日本の「男女間の賃金格差」は、長期的に見ると縮小傾向ではあるものの、他の先進国と比べると依然として、格差が大きい状態です。そのような中、2022年7月に「女性活躍推進法」の厚生労働省令が改正され、労働者が301人以上の企業における「男女の賃金差異」の公表が義務化されました。情報公表時期は「事業年度終了後3ヵ月以内」なので、公表時期が近づき準備に追われる企業も多くなっているのではないでしょうか。また、昨年末にはFAQも改訂されています。そこで今回は、情報公表の詳細について改めて確認していくことにします。

「男女の賃金差」の公表義務が常時雇用301人以上の企業にも拡大。算出・公表方法を確認しよう

女性活躍推進法の女性の活躍に関する「情報公表」とは

「女性活躍推進法」による情報公表は、企業の女性活躍推進の姿勢を表すものとして行われています。これらの情報は誰もが確認できる方法で公表することが求められるため、「優秀な人材の確保」や「競争力の強化」が期待されています。

常時雇用する労働者が301人以上の事業主は、これまで「女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供」から1項目、「職業生活と家庭生活との両立」から1項目の、計2項目の情報公表が義務化されていましたが、今回の改正により「男女の賃金の差異」の公表が追加で義務化されました。公表すべき情報の詳細は以下の通りです。

【女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供】
以下(1)~(8)のうち1つ+(9)の計2項目の公表必須

(1)採用した労働者に占める女性労働者の割合
(2)男女別の採用の蹴る競争倍率
(3)労働者に占める女性労働者の割合
(4)係長級にある者に占める女性労働者の割合
(5)管理職に占める女性労働者の割合
(6)役員に占める女性の割合
(7)男女別の職種または雇用形態の転換実績
(8)男女別の再雇用または中途採用の実績
(9)男女の賃金の差異 ※新設

【職業生活と家庭生活との両立】
以下(1)~(7)から1項目の公表必須

(1)男女の平均継続勤務年数の差異
(2)10事業年度前およびその前後の事業年度に採用された労働者の男女別の継続雇用割合
(3)男女別の育児休業取得率
(4)労働者のひと月当たりの平均残業時間
(5)雇用管理区分ごとの労働者のひと月当たりの平均残業時間
(6)有給休暇取得率
(7)雇用管理区分ごとの有給休暇取得率

新設された「男女の賃金の差異」の算出・公表方法のポイント

男女の賃金は、それぞれの総賃金を人員数で割ったものを比較して算出します。その際のポイントを確認しておきましょう。

1)算出・公表する賃金差は「正規雇用労働者」、「非正規雇用労働者」、「全労働者」の3区分

●「正規雇用労働者」とは、期間の定めのないフルタイム勤務の労働者
●「非正規雇用労働者」とは、1週間の所定労働時間が正規雇用労働者より短い労働者及び有期雇用労働者
●「全労働者」とは、「正規雇用労働者」と「非正規雇用労働者」の合計

上記3区分それぞれで男女の賃金差の公表が求められます。なお、派遣労働者は派遣元で算出・公表するため、派遣先では賃金差算出の対象外です。

2)賃金差算出時の「総賃金」は労働の対価として支払うものすべて

先ほど、総賃金を人員数で割ったものを男女で比較すると説明しましたが、このときの「総賃金」には、給与だけでなく、手当、賞与その他名称にかかわらず、労働の対象として使用者が労働者に支払うすべてのものを含みます。ただし、退職手当と通勤手当は、その性格から「総賃金」に含めるかどうかは事業主の判断に委ねられています。

3)賃金差算出時の「人員数」には育児介護等の時短勤務労働者も含める

育児介護等で時短勤務をしている労働者も「人員数」に含めます。時短勤務の労働者が女性ばかりだと賃金差は拡大してしまいますが、これは男女の働き方に偏りがあるから発生することです。こういった偏りを是正するための情報公表や状況把握ですから、除外せずに算出・公表し、年々この差が縮小されるよう行動しましょう。

なお、この例のように男女間賃金格差の背景事情が明確な場合には、その背景も追加情報として公表することができます。数値だけではわからない情報や分析結果を同時に公表することで、自社の状況をより正しく理解してもらうことが可能です。

4)算出・公表の基準は事業年度

男女の賃金差の算出・公表は、事業年度ごとに行います。そのため、企業により算出・公表のタイミングが異なります。公表の目安は、事業年度が終了してからおおむね3ヵ月以内ですので、「1月から12月が事業年度の企業」では3月末までに、「4月から3月が事業年度の企業」では6月末までに、事業年度ごとの賃金差を公表する必要があります。

5)公表は求職者等が容易に閲覧できる場所へ

公表方法や公表場所は、改正省令の施行前と変わりありません。男女の賃金差以外の項目と同様、厚生労働省が運営する「女性の活躍推進企業データベース」や、自社のホームページ等、誰もが容易に閲覧できる方法で公表します。



情報公表をするということは、当然、状況把握や改善案策定を行うことにも繋がります。求職者や自社の労働者への職場環境のPRの一種として、今回の情報公表を活用していただきたいと思います。



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