令和5年の「障害者雇用納付金」の申告申請期間(常用雇用労働者が100人以上の企業:4月1日~5月15日、常用雇用労働者が100人以下の企業:4月1日~7月31日)が近づいてきました。今回は、「障害者雇用納付金制度」について、 令和4年度の申告申請からの変更点や申告の対象、申告申請の流れと申告期間について解説します。同制度や「障害者雇用調整金」等の申請手続きの詳細は、「独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構」のホームページに掲載されていますが、かなりのボリュームがありますので、概要を把握してから取り組むことをおすすめします。
令和5年度「障害者雇用納付金」新電子申告申請システム申請のポイント
令和5年度からは、新しい障害者雇用納付金『電子申告申請システム』の運用が開始されます。新しい電子申告申請システムの運用開始に伴う制度の変更点と、新システムの特徴について見ていきましょう。【新電子申告申請システムの運用開始に関する変更点】
新電子申告申請システムの運用開始に伴う制度の変更点3点について見ていきます。1.「事業主番号」から「法人番号」への移行
令和5年度申告申請から、「事業主番号」の使用が終了し、「法人番号」を用いた申告申請に移行します。申告申請以外の住所変更や吸収合併、事業廃止の届出などについても法人番号による手続きに統一されます。ただし、例外として法人番号のない個人事業主などについては、引き続き事業主番号を使用した申告申請となります。
2.申告申請書作成支援シート(マクロ機能付きExcel)の廃止
新電子申告申請システムの運用開始に伴い、令和4年度まで使用していた申告申請書作成支援シート(マクロ機能付きExcel)が廃止となります。ただ、 マクロ機能付きExcel自体は廃止になりますが、過去にマクロ機能付きExcelで作成した申告申請書については、新しい電子申告申請システムにバックアップデータを取り込むことにより、申告申請書の作成が可能となります。
3.紙で申告申請書を提出する場合にはQRコードを提出
電子申告申請システムで申告申請書を作成した場合には、そのまま電子申告申請で提出することができますが、紙に印刷して提出する場合には、申告申請データが集約された QRコードが印刷された様式のみを申告申請窓口へ送付または提出する形式になります。添付書類の提出が必要な場合には、この QRコードとは別に提出が必要となります。
【新電子申告申請システムの特徴】
1.WEBでの申告申請書の作成が可能電子申告申請システムのWEB上のフォームに情報を入力して、申告申請書を作成します。昨年度までは、電子申告申請を行う場合には申告申請書作成支援シート(マクロ機能付きExcel)を使用して申告申請書を作成していましたが、新電子申告申請システムでは、所定のフォームに情報を入力して申告申請書を作成することになります。申告申請書の作成には、IDパスワードでのログインは必要ありません。
2.過去の申告申請書のバックアップデータからの取り込みが可能
XMLファイルや CSVファイルを取り込んで、申告申請書を作成することができます。所定フォーマットのCSVファイルを 取り込むことで、前年度の申告申請書のバックアップデータや、各事業所で利用している人事労務ソフト等からダウンロードしたデータを申告申請書の事業所情報及び、障がい者情報に反映させることができます。
3.WEB上で電子申告申請用IDパスワードの発行変更手続きが可能
電子申告申請用の IDパスワードについては、従来、雇用支援機構に書類を送付してIDパスワードの 新規発行や再発行が行なわれていました。この手続きがWEB上で行えるようになりました。また、同じ事業所でも担当者ごとに複数のIDパスワードを発行することが可能です(複数のIDパスワードを発行する場合は、それぞれ異なるメールアドレスの登録が必要)。電子申告申請用IDパスワードの発行には、法人番号または事業主番号が必須です。
4.添付書類の電子送信が可能
これまでの電子申告申請では、申告申請書及び障害者雇用状況等報告書のみの提出でした。新電子申告申請システムでは、源泉徴収票や障害者手帳の写しなどの雇用障がい者の労働時間の状況や、障がいの種類や程度を明らかにするための添付書類も、PDF形式で電子送信ができます。システムの詳しい内容については、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構のホームページに掲載している操作マニュアルや電子申告申請システム開設動画を参考にしてください。
「障害者雇用納付金制度」申告の概要
【障害者雇用納付金の申告対象】
障害者雇用納付金の申告義務のある事業主は、「短時間以外の常用雇用労働者(週所定労働時間30時間以上)」および「短時間労働者(週所定労働時間20時間以上30時間未満:1人を0.5カウント)」の総数が100人を超えるすべての事業主です。各月の労働者を把握する「算定基礎日」において、雇用している常用雇用労働者と短時間労働者の総数が100人を超える月が連続、または断続して5ヵ月以上ある場合は、対象事業主となります。令和5年の申告申請の適用期間は、「常用雇用労働者が100人以上の企業」が4月1日~5月15日、「常用雇用労働者が100人以下の企業」が4月1日~7月31日となっています。「法定障害者雇用率」を達成していて、納付金が0円となる事業者も、「障害者雇用納付金申告書」の提出が必要です。
出典:令和5年度障害者雇用納付金制度 記入説明書(独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構)
【「障害者雇用納付金」申告申請書提出の流れと申告期間】
