教育研修制度は人材パワーを強化する手段の1 つです。採用の面から考えても,研修制度の有無や優劣が会社選択の決め手として重視され,研修制度の充実度合いは大きな影響力を持ちます。ただ,研修制度の形骸化を招いている組織もあります。必修研修であるにもかかわらず,「日常業務が忙しいので欠席します」と現場から連絡が入ったり,上司が部下の研修受講に積極的でなかったりする状況も目にすることがあります。
■検討内容
・目的まず研修の目的・方針や主旨を明確にし,規定に明記し,会社の姿勢を打ち出します。
・対象
誰に対して実施するのかを明記します。従来は正社員のみとするものが目立ちましたが,近年は雇用形態の多様化に伴い,雇用形態別の研修の実施も必要となっています(パート労働法の改正も影響)。またコンプライアンス研修などは雇用形態にかかわらず,全員が対象となります。規定では研修と対象者の関係を示します。
・研修の種類
研修は大きく分けて人事部主幹の全従業員対象研修と,各部門独自の専門型研修に分けることができます。またそのなかでも必須型研修と自由参加型研修があります。カフェテリアプランを設けて,自由参加型の研修をメニューに組み込んでいる会社も増えてきました。それらの研修の種類を規定で紹介します。
・研修受講の義務
必須研修では通常業務を免除したうえで,受講義務があることを明記します。階層別のなかでもとりわけ昇任時研修は,役割意識の醸成に影響します。受講しなかった場合は,職責を全うできず,組織として機能しないことにもなります。人事考課研修も必須研修の最たるもので,これらの重要な研修を正当な理由なく欠席する者は懲戒の対象とすることも検討すべきです。また,多忙を理由に部下を研修に参加させたがらない上司もいますが,そうしたケースでは上司も罰則の対象とします。一方,正当な理由があって受講できない者に対しては補完機能を検討します。補講や研修に相当する添削,レポート課題等を整備し,提出を義務づけるなど必要に応じて規定化しましょう。
・各研修効果の向上
研修効果を高めるために,各部門の所属長は研修実施前に研修参加者と面談を行って,趣旨と目的について確認し合うことが必要です。そして研修実施後は再度面談を行って研修の成果と今後の抱負などを話し合い,育成計画の参考にしたり今後の業務での活用などを検討します。研修をやりっ放しにすると,気づきだけで終わり,業務に活用できないことがありますので,規定に具体化します。
・研修報告書
研修報告書は研修の内容を思い出し,知識を定着させるとともに,業務への活用方法を考えさせる意味で有効です。研修ごとにフォーマットを用意し,部門長が確認したうえで人事部に必ず提出させます(その後,原本は部門長に返却)。人事部では報告内容を把握して今後の研修企画の参考とします。
・研修時間の定義
会社が指示する研修は業務命令になりますので,就業時間内の実施を基本とし,それ以外は時間外労働の対象にすることを規定に明記してトラブルを防ぎます。
・費用負担
会社の研修は自己啓発型の一部の研修を除いて,会社が全額負担するものとします。従って,会社の費用負担で資格等を取得し一定の期間経過しない状態で退職し,その資格を活用して他の企業に転職する場合などは,事前に誓約書を交わして,その費用の全部や一部を返済させる規定も必要と考えます。あくまでも会社の業務に活用するための研修であることを徹底しておきます。
教育研修規定
第1 条(目的)この規定は,従業員の研修に関する事項を定め,全従業員が当社の基本理念および運営方針を理解し,自己の役割を果たし,当社の発展に寄与するとともに,広い視野と良識ある人格を養い,責任感と正しい理念を持つ従業員の育成を目的とする。
第2 条(方針)
研修を開催するに当たっては,当社の基本理念を十分に認識し,業務遂行に必要な知識の向上,技能を習得させ能力の向上を図るものとする。それにより高い創造力と論理的能力,実行力,併せて強い指導力を有する従業員を養成する。
第3 条(対象)
研修は原則として,会社の従業員とし,研修ごとに対象者を特定する。
第4 条(主幹と方法)
研修は以下の主幹と各種方法によって実施する。
①人事部の主幹において行う基本教育研修
②各部門の主幹において行う専門教育研修
2 研修は以下の方法によって必須研修または選択研修として実施する。
①社内集合研修
②社外派遣型研修
③職場内研修
④自己啓発型研修
⑤海外研修
⑥その他の研修
第5 条(研修の基本姿勢)
会社は,従業員の自主性を尊重し,機会均等に教育の場を与え,従業員が自らの資質向上のため自主的に受講できる方法を原則とする。
第6 条(研修受講義務)
従業員は,会社の指示する教育研修を進んで受けるとともに,自らの進歩と向上に最善を尽くさねばならない。
2 会社が必須研修とする以下の研修は業務命令として,必ず受講しなければならない。特別の理由なく,受講を拒否するものは懲戒の対象とすることもある。
①新入社員研修
②階層別研修(各階層への昇格・昇任時とその他指定管理職研修)
③人事考課研修
④人事労務研修
⑤コンプライアンス研修(ハラスメント研修を含む)
⑥部門別専門研修
⑦その他会社が指定するもの
第7 条(総括責任者)
会社における基本教育研修の総括責任者は,人事部門担当役員とする。
第8 条(各部門責任者)
各部門別専門研修の責任者は,各部門担当責任者とする。
第9 条(計画)
研修計画は,会社の経営方針に連動し密接なものとすべく,経営上および職務遂行上の問題を分析したうえで的確な教育計画に基づかねばならない。
第10条(計画書の作成)
計画書の作成は,研修の種類により各部門の研修の主幹部署にて作成し,各部門責任者の承認を得て総括責任者の決裁を必要とする。
第11条(成果と活用)
教育研修の主幹部署は,研修終了の都度その結果を総括責任者や各部門責任者および所属長に報告するとともに成果を検証し,次回の研修への改善に努めなければならない。
2 所属長は,部下の任用や指導に当たり,研修の成果が業務のなかで発揮できるように研修受講後研修内容を活用すべく適切に指導する必要がある。
第12条(事前確認と報告義務)
所属長は研修前に面談を行い,研修の目的を認識させ,社内研修受講後においては,受講生は終了後速やかに所属長に内容と成果を報告しなければならない。
2 外部各種研修を受講した者は,帰社後7日間以内に受講報告書を作成し,所属長を経て総括責任者に提出しなければならない。
第13条(研修時間の取り扱い)
業務命令による研修は原則として所定就業時間内に実施するものとする。ただし,例外的に所定就業時間外に実施する場合は,別途割増賃金を支給する。
第14条(費用の負担と返済)
会社が指示し命令する研修の費用は原則会社が全額負担する。
2 会社が費用を負担した資格(MBA等含む)を取得した従業員が,資格取得後3 年以内に当該資格を活用する他の組織に転職したときは,誓約したところにより,その費用の全部または一部を返済させるものとする。
第15条(自己啓発義務)
社員は,会社の行う研修を受ける義務を有するとともに,自らも進んで自己啓発を行い,自己研鑽や能力開発に積極的に取り組むものとする。
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