精神障がいの方が就労を考えるときに必要な書類として、主治医が「当事者の症状が安定していて、働くことが可能な状態である」という意見を示した「主治医の意見書」があります。この「主治医の意見書」は、精神障がいの方がハローワークで求職者登録をするときに必要であり、企業が当事者を採用する場合は、症状や就労に関わる状態の確認のために提示してもらうことができます。主治医が書く書類なので、企業側としては「これがあれば安心」と思いがちですが、意見書の情報だけではわからないこともあります。「主治医の意見書」について、その概要や企業側が注意すべき点を解説します。
精神障がい者の「主治医の意見書」とは? 採用時にどの程度重視してよいか

障がい者雇用における「主治医の意見書」とは?

精神障がい者の採用では、応募者の症状が安定していて、働くことが可能な状況にあることの証明として「主治医の意見書」を活用することがあります。この「主治医の意見書」は、ハローワークで求職者登録をするときに必要となりますし、障がい者採用を行う企業でも、採用の際に提示する書類の一つとして確認しているところもあります。

「主治医の意見書」は、ハローワークが医療機関からの情報収集のために使用する様式です。ハローワークの「障害者職業紹介業務取扱要領」には、「主治医の意見書」について、求職者が「障害者雇用促進法」における精神障がい者であるか否かを判断するための参考資料の役割を持つことが示されています。障害者雇用促進法上の精神障がいであることを判断するためには、「診断名」と「症状の安定度」、「就労可能な状態であるか否か」を確認する必要があります。多くのハローワークでは、意見書を「今後の就労支援のための参考資料」としても活用しています。

ハローワークの職員は、職業紹介を行なう精神障がいの方と日常的に接しているわけではありません。求職者の症状が安定し、就労可能な状況にあるかどうかを把握するのはなかなか難しいことです。そのため、障がい枠での就労を希望する求職者がいた場合、手帳を所持しているかに加え、医療機関等からの情報提供により、職業紹介の見通しがつけられるかを判断するために使うのです。

「主治医の意見書」は書式が決まっています。氏名、生年月日、住所などの基本的な事柄の他に、「病名」、「障がいの状態」、「就労に関する事項」などが含まれ、就労に関する内容を記載する部分が最も多くなっています。

「障害の状態」は、3ヵ月程度の症状について記載されます。双極性障がいなど、症状の特徴によっては、もう少し長い期間について記載されることもあるようです。

「就労に関する事項」では、労働習慣、就労に際しての留意事項、労働能力の程度について記載されます。医療機関で医師が当事者について見たり聞いたりする内容は限定的なので、デイケアなどでの情報や直近の職歴といった参考情報がない場合、医療機関にとっては記載が難しい内容になっています。

「デイケア」とは、何らかの精神疾患があるものの、入院治療の必要性がないほど精神疾患の病状が回復している患者が、引き続き通院治療の一環として、日常生活のリズムを整えたり地域で生活したりするうえで必要な技能を身に着けるため、さまざまなプログラム活動などを行う場所です。

デイケアスタッフは、規模によって異なりますが、医師、看護師、精神保健福祉士、作業療法士、臨床心理士など数名の医療専門スタッフが務めます。また、デイケアは集団的ケアの場ですが、それ以外にも、個々人の抱える問題や悩みなどに個別で対応し、ひとりひとりに合った援助計画を立ててくれます。

「主治医の意見書」の「就労に関する事項」に記載されている病状等をふまえ、当事者が現時点でハローワークで求職活動を行える状況にあるか、求職活動より治療を優先して考えることが適当な状態にあるのかを考慮し、医学的な観点から、就労が可能か否か判断されます。もし、「就労の可能性が無い」と判断される場合には、医療機関では患者さんとよく話し合い、求職活動まで時間をおくようにすることもあります。

さらに、「その他参考となる意見」として、本人が力を発揮しやすい場面、周囲の人の望ましい関わり方、苦手な場面や体調を崩すきっかけ、体調を崩しかけたときのサインや対処方法、体調を維持する工夫など、本人の特徴や病気・障がいの対処法について、医師が把握している範囲で記載されます。また、デイケア等の利用状況や、今後、ハローワークが医療機関に連絡を取る場合の窓口や望ましい連絡方法等の留意事項などもあわせて記載されます。

「主治医の意見書」は企業目線の判断基準で記されるものではない

ここまで「主治医の意見書」について見てきました。「主治医の意見書」は、あくまで「当事者の症状が安定し、就労が可能な状態にあるか否か」を病状等から考え、就職活動を行える状況にあるのか、それとも求職活動よりも治療を優先して考えることが適当な状況にあるのかという医学的な判断を確認するものです。

そのため、決して「求職票の職務遂行能力やスキルに達している」という推薦を意味するものではありません。企業側としては、主治医が書いた書類と聞くと「求める仕事ができる人」と思ってしまうことがあるようですが、そうではないということを認識しておくべきです。

そして、障がい者の個人条件だけでなく、労働条件や職場環境、就労支援の実施状況等の環境状況によっても、就労の可能性は大きく変わります。また、医師は多くの場合、労働分野で求められるスキル、また労働能力などをはかる職業リハビリテーションについては詳しくないという現実的な問題もあります。障がい者雇用を行う企業側は、精神障がいに関しては「医師に聞けばわかる」と思ってしまいがちですが、医師は当事者を、精神障がい者の課題や生活面の支障・制約の観点からではなく、医療管理の観点から見ているのです。

また「主治医の意見書」は、基本的に精神障がい者本人の意見を元にした内容を、ある一定の決められた時間のみ接した上で医師が書くものです。多くの主治医は、患者を介しての情報しか持っていない場合が多いことを踏まえた意識で、意見書を読む必要があるのです。

さて、ここまで「主治医の意見書」について、書かれる背景などについて見てきました。「主治医の意見書」は、「就労に関する事項」に記載されている病状等から考えて、現時点でハローワークで求職活動を行える状況にあるか、求職活動より治療を優先して考えることが適当な状態にあるのかについて、医学的な観点から判断した書類になります。精神障がい者を雇用している企業側と同じ視線で書かれたものではないということを認識しておくことが必要です。

しかし、「採用時には全く意味がないのか」というと、そういうわけではありません。病状について直接本人に詳しく聞きづらいときには、意見書に書かれている内容について質問することで状況がわかることもあります。また、この書類から診断名を確認することもできますし、いつから病状が発生したのかの目安にもなります。必要な通院頻度もわかります。

ただ基本的には、精神障がい者本人の意見や希望を元に書かれているものなので、勤務時間や業務内容に関しては、意見書の情報だけを鵜呑みにするのではなく、実習や採用後の勤務状況を見て調整していくことが必要です。当事者の休職期間が長い場合は特に注意して見ていった方がよく、就労支援機関に通っていたとしても、週に何回、どれくらいの時間通っていたのかなどを確認してください。初めから無理な勤務時間を設定すると、職場定着は難しくなります。当事者の状態に応じた働き方について、企業側は、意見書だけではなく就労時の様子から判断することが大切です。
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