「障害者雇用納付金」の申告の流れを見ていきましょう。STEP1:「常用雇用労働者」の総数の把握
まず、自社の「常用雇用労働者数」(①週所定労働時間30時間以上の労働者数+②週所定労働時間20時間以上30時間未満の労働者数×0.5)を把握します。常用雇用労働者総数が100人超となる月が連続または断続して5ヵ月以上ある場合、「障害者雇用納付金」申告の該当企業となります。
STEP2:雇用障がい者の総数の把握
自社が「障害者雇用納付金」申告の該当企業である場合、各月ごとの「雇用障がい者数の総数」を把握します。障がい者の雇用義務が軽減される「除外率制度」の適用を受けている事業主は、ハローワークに提出している「障害者雇用状況報告書」の除外率を「障害者雇用納付金」申告申請書に記入します。
STEP3:申告申請書類の作成
「障害者雇用納付金」申告申請書類を作成します。令和5年度は、「申告申請書作成支援シート(マクロ機能付きExcel)」および申告申請様式が更新されています。様式外の書類については、再提出する必要があるので注意してください。
STEP4:申告申請書類の提出
「障害者雇用納付金」申請書類が作成できたら、締切日までに提出します。申告書の作成は、電子申告申請システムで作成するか、Excel様式、またはPDFで作成します。作成した申告申請書類は、原則として電子申告申請により提出します。電子申告申請が出来ない場合には、本社または障害者雇用状況報告を提出したハローワークが所在する各都道府県申告申請窓口に送付または持参により提出します。
STEP5:「障害者雇用納付金」の納付
「障害者雇用納付金」徴収の対象となっている場合には、期日までに納付します。納付は、ペイジー(インターネットバンキング)か、金融機関窓口にておこないます。
STEP6:「障害者雇用納付金」他、支給金の支給
令和5年度の「障害者雇用納付金」等の申告申請期間/納付期限・支給時期は下図のとおりです。
出典:令和5年度障害者雇用納付金制度 記入説明書(独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構)
「障害者雇用納付金」申告申請への新型コロナウイルス感染症に関する影響について
新型コロナウイルス感染症拡大に関する「障害者雇用納付金」申告申請の注意点をいくつかご紹介します。昨年度と内容の変更はありませんが、主要なQ&Aをご紹介しておきます。Q:新型コロナに感染した障がい者が休業し、賃金も休業手当も払っていない場合、実労働時間にどのように計上すればよいか。
A:新型コロナに感染した労働者は、感染症法に基づき、都道府県知事から就業制限や入院の勧告等が行われます。そのため新型コロナに感染した障がい者の休業期間については、賃金または傷病手当金、休業手当等の支給の有無を問わず、所定及び実労働時間に計上します。
Q:新型コロナに感染した人の濃厚接触者となった障がい者を休業させ、賃金も休業手当も払っていない場合、実労働時間にはどのように計上すればよいか。
A:保健所から濃厚接触者と言われた場合には、新型コロナ感染者と同じ扱いになります。保健所から言われていない場合で、賃金も休業手当も払っていない場合には、実労働時間には含めることができません。
Q:障がい者が感染を恐れて自主的に休んだが、休暇制度がなく、賃金も休業手当も払っていない場合は、実労働時間をどのように計上すればよいか。
A:「実労働時間に含まれること」に該当する休暇制度を取得していない場合には、「傷病欠勤以外の欠勤」の取り扱いとなります。
Q:コロナ禍により休業していた期間について、賃金補償として給与の6割を支払っているが、「雇用調整助成金」の支給は受けていない場合、実労働時間にどのように計上したらよいか。
A:「雇用調整助成金」の支給の有無に関わらず、休業中に雇用障がい者に対して賃金の金額、または休業手当や労使協定に基づき賃金の一部を支払った期間については、実労働時間に計上します。休業した理由がコロナによるものではない場合も同様になります。1日の労働時間の一部を休業した場合、その休業した時間に対する賃金補償等が行われていれば、実労働時間に含めることができます。
Q:緊急事態宣言の発令後、勤務時間を短縮している場合、短時間労働者になるのか。
A:雇用障がい者を除く常用労働者については、所定労働時間により雇用区分を判断するため、就業規則や雇用契約書等により、その方が通常の週に勤務すべきとされている時間で判断します。雇用障がい者については、所定労働時間と実労働時間との相違などを確認し判断します。詳細については、参考リンク「令和5年度障害者雇用納付金制度申告申請書記入説明書」(独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構)で確認してください。
Q:コロナ禍のため、雇用契約の変更は行わず、労使協定により労使合意のもと一定期間所定労働時間を短縮している。この場合、週所定労働時間は、短縮後の時間になるのか。
A:労使協定により短縮したあとの時間を週所定労働時間とします。「週所定労働時間」は、就業規則、雇用契約書等により、その方が通常の週に勤務すべきとされている時間をいい、労使協定により勤務すべきこととされた時間もこれに含まれます。ただし、対象になる労使協定は「所定労働時間数の短縮」に関する労使協定に限ります。「休業(短時間休業を含む)」に関する労使協定は、所定労働時間の短縮に関する労使協定には該当しません。
Q:新型コロナウイルス感染症によって休業になり、経営が厳しい場合、納付金に免除や減免の制度はあるのか。
A:免除や減免の制度はありません。
なお、「障害者雇用納付金制度」については、令和4年度版の過去記事で詳しく解説しましたので、下記を参考にしてください。
- 1