障がい者雇用を進めていくうえで、就労系に関連する「障害福祉サービス」と関わることがあります。「就労移行支援事業所」などは、採用で活用することが多いでしょう。障がい者雇用の施策は、障害福祉の流れと関連するものが多く、基本的な障害福祉サービスに関する知識をもっていると障がい者雇用を進めるために役立ちます。本稿では、障害福祉サービスにはどのようなものがあるのか、また障がい者雇用に関連の深い就労系障害福祉サービスはどのようなものか解説していきます。
障がい者雇用をスムーズに進める「障害福祉サービス」とは? 採用や定着への支援内容を解説

「障害福祉サービス」とは?

障がい者への福祉サービスの基本的な考え方は、「地域社会における共生の実現」です。この理念は「障害者総合支援法」に示されており、この法によって障がい者の日常生活および社会生活における総合的な支援サービスが設けられています。

障害福祉施策は、2003(平成15)年度に「ノーマライゼーション」の理念に基づいて導入された「支援費制度」により充実が図られてきました。以降、障害福祉サービス利用者である障がい者自らが事業者を選択し、契約に基づいたサービスを受けられるようになったという大きな変化があります。支援費制度の導入以前は、障がい者がサービスを利用する際、障がい者本人ではなく、都道府県知事や市町村長といった行政がサービス内容や提供を決めていました。

このように、障がい当事者がサービスを選べるようになったことは大きな進展であったものの、同時に課題もありました。例えば、サービスが障がい別の縦割りとなっていたため活用しにくく、当初は精神障がい者は対象外でした。また、サービスの提供は地方公共団体間の格差が大きく、費用負担の財源を確保することが困難な地域もあるなど、地方自治体の格差が生じていました。

そのため、2006(平成18)年度からは「障害者自立支援法」が施行されています。ここでは、支援費制度で課題となっていた点について、次のような改善がおこなわれてきました。

・障がい種別を越えた障害福祉サービス体系の見直し
・公費負担医療制度の一元化
・障がい者、障がい児に必要なサービスを安定して提供

そして、その後、「障害者自立支援法」の基本的な考え方をもとに、2013(平成25)年4月、「障害者総合支援法」が施行されました。基本理念として、「自立」の代わりに「基本的人権を享受する個人としての尊厳」が明記され、「障害福祉サービスの給付」と「地域生活支援事業による支援」を総合的に行うことを目的としました。また、対象となる障がいの範囲として、身体・知的・精神の3障がい以外に、制度の谷間となって支援の充実が求められていた難病、関節リウマチなどが加えられました。施行後も、対象疾病(難病等)の見直しが随時おこなわれています。最新の情報は、下記の厚生労働省該当ページを参照ください。


障がい者向けの福祉サービスは、個々の障がい者の障がい程度や状況(社会活動や介護者、居住等の状況等)をふまえて個別に支給決定が行われる「障害福祉サービス」と、市町村の創意工夫により、利用者の方々の状況に応じて柔軟に実施できる「地域生活支援事業」にわけられます。

また、「障害福祉サービス」は、さらに介護の支援を受ける「介護給付」と、訓練等の支援を受ける「訓練等給付」にわけられており、それぞれの利用の際のプロセスやサービス利用の期間などが異なります。
障害福祉サービスについて(厚生労働省)

出典:障害福祉サービスについて(厚生労働省)

◆障害福祉サービスの内容

【介護給付】
・居宅介護(ホームヘルプ)
自宅で、入浴、排せつ、食事の介護等をおこなう。

・重度訪問介護
重度の肢体不自由者、重度の知的障がい・精神障がいにより、行動上著しい困難を有する人で常に介護を必要とする人に、自宅で、入浴、排せつ、食事の介護、外出時における移動支援などを総合的におこなう。

