「発達障がいの人や発達障がいの傾向がある人が職場にいると、その独特な考え方や言動に、周囲がどのように接したらよいのか戸惑ってしまう」という相談をよく受けます。発達障がいは、得意なことと不得意なことの差が大きいなどの特性があり、そのことを周囲が理解していないと、誤解やトラブルを生みやすく、仕事を進めていくのに支障がでてしまうこともあります。今回は、発達障がいやその傾向のある社員への接し方やマネジメント方法について考えていきます。
発達障がいのある社員への接し方とマネジメント

発達障がいの社員に起こりやすいトラブルと対策

発達障がいの社会的な認知が広がり、発達障がいのある人が障がい者雇用枠で採用されるケースが増えてきています。一方で、発達障がいとは診断がついていないものの、「もしかしたら、発達障がいの傾向があるのではないか」と思われる社員についての相談も増えています。

発達障がいの社員や、発達障がいの傾向があると思われる社員に関し、問題になっている職場の状況を見ると、次のようなことがあげられます。

・コミュニケーションが苦手で周囲とのトラブルが絶えない
・注意すると「はい、わかりました」と答えるものの、同じ失敗を繰り返す
・取引先の人に対して、敬語を使わずに、友達のような話し方をする
・自分の意見を曲げることなく、相手の要望を全く取り入れないため、周囲からのクレームが多い
・自分の得意な分野やこだわりのある点については、細かく突き詰め、必要以上にミスを指摘する
・例え話や抽象的な話が伝わらない。例えば、「何度同じ事を言ったら分かるんだ」と怒られていることがわからず、「◯回目です」と文字通りの意味にしか捉えることができない

発達障がいの方の特性として、得意なことと苦手なことに、大きなギャップがある場合は珍しくありません。特に、ある分野が秀でていたり、得意だったりすると、周囲は他のことについても「こんなことは当然わかっているだろう」、「できるだろう」と判断してしまいがちですが、実は、そうでないこともよくあります。こちらの考えを当たり前と決めつけずに、よく観察し、当事者の思いを聞いて対応することが大切です。

職場ですぐにできる対応方法として、次のような点に留意してみてください。

・職場にふさわしいコミュニケーションのとり方を教える
・指示事項をメモやホワイトボードに記載し、視覚化する
・指示系統を統一する、担当者を決める
・同時に複数の作業を指示しない
・あいまいな表現を避け、具体的に伝える
・スケジュールの変更は早めに伝える

発達障がいの職場のトラブルでは、「コミュニケーションの苦手さ」に関する相談が多いですが、その原因を知り対応することで状況が改善されます。よくあるパターンとその対応方法については、下記の記事でも紹介していますので、参考にしてください。


コミュニケーションに困難がある社員に発達障がいという診断が出ていない場合には、「マネジメント」の一環として対応を考えていくことが必要です。本人が自身のコミュニケーション上の課題を自覚していないようであれば、本人の自尊心を傷つけないように配慮した上で、業務の中で問題となる点を具体的に教えるとよいでしょう。

また、当事者に、睡眠障がい、食欲不振、体重減少、頭痛、動悸、パニック症状、考えがまとまらない、ごく簡単なことでも決められないなどの思考停止、抑うつ、興味や意欲の減退といった身体症状が表れているのであれば、受診をすすめてみるのがよいでしょう。しかし、そうでない場合には、業務の指導を行いながら、マネジメントしていくことが求められます。

得意なことを活かし、成果を発揮するためのマネジメントを

発達障がいの方が業務をスムーズに進めていくためには、得意な分野に集中してもらうことが大切です。発達障がいは、得意なことと苦手なことの差が大きいという特徴があります。例えば、一般的に知能指数(IQ)が100だとすると、計算や読解、空間認知、記憶など知能指数を構成する様々な要素は、基本的には同じくらいの数値を示します。しかし、発達障がいの場合には、このうち、得意なところと苦手なところに極端に差が出てしまいます。

書いてまとめることはとても上手なのに、簡単な計算は極端に苦手であったり、アイデアはたくさん出るけれど、それらをスケジュールに合わせて企画書にまとめることができなかったりします。できることと、できないことの差が大きいために、できている分野と比較されると「サボっている」、「怠けている」と誤解されてしまうことがあります。

障がい特性を考慮しながら、得意な分野でその能力を活かしてほしいと思うのであれば、業務を検討する時にできるだけ具体的に考え、それを求人票に示した採用を行うことが重要です。このようにすることで、企業が求める業務に適する人材が活躍できる可能性が高くなります。

採用後に、「障がい者採用ではないが、もしかしたら発達障がいの傾向があるかもしれない」と感じる場合には、その社員の得意な分野と苦手な分野の業務を把握して、苦手な業務を減らし、得意な業務を増やすとよいでしょう。苦手な分野を平均値に持っていこうとするよりも、得意な分野で伸ばすことを考えるほうが、本人にもマネジメントする人にとってもやりやすくなります。

ドラッカーは「マネジメント」を「組織に成果を上げさせるための道具、機能、機関」と定義しています。部下のマネジメントにあたる人は、組織が果たすべきミッションを把握して、それを達成していくことが求められますが、そのためには部下の能力を把握し、発揮してもらうことが必要です。また、部下に苦手な分野があるときには、それをフォローする体制をつくることも必要です。

ある中小企業に、「まとめられない商談はない」というほどプレゼン能力、営業力に優れた社員がいました。社内の半分の商談は、この方が何らかの形で関わるほどの実績を出しています。しかし一方で、時間にルーズであり、約束事が守れないという問題を抱えていました。書類などの提出期限を守れたことがなく、重要な会議や顧客とのアポイントまで忘れてしまっていたそうです。

「顧客とのアポイントを忘れてしまうなんて社会人として失格だ」と感じるかもしれませんが、この会社では、社員の得意な面に目を向けて、苦手な点をサポートすることに決め、スケジュール管理するスタッフをつけることにしました。

ここまでの特筆するほどの能力やスキルをもった社員ばかりではないかもしれません。それでも「得意な部分を活かす」という視点で業務内容や仕事の仕方を考えるのであれば、何らかの改善点が見えてくるでしょう。

最近では、企業の中でもダイバーシティが重視されてきています。多様な人材が活躍できる組織にしたいのであれば、特性がある人材が活躍できる分野を作っていくことが大切です。これは、性別や国籍はもちろん、障がいに関する分野でも同じことが言えます。障がい者雇用がうまくいかない、大変だと感じているのであれば、マネジメントの基本に立ち返ることで、新しい発見があるかもしれません。
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