障がい者の採用、雇用に取り組み始める時に、「職場環境をどのように整えていけばよいのか」ということを考えると思います。障がい者が働きやすい職場にするためには、2つの異なる視点から見ていくことが大切です。それは、物理的な環境を整備することの「ハード面」と、職場で障がい者に対する理解を深め、業務を進めやすいよう配慮を心がけるなどの「ソフト面」の視点です。障がい者が働きやすい職場を作るために、どのような工夫ができるのか考えていきましょう。
障がい者と共に働きやすい職場にするために ハード面とソフト面でそれぞれできること

「ハード面」で職場環境を整備する

まず、物理的な環境を指す「ハード面」の整備から考えていきます。これには、障がい者が職場で業務を行うとき、また移動や休憩をするときなどに使う物理的な環境を整備することが含まれます。例えば、障がい者がつまずかないように段差をなくすことや、床にでているケーブルなどを床下に入れること、誰でも見やすいようにデータや表示の文字を大きくする、色分けして見やすくするなどの工夫が考えられます。このような職場環境の整備は、障がいの有無にかかわらず、誰にとっても働きやすい職場をつくるのに役立ちます。

特定の障がいがある場合には、その障がいを補完するための機器等を使うことによって、働きやすい職場環境を整備することができるでしょう。ハード面の整備を行うことで仕事がしやすくなった事例として、「聴覚障がいで音を聞くことはできるものの、話の内容までは把握しづらかった」という人のケース、「視覚障がいで読み上げソフトなどを活用して仕事をしているものの、情報を正確に受け取りにくかった」という人のケースを見ていきましょう。

事例1:聴覚障がい者のために集音機器を整備

営業業務に従事するA さんは、突発性難聴により両耳が聞こえなくなり、人工内耳を装用しています。音声として聞くことはできるのですが、大人数や雑音の多い場所での会話、また電話での会話に聞き取りづらさが残り、仕事に支障が出ていました。

そのため職場では、A さんが従前どおりの営業業務を行えるように、会議で卓上に置いて使用したり、商談時に胸元につけて使用したりすることが可能な「小型集音装置」と、人工内耳に対応した「音声受信機」を助成金を活用して整備しました。小型集音装置は、社用の携帯電話(助成対象外)と Bluetooth で接続して通話ができるものを選んだことで、営業業務に必須の対面及び電話でのコミュニケーションが可能となり、業務内容の変更なく働き続けられています。

事例2:視覚障がい者のために点字ディスプレイを整備

視覚障がいのあるBさんは、プログラミング開発を行う企業でグループウェアの開発業務を担当しています。パソコンで画面読み上げソフトを使用し開発業務を行っていますが、プログラム設計に必要な細かな文字情報を正確に確認できなかったり、文章の理解に時間がかかったりしてしまうことがありました。

Bさんは点字を使い慣れていたので、仕事でも点字を活用したいと思い、就労支援機器などの貸出制度を利用して「点字ディスプレイ」を試してみました。使い勝手がよく、仕事に活用できることがわかったので、点字ディスプレイを整備しました。正確な情報の速読に加え、作業の効率化も図れるようになり、問題なく業務を実施できるようになりました。

Aさん、Bさんが業務を遂行しやすくなるために導入した機器の購入は、障害者雇用納付金制度に基づく助成金を活用しています。この助成金は、事業主の一時的な経済的負担を軽減し、障がい者の採用や雇用継続の促進を目的としたもので、施設・設備の整備や、適切な雇用管理を図るための特別な措置にかかる費用の一部に対して助成されるものです。

施設や機器等の設備の環境を整えることで、障がい者の業務遂行具合や働きやすさが格段に上がることがあります。これらの環境を整えることで、障がい者が活躍できる可能性があるならば、助成金の活用を検討してみてください。また、障がい者雇用に伴う就労支援機器の導入を検討している場合には、就労支援機器の無償貸出しを利用することができます。これにより、機器を購入する前に、実際の職場における使い勝手を試すことができます。

障害者雇用納付金制度に基づく助成金や、就労支援機器の導入で活用できる無償貸出しについては、文末の参考リンクをご覧ください。

「ソフト面」で職場環境を整備する

働きやすい職場をつくるためには、ハード面とともに、職場での配慮など「ソフト面」の工夫も必要になります。ソフト面の工夫としては、業務への配慮、業務設計の見直し、職場の社員の理解や協力などが含まれます。それぞれ詳しく見ていきます。

(1)業務の配慮

障がい者社員が「仕事ができない」という評価されている場合でも、よくよく話を聞いてみると、障がい者社員への指示の出し方が曖昧だったり、業務指示をする人によって内容が変わっていたりと、業務上の配慮が足りないために仕事ができないと判断されてしまっていることがあります。まず、障がい者社員には本当にその業務を遂行する能力がないのか、それとも指示がうまく伝わっていないのかを確認することは大切です。

伝わりやすい業務指示にするためには、端的に示していきます。業務の優先順位、目標、業務指示、スケジュールなどを明確にし、指示を1つずつ出す、作業手順を分かりやすくしたマニュアルを作成するなどの対応を行なうと、伝わりやすくなります。次のような配慮は、職場でよく行われていることの一部です。

・業務の優先順位を明確にし、業務指示をはっきり示す
・作業手順をマニュアル化する
・スケジュールを具体的に示す
・担当者を決め、業務指示や相談をしやすい体制をつくる

なお、ソフト面の配慮が特に必要とされる障がいの特性と配慮については、過去の連載記事でお伝えしていますので、文末の関連リンクを参考にしてください。

(2)業務設計の見直し

今まで他の社員がおこなっていた業務を、そのまま障がい者社員が行うことが難しいのであれば、必要に応じて業務を分解し、その中のいくつかのプロセスを切り出して障がい者の業務にすることができます。

また、想定していた業務が障がい者社員の適性に合っていないのであれば、ジョブローテーションで他の業務を任せてみることや、障がい者の能力とその職務に必要とされる基準とのバランスを見ながら調整を図ることも有効です。

しかし、これらは障がい者を雇用してから行うというよりも、採用前に実習などを通して、会社と障がい者が互いに確認し合っておくことも大切です。もちろん、実習でうまくいったからといって、必ずしも雇用後に問題が起きないわけではありませんが、このように事前に確認し合うことで、採用後のミスマッチはかなりの割合で防げます。

(3)障がい者雇用に対する社内の理解促進を図る

障がい者が働きやすい職場にするためには、障がい者雇用や障がいに対する理解を示す雰囲気づくりも大事です。一緒に働く上司や同僚はもちろんですが、他部署を含め、全社的に理解を深めてもらうことを心がけていくとよいでしょう。

特に、精神障がいや発達障がいは、見た目からは障がいがあることがわかりにくいことがほとんどです。そのため誤解を受けやすいので、一般的な障がい特性や、業務の説明・指示をする際に留意しておいたほうがよい点などを、社内で事前に伝えておくとよいでしょう。また、直接一緒に働く上司や同僚には、特に詳しく説明しておくことで障がい者と共に働くことをイメージしやすくなり、どのように対応したらよいのかを理解しやすくなります。

例えば、障がい者社員の特性(得意なこと、得意でないこと)、対応上の留意点(例として、指示・注意するときは穏やかに話すこと、一つずつ指示を出すことなど)や、昼休みや休憩時の関わり方などについて伝えておくと、受け入れ側は安心できます。ただし、個人情報については、どこまで、誰に開示するのかは、事前に障がい当事者と確認してから行うようにしてください。

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