップ」は、従業員のスキルアップのほか、新入社員の離職防止においても大きなメリットがある。厚生労働省が発表した「新規学卒者の離職状況」によると、令和2年度における新規学卒就職者の入社3年目までの離職率は、大学卒就職者が31.2%、高校卒就職者が36.9%と、実に3~4割もの新入社員が入社3年目までに離職している。その理由として、内閣府が平成29年に行った「就労等に関する若者の意識」調査では、「仕事が自分に合わなかったため」と「人間関係が良くなかったため」が上位となった。いずれもの要素も、人事や配属部署での「フォローアップ」でカバーできる余地があるだけに、入社後3年程度は、適切な「フォローアップ」を行うことが望ましい。

「フォローアップ」の目的

「フォローアップ」の主な目的として、下記の2点があげられる。

●定着率を上げるため

前述のとおり、早期離職の理由として多い「仕事が自分に合わない」、「人間関係が良くない」といった要因は、適切な「フォローアップ」によって改善が期待できる。「フォローアップ」の徹底は、社員の定着率向上に有効だといえる。従業員からすれば、サポートしてもらえることに感謝するとともに、そうした学習の機会が設定されていることに安心感を抱くことができるだろう。それが、結果として会社に対するエンゲージメントの向上につながると考えられる。

特に、新入社員の定着はどの企業も悩みの種となっている。もし辞めてしまうと、再度採用を行わなければいけないだけでなく、採用後の教育も必要だ。こうした事態を防ぐためにも、「フォローアップ」は不可欠な施策といえる。

●社員のスキル向上のため

会社が研修や教育訓練を行うのは、会社が目指す成果を生み出していくために必要な能力を習得させ、業務を遂行していく上でそれらを発揮してもらいたいと考えているからだ。人材育成を実現するには、スキルの獲得のほか、応用力や臨機応変な対応、斬新な発想などが求められる。そうした感覚を身に付ける機会として「フォローアップ」が位置づけられている。

具体的な「フォローアップ」の方法

次に、「フォローアップ」の具体的な方法を取り上げたい。

●人事による面談でのヒアリング

人事との面談は、代表的な「フォローアップ」の方法だ。日頃は、同じ職場の上司や先輩から業務に関する指示や指導があるだろう。ただ、やりとりがあるからと言っても、社員側が抱えている悩みを言いやすいとは限らない。特に、配置されて間もない新入社員にとっては、むしろ採用や研修を通じて接点があった人事担当者の方が話をしやすい場合がある。人事による面談の機会を設け、所属部署だからこそ話しづらい内容についてなど、社員の本音を聞き、課題を把握することが従業員の定着に有効である。面談では、社員の現状における意識と労働環境上の問題点、理想とする環境、あるべき姿を実現するための手段などについてヒアリングするとともにアドバイスを行うようにしたい。

●直属の上司による定期的な1on1

定期的に上司と部下とが1on1ミーティングを行うのも、「フォローアップ」としては効果が大きい。上司は、社員の業務を把握しているため、実質的なアドバイスができることに加え、日々の言動を観察しているので、悩みや相談事を抱えているといった心の変化を察しやすい。時間が経つと課題が膨らんでしまうので、少しでも気づきを感じたら「フォローアップ」すべきである。その際には、仕事の現状だけでなく、中長期的な目標やキャリアビジョン、スキルアップの方法などについても話し合うようにしたい。信頼関係が深まるはずだ。

●先輩社員による個別支援(メンター制度の導入)

メンター制度とは、年齢や社歴が近い社内の先輩社員が後輩社員を個別に支援する制度のことをいう。この場合、サポートする先輩をメンター(助言者)、サポートされる側をメンティーと呼ぶ。マッチングの方法としては、人事部がメンティーの年齢や経験などの要素を考慮して適した人物をメンターとしてアサインする「アサインメント方式」や、人事部が選定したメンター候補に対し、メンティーが希望者をあげる「ドラフト方式」などがある。両者の性質を加味して、メンティーが悩みや課題を素直に伝えやすいメンターを選定することが重要だ。

