障がい者雇用後に起こるトラブルや問題とは?
障がい者の採用が終わると、大きな仕事が終わったような気分になってしまいがちですが、障がい者採用は、雇用してからがスタートです。企業実習(職場実習)やトライアル雇用などを通して、採用までのステップを丁寧に進めることで、雇用してからの大きなトラブルのリスクはかなりの割合で減らすことができますが、それでも雇用してから年数が経過するにつれて、採用時とは異なる状況がみえてくることもあります。例えば、採用時には家族の手厚いサポートを受けられる環境であったとしても、その後、家族の中で介護が必要な人が出てきたり、相談相手になっていたきょうだいが独立・結婚して別居することになったりと、障がい者社員を取り巻く環境が変化することは少なくありません。このようなことが原因で、障がい者社員のセルフコントロールがうまくいかなくなり、生活リズムが崩れ、仕事に影響が出てくることもあります。
障がい者社員がトラブルや問題を抱えている場合、次のような兆候が見られることがあります。
・遅刻や欠勤が増えた
・身だしなみが整っていない(服や顔が汚れている、髪や髭が伸びて乱れている)
・食生活の乱れによる体調不良が見られる
・勤務中に居眠りをしている
・仕事中に集中力が続かない様子である
上記のような状態が続くと、仕事のミスや、周囲から注意されることが増え、やがては一緒に働く人たちからの協力を得られにくくなり、業務そのものを担当することが難しくなる場合もあります。
他にも、障がい者社員のトラブルや課題としてあげられるのが、金銭トラブルや、金銭管理がうまくいかず生活の維持が困難になるというものです。金銭トラブルでは、訪問販売や通信販売での高額購入や、消費者金融からの借金などのケースがあります。
このようなトラブルや問題が起きた際は、どのように対処したらよいのでしょうか。
トラブルが起こる前にできること、起こった後に行うべきこと
障がい者雇用している企業は、障がい者社員の業務面の指導や教育、また職場定着を実現させる努力が求められます。このような仕事に関するマネジメントおよび労働者とのコミュニケーション機会の創出は、企業が行うべきことです。まず大きなトラブルになる前に、先程あげたような兆候に気づくことが大事です。障がい者社員の様子が「いつもと少し違う」と感じたのであれば、個別にコミュニケーションを図ったり、面談を設定したりすることができるでしょう。また、障がいによっては、対面でコミュニケーションを取るのが苦手である場合もあるので、業務日報をつけたり、コミュニケーションツールなどを活用したりすることもできます。
障がい者社員が自分自身で問題を解決できる、または職場のサポートで対応できるようであれば、それでよいですが、難しそうであれば、別の対応が必要になります。しかし、社員のトラブルは、企業が対応できることばかりではありません。障がい者社員が抱える問題に対し、職場でサポートすることが難しい場合、就労支援機関などと協力して、企業としてできることと福祉機関としてできること、それぞれ役割分担することをおすすめしています。
障がい者社員が安定的に職場に定着していくためには、多くの場合、生活支援に関わる機関との連携が必要です。生活支援に関するサポートは増えてきており、多様なニーズに応えられるように整備されていますので、生活支援に関わる支援機関を上手に活用していきましょう。いろいろな種類の支援機関があり、サポートする内容もさまざまですので、主な機関と、その機関がサポートする内容について解説します。
●各市町村福祉窓口
各市町村の福祉窓口は、福祉サービス全般の相談に対応しています。障害者手帳や障害者基礎年金に関する相談、住まいの問題(グループホーム等)などの総合窓口となっています。
●都道府県・指定都市の社会福祉協議会
「社会福祉協議会」は、主に権利擁護に関する相談窓口となっています。障がい者本人の判断能力欠如によるトラブルや、日常的な生活において困難が生じる場合に、成年後見人制度の活用などを検討する際の窓口となっています。各種福祉サービスに関する相談や、「日常生活自立支援事業」に関する問合せ等にも対応しています。窓口業務は市町村の社会福祉協議会で実施しています。
●消費生活センター
「消費生活センター」は、商品やサービスに関わる単発のトラブルや軽微なトラブルに対して対応するとともに、悪徳商法への対応やクーリングオフの方法などを紹介してくれます。土日祝日等については、「国民生活センター」でも電話相談を受け付けています。中には、障がい者社員やその保護者が消費者金融などでお金を借りて、その電話が企業にかかってくるということもあります。そんなときには、支援機関と連携をとって対応するようにしましょう。
●障害者就業・生活支援センター
「障害者就業・生活支援センター」は、就業支援全般に対応しています。生活支援員による直接的な支援や、地域資源との連携による支援を行います。
●地域活動支援センター
「地域活動支援センター」は、旧法における精神障害者地域生活支援センターです。主に病院と連携している場合が多く、退院促進や地域移行(生活、住まいなど)を支援しています。「障害者総合支援法」においては「地域生活支援事業」として位置付けられており、すべての障がい者の支援を行うこととされています。
●保健所
「保健所」は、「精神保健福祉センター」との連携のもと、緊急・処遇困難な相談への対応や、通院医療費助成制度等の社会復帰や福祉サービスに関する相談、デイケアの開催、家族支援等を行っています。地域によっては、保健所と福祉事務所が統合されており「保健福祉センター」という名称が使用されているところもあります。
以上、障がい者社員の生活面に関わるトラブル時に活用できる機関を紹介しました。しかし、障がい者社員の職場におけるトラブルは、生活面の問題だけでなく、労働問題に関することもあります。このようなときには、社会保険労務士(社労士)へ相談することをおすすめしています。社会保険労務士へは、年金・健康保険・育児介護・雇用保険・助成金・労災保険・安全衛生・労働関係・がん等傷病・障がい者雇用についての相談ができます。
法律が関係していると弁護士を思い浮かべるかもしれませんが、弁護士への依頼は費用が高額であることも多く、企業での雇用に関する問題を専門としない場合もあります。その点、社会保険労務士は、労働の問題の専門家ですし、企業に入り込む事が多いので、企業の雇用についての状況がわかっているという点からも、より適切なアドバイスをしてくれやすいと言えます。
また、地域の社会保険労務士会では、無料の個別相談を設けているところもあります。例えば、東京都社会保険労務士会では、社労士110番(無料電話相談)を設けており、1回あたり30分程度の相談が無料で受けられます。電話相談では秘密が厳守され、相談者の名前を求められず、匿名での対応が可能です。近年は、障がい者雇用された社員が、労働条件や環境について企業にさまざまな要望をするケースもあるので、対応などで困ったときには相談することも一つの方法です。
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