・同行援護
視覚障がいにより、移動に著しい困難を有する人に、移動に必要な情報の提供(代筆・代読を 含む)、移動の援護等の外出支援をおこなう。

・行動援護
自己判断能力が制限されている人が行動するときに、危険を回避するために必要な支援や外出支援をおこなう。

・重度障がい者等包括支援
介護の必要性がとても高い人に、居宅介護等複数のサービスを包括的におこなう。

・短期入所(ショートステイ)
自宅で介護する人が病気の場合などに、短期間、夜間も含め施設で、入浴、排せつ、食事の 介護等をおこなう。

・療養介護
医療と常時介護を必要とする人に、医療機関で機能訓練、療養上の管理、看護、介護及び日常生活の支援をおこなう。

・生活介護
常に介護を必要とする人に、昼間、入浴、排せつ、食事の介護等を行うとともに、創作的活動又は生産活動の機会を提供する。

・施設入所支援
施設に入所する人に、夜間や休日、入浴、排せつ、食事の介護等をおこなう。

【訓練給付】
・自立生活援助
一人暮らしに必要な理解力・生活力等を補うため、定期的な居宅訪問や随時の対応により日常生活における課題を把握し、必要な支援をおこなう。

・共同生活援助(グループホーム)
共同生活を行う住居で、相談や日常生活上の援助をおこなう。また、入浴、排せつ、食事の 介護等の必要性が認定されている方には介護サービスも提供する。

・自立訓練
自立した日常生活又は社会生活ができるよう、一定期間、身体機能又は生活能力の向上のために必要な訓練をおこなう。

・就労移行支援
一般企業等への就労を希望する人に、一定期間、就労に必要な知識及び能力の向上のために必要な訓練をおこなう。

・就労継続支援(A型=雇用型、B型=非雇用型)
一般企業等での就労が困難な人に、働く場を提供するとともに、知識及び能力の向上のために必要な訓練をおこなう。 雇用契約を結ぶA型と、雇用契約を結ばないB型がある。

・就労定着支援
一般就労に移行した人に、就労に伴う生活面の課題に対応するための支援をおこなう。

障がい者雇用に関連の高い「障害福祉サービス」

障がい者雇用に関連の高い、就労系障害福祉サービスの概要と詳細を見ていきます。
障害者総合支援法における就労系障害福祉サービス(厚生労働省)

出典:障害者総合支援法における就労系障害福祉サービス(厚生労働省)

◆就労移行支援

「就労移行支援事業所」は、2年間の訓練期間中に、障がい者が働くために必要な知識や能力を身につける職業訓練や企業実習などをおこなう訓練機関です。就職に必要な生活リズムを整えること、ビジネスマナーの習得、自己理解を深めること、履歴書や職務経歴書の作成、および面接対策などを学びます。

就労移行支援事業所といっても、運営する事業所ごとに特徴や訓練内容が異なりますし、利用している障がい者のスキルや能力などにも違いがあります。障がい者雇用を進めるにあたり、職種や仕事内容にマッチした人材が採用できないと感じているのであれば、複数の就労移行支援事業所を見学したり、話を聞いてみたりするとよいでしょう。事業所から採用された障がい者が職場定着するための支援も、就労後6カ月間行います。詳細は、文末の参考リンクを参照ください。

◆就労定着支援

「就労定着支援」は、障がい者が企業に就労後、働き続けるために必要な支援をおこなうものです。就労定着支援の利用対象者は、「障害者総合支援法」に基づく障害福祉サービスである「就労移行支援」や「就労継続支援」などを利用して一般就労へ移行した障がい者です。

就労定着支援を活用できる期間は、3年間です。就労後の6カ月間は、就労前に所属していた就労移行支援事業所等の定着支援サービスを受けることができ、それ以降の3年間、つまり就職してから半年後~3年半後までは、就労定着支援を受けることができます。就労定着支援の内容としては、障がい者との面談を通じて当事者の生活面の課題を把握し、企業や関係機関等との連絡調整や、課題解決に向けて必要となる支援を実施していきます。詳細は、文末の参考リンクを参照ください。

◆就労継続支援A型、就労継続支援B型

就労継続支援A型とB型は、一般就労が難しいものの、就労に備えて必要な知識やスキルを向上させたい障がい者が、必要な訓練を受けることができる機関です。企業で障がい者を採用するときには、就労移行支援事業所を活用することが多いと思いますが、就労継続支援A型もしくはB型から就職を目指す人もいますので、ご紹介しました。なお、A型事業所は利用者と雇用契約を結びます。

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