障がい者採用から時間が経ち慣れてくると、次第に当事者の業務に手抜きを感じたり、サボっているように見えたりするという担当者の話を聞くことがあります。「実習中はあんなに一生懸命仕事をしてくれていたのに」「はじめは緊張感をもって勤めていたから、こんな状態になるなんて思いもよらなかった」……周囲がこのような印象を受ける状態では、障がい者社員が仕事のやりがいを感じているとは言えません。こうした事態を防ぐために、普段から障がい者社員の仕事のモチベーション向上を意識することが大切です。どのような工夫ができるのか考えていきます。
障がい者社員の職場定着に役立つモチベーションの高め方

モチベーション維持が定型業務の多い障がい者雇用の離職防止に

会社にはいろいろな業務がありますが、どこの会社でもはじめは補助的な業務につくか、上司の指示に従って業務を進めていくことがほとんどです。特に、障がい者枠で採用される場合には、サポート的な業務や定型的な業務が多くなりがちで、業務自体が単調になりやすいものです。

そのため障がい者社員が職場や業務に慣れてくると、はじめは念入りに確認して進めていた業務であっても、しだいに手を抜いたり、気を抜いたりしているように感じられることがあるかもしれません。いつまでも職場で緊張しているよりは、職場や仕事に慣れてくることは良いことでもあるのですが、周囲が「業務をしっかり行ってほしい」と考えるのも当然です。

また、このように業務への集中力が低下した状態になると、当事者は職場の不満に目が向きやすくなり、それが増大すれば、ストレスを感じたり、体調を崩しやすくなったりもします。やがては仕事へのやりがいを感じられなくなり、退職につながることも考えられます。そうならないために、障がい者社員のモチベーションを高める方法について考えていきます。

障がい者社員のモチベーションを高める方法

・担当する業務や役割を明確にする
障がい者社員が仕事に手を抜いたり、気を抜いたりしているように感じたときは、まず当事者が担当する業務を明確にすることが大切です。業務内容が補助的または定型的であったとしても、かかわる人たちの業務を支えていることは確かです。担当業務がどのような点で役立っているのかを、本人に伝えるようにしましょう。

例えば、メールの仕分けや配達の業務があります。業務自体は定型的に思えるかもしれませんが、これらの業務は、大切な案内や情報を各個人のところへ届ける重要な業務です。会社の中で、「あなたのしている業務は大切な業務です」ということを本人に伝え、本人が理解すれば、仕事への取り組み方が変わることが期待できます。例えば「それぞれの社員が各部署からメールを受け取りに行く時間や労力を省くことができ、もっと本業に関わる業務に専念することや、新たな業務の準備ができる」「一括してメールを配達することで業務効率化でき、その分、将来への投資をすることができる」というように、具体的に説明するとよいでしょう。

・業務の評価をフィードバックする
合わせて、担当業務の評価を障がい者社員に理解できる方法で伝えることも有効です。当事者の仕事ぶりを観察し、評価できる点を本人に示すとともに、当事者の仕事が社内業務の円滑化に貢献していることを伝えれば、障がい者社員は業務にやりがいを見出しやすくなります。

また、他の社員から、業務をサポートしてくれる障がい者社員に「ありがとう」「役に立っている」と感謝の声をかけてもらうことも、当事者のモチベーションアップにつながります。組織の一員として認められていることを実感できるからです。

一般的な業務評価は、目標設定と合わせて半期や1年に1度行うことが多いですが、モチベーション向上のための業務のフィードバックは、より短期間で日常的に行っていくとよいでしょう。面談の場を設けることもできますし、日々の業務の中で伝えることもできます。

障がい特性や個人の経歴によっては、自己評価がとても高い人、とても低い人と、両極端にわかれます。職場の上司や同僚は、障がい者社員に対し「期待していたよりも業務ができていない」と感じているのに、当事者は「できている」と思い込んでいたり、間違いや失敗があっても「周りの教え方が悪かったのだ」と考えていたりすることもあります。

また、反対に周りの人たちからの評価は高いにもかかわらず、本人は「自分の仕事のペースは遅い、これではだめだ」など、自分に対して過度に厳しく評価していることもあります。このように周囲の評価と自己評価に大きな差があると、双方のすれ違いが生じてしまいがちです。当事者に話を聴き、ズレを調整しつつ、改善に向けて一緒に取り組み、褒める、評価していくことで、業務の質とともに取り組むモチベーションを変化させることができます。

・業務のチェックを行なう
はじめは障がい者社員をいろいろと気にかけていても、ある程度環境に慣れてきて問題がなければ、担当者も目を離し、当事者に業務を任せてしまいがちになる職場は少なくありません。もちろん他の社員はそれぞれ日々の業務を抱えていますので、障がい者社員がある程度慣れてくれば業務を一任したくなるのもわかりますが、それが日常化してくると、どうしても当事者が手を抜きやすい状況をつくってしまうことになります。

時には、障がい者社員の仕事の様子を気にかけていることを本人にさりげなく伝えたり、実際に仕事をしているところを意識して見るようにすることで、よい意味での緊張感が出てきます。また、本人が自主的に確認を行えるようなチェックリストを作成して、1日の業務報告や作業チェックができるような仕組みを作ることも有効でしょう。

・モチベーション向上につながる社内制度をつくる
仕事への取り組みを評価する社内制度を作ることも、障がい者社員のモチベーションを高める方法の1つです。

ある企業では、障がい者社員のモチベーションを高めるため、表彰制度を導入しています。組織の一員として活躍、貢献した社員を月に1回表彰するもので、直接関わった業務はもちろん、チームで協力したこと、個人で努力していることなども対象としています。表彰されるときには、朝礼のときに全社員の前で社長から表彰状を受け取ります。

ある発達障がい者の社員は、得意なことと苦手なことの差が大きく、できることよりもできないことが目立ってしまうため、評価されることが少なく、自己肯定感を感じることがほとんどありませんでした。しかし、社内で表彰されたこと、認められたことがとても嬉しかったようです。受け取った表彰状の大きさを測り、表彰状を入れる額を買うと言って帰っていきました。

また、障がい者社員が複数名いて、マネジメントやチーム運営をサポートできるのであれば、作業の進捗管理や後輩への指導といった役割を担うリーダー的なポジションを任せることもできます。障がいの特性上、マネジメントが難しい場合には、特定の業務で卓越したスキルをもつことに対して、社内独自の資格として認定する制度を取り入れるところもあります。

・社内の会議やイベントに参加する機会をつくる
組織が大きくなると部や課が増え、自分が所属する部署以外は何をしているのかわからないことも珍しくありません。社内の行事や会議などに参加することは、組織に所属していることを実感できるとともに、帰属意識を高めることに役立ちます。

ある会社では、年に1回、社員総会の場を設けています。このような場に参加する機会は、障がい者社員にとって会社という組織の一員であるという認識を持ちやすくします。また、当事者だけでなく、他の社員も同様の理解を深めることにつながります。

障がい者雇用においては、仕事の流れや障がい特性への配慮から、当事者の業務はある程度パターンが決まったものになってしまったり、勤務時間が限定的になったりしがちです。そのため、給与的な面から当事者のモチベーションアップを図ることは難しいかもしれません。しかし、日々の業務の中で当事者が、自らの仕事が組織に貢献していることを実感し、次なる目標を持てるのであれば、同じ業務でも取り組み方が全く異なるものとなります。
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