人材の多様性やESG投資への関心が高まる中、世界的に注目を集めているのが、「人的資本経営とその開示」である。日本国内でも多くの企業がその重要性を認識し、着実に取り組みが広がりつつある。なかでも第7回HRテクノロジー大賞で「人的資本経営部門優秀賞」を授賞した日本電気株式会社と、「特別賞(人的資本開示賞)」授賞した株式会社リンクアンドモチベーションは、いずれもエンゲージメント向上を最重要テーマに置き、いち早く人的資本経営の実現に取り組んできた。本講演では、2社の取り組み事例を紹介しながら、後半は経済産業省 経済産業政策局 産業人材課長/未来人材室長の島津 裕紀氏とProFuture株式会社 代表取締役社長/HR総研 所長 寺澤康介も交え、人的資本経営の実践についてトークセッションも行った。

第7回 HRテクノロジー大賞『人的資本経営部門優秀賞』

日本電気株式会社

パーパス実現につながるエンゲージメントスコア向上への取り組み
~因果分析による「チームを変えるナレッジ」の獲得と社内展開~

現場マネージャーから出された「エンゲージメント向上のための具体的な行動を知りたい」という要望から、自社のエンゲージメントに関する因果関係を分析するソリューション『Causal Analysis』を活用。 因子間の「方向性」と「強さ」を可視化し、その結果をマネジメント研修プログラムの内容に反映。これにより2021年度のエンゲージメント割合は25%から35%へと大幅な向上が見られるなど、人的資本経営に向けた取り組みに大きな成果を上げていることが高く評価されました。

第7回 HRテクノロジー大賞『特別賞(人的資本開示賞)』

株式会社リンクアンドモチベーション

『エンゲージメントを基軸にした人的資本経営20年の実践』
~結果としてのアジア初ISO30414取得~

リンクアンドモチベーショングループの人的資本経営の実践において、事業戦略と組織戦略の最適解を創り出すために、生産性(人的資本ROI)向上を目的とし「従業員エンゲージメントの向上」を最重要テーマに置き、エンゲージメントスコアをランク化した「エンゲージメント・レーティング」をモニタリング。グループでは、11社中9社が最高ランクのAAAを獲得。また、人的資本の開示に関する国際規格:ISO 30414の認証をアジアの企業として初めて取得するなど、人的資本経営の実現に向けた先進的な取り組みを行っていることが高く評価されました。

プロフィール

  • 海老沼 貴明 氏

    海老沼 貴明 氏

    日本電気株式会社
    人事総務部 主任

    2011年に中央大学を卒業後、医科大学や大手メーカーにおいて人事労務やHRIS、People Analyticsを担当。2020年に日本電気株式会社入社。同社人事部門においてHRテック、People Analyticsの機能を社内に立ち上げる。採用、人材育成、組織開発等におけるデータ分析プロジェクトや、データドリブンHR実現支援などに従事。
  • 川村 宜主 氏

    川村 宜主 氏

    株式会社リンクアンドモチベーション
    執行役員

    2000年リンクアンドモチベーション入社。 企業向けの組織人事コンサルティングに従事した後、 2010年に新規事業として株式会社モチベーションアカデミアを設立。 2014年にはコーポレート部門に異動し、以来広報・人事領域を中心に管轄。 現在は、執行役員(リレーションデザイン室管轄、現任)として、「ISO 30414」認証取得プロジェクト等の責任者を務める。
  • 島津 裕紀 氏

    島津 裕紀 氏

    経済産業省
    経済産業政策局 産業人材課長/未来人材室長

    2004年 経済産業省入省。航空機産業政策、新エネルギー政策、原子力政策などの担当の後、 大臣官房総務課政策企画委員を経て、2021年より現職。経産省の人材政策の責任者。 人的資本経営の推進、多様な働き方の環境整備、リスキル政策などを担当。
  • 寺澤康介

