令和4年の「障害者雇用状況の集計結果」が発表されました。この結果から、障がい者雇用の状況を障がい別、企業規模別に見ていきます。また、令和5年度は「障害者法定雇用率」の見直しが行なわれる時期です。その方向性が、令和5年1月18日の労働政策審議会障害者雇用分科会で決められました。今後の障害者法定雇用率の引き上げ時期や、対策について解説していきます。
令和4 年「障害者雇用状況」集計結果から見える傾向と対策 令和5年度からの「障害者雇用率」の引き上げはどうなる?

令和4年の障害者雇用率は2.25%で前年比0.05ポイント増

民間企業で働く障がい者の、令和4年6月1日時点の雇用状況が厚生労働省から発表されました(図表1)。雇用障がい者数、実雇用率ともに過去最高を更新しており、雇用障がい者数は61万3千958人と、前年に比べ1万6千172人増加しています(対前年比2.7%増)。19年連続で雇用者数は過去最高となりました。また、実雇用率は 2.25%で、対前年比0.05ポイント上昇しています。

図表1

令和4年 障害者雇用状況の集計結果(厚生労働省)

出典:令和4年 障害者雇用状況の集計結果(厚生労働省)

障がい別にみると、身体障がい者は35万7千767.5人(対前年比0.4%減)、知的障がい者は 14万6千426人(同4.1%増)、精神障がい者は10万9千764.5人(同11.9%増)と、知的障がい者、精神障がい者が前年より増加しており、精神障がい者の雇用数は例年と同様に伸び率が大きくなりました。精神障がい者の雇用数の大幅な増加は、平成30年から雇用義務化の対象に加えられたことや、他の障がい種別の採用が厳しくなっていること、精神障がいとして就職を希望する人が増えてきていることなどが理由と考えられます。

また令和4年の集計結果では、身体障がい者の雇用割合が減少となりました。身体障がい者の雇用は、障がい者雇用の中でも早くから始まったことに加え、医療や労働環境の発展により、労働災害などが原因で身体障がいを抱える割合が減少していることが影響していると考えられます。

障がい者雇用の傾向として、障がい者雇用のマーケットの中で、働ける身体障がい者は既に働いている割合が高くなっています。知的障がい者も、一定数はいるものの、特別支援学校卒業時に就職が決まっている場合も多いです。一方、障がい者雇用として採用をかけたときに精神手帳をもつ方の応募は増加しており、この傾向は今後も続くことが予想されます。

現在の民間企業の障がい者法定雇用率は2.3%となっており、従業員43.5人(短時間労働者は0.5人で計算)以上の企業に障がい者雇用が義務付けられています。令和4年の民間企業全体の実雇用率は2.25%で、法定雇用率を達成している企業の割合は48.3%(前年47%に対し1.3ポイント増)でした。

雇用されている障がい者を企業規模別で見ると、次のようになっています。
企業規模別 障がい者雇用率状況
民間企業全体の実雇用率:2.25%
43.5~100人未満:1.84%(前年は1.81%)
100~300人未満:2. 08%(同2.02%)
300~500人未満:2.11%(同2.08%)
500~1,000人未満:2. 26%(同2.2%)
1,000人以上:2.48%(同2.42%)

企業規模1,000人以上の大企業では法定雇用率を上回っていますが、これは5年毎に労働状況やその割合の推移を考えた障害者雇用率が設定されることを見込み、企業が対策を取っているからです。令和3年度には、同規模企業の障がい者雇用率はすでに2.42%(令和2年度は2.36%)となっており、今年度も昨年度と同じような増加をしています。企業規模が小さくなるほど障がい者雇用状況が進んでいない傾向が見られています。

特例子会社の認定を受けている企業は、令和4年6月時点で579社(前年より17社増)で、雇用されている障がい者の数は、4万3千857人でした。特例子会社とは、親会社の実雇用率に算入できる、障がい者の雇用に特別の配慮をした子会社のことです(特例子会社の詳細については、参考記事リンクをご覧ください)。

特例子会社で雇用されている内訳をみると、身体障がい者は1万1千841人、知的障がい者は2万2千9 41人、精神障がい者は9千80.5人でした。特例子会社は知的障がい者を雇用する割合が高く、今年度もその傾向が見られています。

