発達障がい者のいる職場で起こりがちな問題とは?
発達障がいは、脳機能の発達の偏りがあるため、特性として周囲の人に合わせてうまくコミュニケーションをとるのが苦手であることや、不注意によるミスや忘れ物が多いこと、また感情の起伏が激しいことなどが強く見られることがあります。特に、大人の発達障がいの方のトラブルの要因になりやすいのが、自閉症スペクトラム症(ASD)傾向の方の場合は「人とのコミュニケーションが適切でない」、「場の空気が読めない」、「思ったことをストレートに伝えてしまう」、「特定のことにこだわりが強い」、「あいまいな表現や指示を理解しにくい」、「スケジュールを組むことができない」などの特性で、注意欠如・多動症(ADHD)傾向の方の場合は、「ミスが多く、落ち着きがない」、「感情をそのまま示す」、「大事なことも忘れてしまう」などの特性です。
発達障がいの社員には、このような苦手さがある場合が多いために、職場でトラブルを起こしてしまうことがあります。例えば、場の空気が読めなかったり、思ったことをそのまま口にしてしまったりするために、一般的な社会人としては考えにくい言動をとってしまい、職場の雰囲気を悪くしたり、相手を怒らせてしまうことがあります。
また、個人プレイヤーとしては仕事ができるものの、人とのコミュニケーションに困難があったり、スケジュールを組むことができなかったりするため、マネジメントに携わると、その役割を果たすことができず、プロジェクト全体の進捗を遅れさせてしまうこともあります。
その他にも職場で問題になりやすいことは、次のようなことがあります。
・業務の指示をしても、期日の決められた仕事を手付かずのまま放置していた
・コミュニケーションが苦手なため、仕事で困っていることや悩んでいることを相談できず、締め切り間際になってSOSを出してきた
・社外の人に対して馴れ馴れしい態度や言葉遣いをして、相手を怒らせてしまった
・会議や打ち合わせの場で、自分の意見を曲げず、相手の意見を全く聞こうとしないため、場の雰囲気を悪くさせてしまう
・急ぎの仕事だと伝えたのに、資料にこだわりすぎて、顧客のプレゼンに間に合わなかった
・チームのスケジュールを組むことができず、仕事が大幅に遅れてしまった
・落ち着いて仕事に取り組めず、仕事を終らせることができない
発達障がいは、得意なことと苦手なことの差が大きいという特徴があります。この特性を知らないで、本人の苦手なことを任せてしまうと、思っている仕事が全く進まず「仕事にやる気が見られない」、「怠けている」、「手を抜いている」といった評価をしてしまいがちです。
苦手さを克服させようと考えるよりも、特性を見極めて、適材適所に配置するほうが、本人にとっても周囲にとっても仕事がやりやすくなります。基本的には、本人の特性にマッチした業務を担当し、特性に合わせた能力を発揮してもらうよう意識することが大切です。しかし、職場の配属などはすぐに対応することが難しいかもしれません。そのようなときでも、職場ですぐに取り組める発達障がいの対応ポイントについて見ていきます。
職場でできる発達障がい社員への対応のポイント
【コミュニケーション】
●コミュニケーションのとり方を教えるコミュニケーション関係のトラブルの原因のほとんどは、当事者が問題意識を持っておらず、適切でない振る舞いに気づかないまま、周囲を不快な気持ちにさせてしまうということです。
まず、本人に、「ある言葉遣いや態度が、周囲を不快にさせている」ということを教えることが大切です。人との関わり方や距離感、コミュニケーションの取り方、会社のルールやマナーについて教えていきます。
【指示内容】
●指示系統を統一する同じことを伝えたつもりでも、指示する人によって微妙に表現や作業の手順が異なることがあります。このような小さな違いが、発達障がいの人にとっては、同じことと認識できずに混乱のもとになることがあります。
基本的には、1人担当者を決めて、その人が指示を出すことが望ましいですが、複数の人数で指示を出す場合には、マニュアルなどをあらかじめ作っておき、指示する人が変わっても同じ事を指示できるようにします。
●同時に複数の作業を指示しない
発達障がいの特性として、同時に複数の作業を指示されると混乱することがあるため、当事者へは、一つの作業が終了してから次の作業の指示を出すようにしてください。具体的な指示を出すと、伝わりやすくなります。
特に、口頭で伝えるときには、できるだけ簡潔に伝えましょう。婉曲的な表現では、発達障がいの人にとって理解しにくい場合があります。また当事者が、短期的な記憶が苦手な特性を持つ場合には、指示者から長い話をされたり、複数の事を同時に説明されたりすると、情報が整理できず何をしてよいのかわからなくなることがあります。
●あいまいな表現を避ける
「だいたい」、「おおよそ」、「できるだけ」などのあいまいな指示では、人によってその基準が異なり、程度がわかりにくいものです。特に、発達障がいの特性としてイメージや想像が苦手であることが多く、他者が何を意図しているのかを読み取り、それを仕事に反映することは難しいことがあります。
発達障がいの社員に対しては、あいまいな表現をするのではなく、「何を、どのように、どれくらい、いつまでにやるのか」を具体的に示すことを心がけてください。資料の作成を指示するときには、フォーマットを提示することや、どのような場で使われるものなのか、具体的な締め切りなどを示すことができます。
【スケジュール管理】
●スケジュールの変更は早めに伝え、優先順位を示す急な予定の変更は混乱をまねいてしまうことがあります。例えば、業務を進行中に、別の業務を急ぎで進める必要が出てくることがあります。このような場合、一般的には優先順位に合わせてスケジュール調整をおこないますが、発達障がいの人の行動としては、優先順位をつけることが苦手で、最初に決まっていた業務から進めようとするケースがあります。スケジュール変更がある場合には、当事者にできる限り早めに伝えるとともに、優先順位を明確に示すようにしてください。
●スケジュールや重要なことは、ホワイトボード等に記載する
スケジュールや重要な案件については、ホワイトボードなどで視覚化しておくと、当事者だけでなく周囲の人も確認しやすくなり、納期に遅れたり、忘れたりすることを予防できます。また、当事者が、2つのことを同時にする(話を聞きながらメモをとるなど)ことが苦手な場合には、他者がメモやホワイトボードに書くことを手伝うのも助けになります。
以上、発達障がいの特性の特徴的なところを見てきましたが、特性やその程度は個別に一人ひとり違います。どのような得意な点、苦手な点があるのかを把握し、それを仕事や職場で一緒に働く人たちに理解してもらうことが必要です。
また、発達障がいで苦手さが顕著にあらわれることがあっても、それは本人の努力不足や怠けているわけではありません。誰でも得意なことと、不得意なことがありますが、その程度の幅が大きいということを理解してください。得意なことや、特性に合わせた業務をすることで、業務の貢献度は大きく変わってきます。どのような場、どのような業務であれば活躍できるのかを考えてみるとよいでしょう。
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