    寺澤康介

    ProFuture株式会社
    代表取締役社長/HR総研 所長

    1986年慶應義塾大学文学部卒業。同年文化放送ブレーン入社。2001年文化放送キャリアパートナーズを共同設立。常務取締役等を経て、07年採用プロドットコム株式会社(10年にHRプロ株式会社、2015年4月ProFuture株式会社に社名変更)設立、代表取締役社長に就任。8万人以上の会員を持つ日本最大級の人事ポータルサイト「HRプロ」、約1万5千人が参加する日本最大級の人事フォーラム「HRサミット」を運営する。
先進企業2社の実践事例から学ぶ、エンゲージメント向上を軸にした「人的資本経営と開示」の取り組みとは

パーパス実現につながるエンゲージメントスコア向上への取り組み
日本電気株式会社 人事総務部 主任 海老沼 貴明氏

勝てる組織の実現に向けて、「エンゲージメントスコア50%」を目指す

NECでは現在、多様な人材が活躍し、多様な視点からアイデアが生まれる環境作りを推進中です。2020~2023年にかけては、社員間で共創し、イノベーションを創出することや、変化に強く勝てる組織の実現を目指しています。また2025中期経営計画では、勝てる組織の重要な指標として、「エンゲージメントスコア50%」というKPIを設定。「Kincentric社」のグローバルサーベイを活用し、現在施策を進めています。そうした中、社長自らが全国の事業所を行脚し、1万人の社員と対話しました。さらに社内サーベイも実施し、それらをもとに2018年にエンゲージメント向上に向けた5つの行動指針「Code of Values」を策定しました。

では、ここから、具体的な取り組み内容についてご説明いたします。この取り組みは、エンゲージメント向上に寄与する具体的なナレッジの発掘を目的にスタートしました。プロジェクトには人材組織開発部をはじめ、コーポレートデザイン本部、経営システム本部など、さまざまな部署が関わり、それぞれの知見や専門性、ノウハウが活用されました。

我々は、まずサーベイの実施会社が提供しているエンゲージメントのインパクトの分析レポートを精査しました。このレポートには部下管理の課題領域が挙げられており、上司のどのような行動が部下のエンゲージメントを高めているのか、といったテーマを議論すべきであると書かれてありました。そして、これはNECの経営陣の課題感ともマッチしていました。COVID-19を背景に、日常のコミュニケーションの重要性がより増す中で、現場のマネージャーからは「エンゲージメントを高めていかなくてはいけないのはわかるが、具体的にどんな行動が必要なのかを知りたい」という要望が経営陣のもとに届いていたのです。我々はこのナレッジを発掘するプロジェクトを発足し、その手段としてアナリティクスを活用しました。

この後、下記のトピックで、講演録が続きます。
続きは記事をダウンロードしてご覧ください。

【講演】
パーパス実現につながるエンゲージメントスコア向上への取り組み
日本電気株式会社 人事総務部 主任 海老沼 貴明氏

●「共感発信力」が部下の「心理的安全性」を高め、「個人裁量権」につながる

【講演】
ISO 30414取得のプロセスとこれからの人的資本開示
株式会社リンクアンドモチベーション 執行役員 川村 宜主氏

●「ISO 30414」取得プロセスにおける2つの難所
●「営業利益率」や「労働生産性」の向上に寄与する従業員エンゲージメント
●「人的資本経営」を実現させる3つのステップ

【トークセッション】
「経営戦略」と「人材戦略」の連動にどのように取り組むべきか
日本電気株式会社 人事総務部 主任 海老沼 貴明氏
株式会社リンクアンドモチベーション 執行役員 川村 宜主氏
経済産業省 経済産業政策局 産業人材課長/未来人材室長 島津 裕紀氏
ProFuture株式会社 代表取締役社長/HR総研 所長 寺澤康介(ファシリテーター)

●自社にとって重要な施策を「ISO30414」の項目に紐付ける
●人事データの整理から始めることが重要



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