●フォローアップ研修の実施

経営理念の浸透やスキルの向上などを目的として、社員に対して定期的に「フォローアップ研修」を実施する企業も多い。これは、研修が終了してから一定期間が経ったところで、再度同じメンバーを集めて研修内容が身に付いているか、実践できているかを振り返る研修である。また、新入社員に関しては、配属後の不安解消や同期との連帯感作り、モチベーションアップなどの効果を期待できる。

フォローアップ研修の内容として、3つ事例を紹介する。

・今後に向けたキャリアデザイン
ただ単に毎日働いていても、仕事にやりがいは感じられず、意欲も低下してしまう。そこで、「フォローアップ研修」を利用して社員に今後に向けたキャリアデザインを考えてもらうという取り組みが行われている。これによって、社員は自身の未来に向けて何を目標として働くべきか、その目標を実現するためにどのようなマイルストーンを設ければ良いかが具体的に描けるので達成の可能性も高まっていく。あわせて、目標に向けたアクションを遂行していくためには、思考や意識を変えていくべきだという成長意欲も高まる。

・実践事例のプレゼンテーション
研修で得た学びを日々の業務に落とし込むのは、意外と難しいものだ。まずは、研修の場でどのような知識や学びを得ることができ、それらが実践の場でどう活用していけるかをプレゼンする機会を設けてみてはどうか。インプットとアウトプットをセットにすることで、研修での成果が論理的に整理され、知識が定着しやすい。プレゼンテーションスキルも高めることができる。

・コミュニケーションスキルの向上
コミュニケーションスキルの向上にフォーカスする「フォローアップ研修」も見られる。適切なコミュニケーションを身に付けるため、基礎知識の習得やロールプレイングを定期的に行うと効果的である。

効果的に「フォローアップ」を行うポイント

続いて、「フォローアップ」を効果的に行うためのポイントを具体的に説明する。

●適切なタイミングで行う

適切なタイミングで「フォローアップ」を行うことで、獲得スキルのさらなる定着が見込める。日常的に行う「フォローアップ」と一定期間後に行う「フォローアップ」に分かれるが、3ヵ月後に、期間中の目標達成状況のプレゼンを行い、1年後に、期間中での実践ぶりを総合的に振り返るとともに、次のステップに向けた目標設定を行うなど、期間に応じた内容の「フォローアップ」を設定するとよい。

●PDCAサイクルを回し成長実感を持たせる

PDCAとは、Plan(計画)・ Do(実行)・ Check(評価)・ Action(改善)を指す。最初の研修後にPlan(計画)・ Do(実行)を行い、フォローアップ研修で実施状況を Check(評価)する。その結果をふまえて、Action(改善)を進めていくという流れだ。これによって、社員に成長実感を持たせることができる。

●詰め込みすぎない

「フォローアップ」の内容を詰め込みすぎないことも重要である。対象者はプログラムについていくことができず消化不良になり、意欲が薄れてしまう。当然ながら、会社が期待する効果を得られなくなってしまう。

●参加者同士の意見交換の場を設ける

「フォローアップ」を受けている人たちが意見交換できる場を設けることも、モチベーション向上に有効である。「どのようなフォローアップでモチベーションが向上したか」、「どんな支援を期待するか」、「次の研修で何を重視すべきか」など、テーマを決めて意見を出し合ってもらうと、不足している「フォローアップ」の内容を次回以降に組み込むことができる。


「フォローアップ」を行うことで、育成の効果を高めることができる。研修での学習内容をうまく活かせなかった場合、それはどこに課題があるからなのか、どうすれば解決できるのかを考えるためにも、「フォローアップ」がPDCAサイクルを回す良い機会となる。特に、新入社員の場合は研修内容のアウトプットに差が生じやすい。一人ひとりの進捗に合わせて育成施策を考えていくことで、従業員の成長はもちろん、モチベーションやエンゲージメントの向上にもつながるだろう。

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