障がい者雇用の実雇用率の低い企業に対しては、「障害者雇用率達成指導」が行われます(図表2)。具体的には、6月1日の「障害者雇用状況報告」にもとづいて公共職業安定所長より「障害者雇入れ計画作成命令」が出され、その計画の進捗にもとづき「適正実施勧告」および「特別指導」がおこなわれます。「障害者雇入れ計画作成命令」から2年間で障がい者雇用を達成できるように指導されますが、改善が見られない場合には企業名の公表となります。

図表2

障害者雇用率達成指導の流れ

出典:障害者雇用率達成指導の流れ(厚生労働省)

「障害者雇入れ計画」に関する令和3年度の実績は、次のようになっています。
「障害者雇入れ計画作成命令」の発出:394社
障害者雇入れ計画の「適正実施勧告」:72社
「特別指導」の実施:36社
障害者雇入れ計画を実施中の企業:464社

令和5年度の「障害者法定雇用率」は据え置き、令和6年度以降段階的に引き上げへ

「障害者法定雇用率」は、労働状況やその割合の推移を検討しながら、5年毎に設定されています。令和5年度はこの法定雇用率の見直しがされる時期であり、労働政策審議会障害者雇用分科会(令和5年1月18日)では、この法定雇用率の引き上げの方向性が了承されました。

障がい者雇用率は、図表3の計算式によって算出されます。令和5年度以降の障がい者雇用率については、「令和3年障害者雇用状況報告」の結果を元に算出されました(図表4)。

図表3

障害者雇用率の算出方法

図表4

新たな障害者雇用率の設定について

出典:新たな障害者雇用率の設定について(厚生労働省)

この算出にもとづくと、新たな障害者法定雇用率は2.715%となります。しかし、急激な法定雇用率の引き上げについては対応することの難しさもあるため、企業が計画的に雇入れできるよう、段階的に引き上げられることになりました。

そのため、令和5年度は障害者法定雇用率は据え置き(2.3%)、令和6年4月1日に2.5%、令和8年度中に2.7%になる見込みです。

また、障がい者雇用については、除外率についての議論がされてきました。「障害者雇用促進法」では、障がい者の職業の安定をはかるために法定雇用率が設定されていますが、業種によっては、障がい者の雇用が難しい分野もあります。

そのため、障がい者の雇用が一般的に難しいと認められる業種については、雇用する労働者数を計算する際に、除外率に相当する労働者数を控除する制度(障がい者の雇用義務を軽減)が設けられています。例えば、船舶運航業や小学校などの業種では、従業員数を計算する際、除外率(5~80%)に相当する労働者数を差し引いています。

除外率制度は、平成14年の障害者雇用促進法改正により廃止する方向性が示されていましたが、特例措置として当分の間は除外率設定業種ごとに除外率を設定し、廃止の方向で段階的に除外率を引き下げ縮小することとされてきました。それに伴い、平成16年4月と平成22年7月にそれぞれ一律に10ポイントの除外率引下げが実施されています。

今回、令和6年度以降の障がい者雇用率の引き上げが決まったため、この雇用率引き上げ施行時期と重ならないよう、除外率の引下げ時期は令和7年4月となる見込みです。

障がい者雇用率の引き上げ、除外率の引き下げ時期については、図表5のようになります。

図表5

令和5年度からの障害者雇用率の設定等について

出典:令和5年度からの障害者雇用率の設定等について(厚生労働省)

今後の障がい者雇用は、どのように進めていくとよいのでしょうか。障がい者雇用率は、今後も上がり続けていくことが見込まれます。障がい者を雇用することを目的にするのではなく、組織に必要とされる業務を障がい者に任せることを目的に、業務と障がい特性をマッチさせることや、仕事の組み立て方などを考えていく必要があります。また状況によっては、新規事業の検討も視野に入れてみるとよいかもしれません。

障がい別の状況を見ると、令和4年度は身体障がい者の雇用人数の減少が見られました。今後は、ますます精神障がいの雇用する割合が増えてくることが予想されることから、精神障がい者が活躍できる仕事を考えていくことが重要です。

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