障がい者雇用を進めていく際、企業の担当者が頭を悩ませる課題の1つとして、「障がい者雇用について社内でどのように周知し、理解を得ていけばよいか」という点があげられます。障がい者雇用率が不足していると「採用すること」だけを考えてしまいがちですが、受け入れ体制ができていないと、雇用後の職場定着は難しくなります。一緒に働く同僚に、障がい者と働くとはどのようなことか、また障がい者社員個々の障がい特性や接し方について、理解してもらうことが大切です。本稿では、障がい者雇用の職場定着を促すために、どのような対応ができるのかについて解説していきます。
障がい者社員の職場定着のポイントとは? 障がい者雇用への職場理解を深める重要性

現場の“障がい者雇用への理解”を深めることが職場定着のカギに

私が障がい者雇用に関わることになったのは、民間の教育機関で、知的障がいや発達障がいの学生の教育や就労支援に携わったことがきっかけでした。企業へ学生たちと一緒に実習の依頼や採用面接にいくと、対応してくださる企業の多くはとても好意的でした。しかし、就職した学生たちが短期間で退職するという状況を何度も目の当たりにしました。

このような状況が生じてしまった理由の一つとして、「面接で対応してくださった管理職や部門の責任者の方たちは障がい者雇用の必要性を理解しているものの、障がい者社員と一緒に現場で働く社員の方々には、そのような情報がほとんど伝わっていなかった」という実態があげられます。なかには、受け入れ体制が整っていない職場もありました。学生が採用されたあとに様子を見に行くと、その職場で障がい者雇用の担当者となった方が、実際には障がい者社員にどのように接したらよいのか、またどうやって業務を教えたらよいのかわからず、困惑しているのが伝わってくることもありました。また、今までの業務でも手一杯なところ、さらに新たな業務が増え、不機嫌な様子の方もいました。このような状況が見られた職場では、障がい者社員が定着することはほとんどありませんでした。

それでは、障がい者社員の職場定着にはどのようなことが必要なのか、考えていきたいと思います。

障がい者社員がスムーズに職場定着するための4つのポイント

(1)障がい者の業務設計を行い、業務にマッチする人材を採用する

障がい者雇用というと、「どんな配慮が必要なのか」をイメージされることが多いようです。もちろん配慮も大切ですが、それよりも大切なのは、まず「どのような業務を担当してもらうか」を考えることです。そもそも担当する業務が決まっていないと、業務適性に合っているかを判断した採用ができませんし、障がい者雇用の本質は「働く」ことだからです。

業務の切り出しができたところで、業務設計をしていきます。このときに意識していただきたい点は、「障がい者ができるだけ1人で業務を遂行できる仕組みを作る」ということです。他者が確認やチェックを都度行なうプロセスにしてしまうと、担当者が確認作業に時間と手間をとられてしまい、本来の仕事に支障が出ることが多く見られます。

業務設計ができたら、業務にマッチする人材を採用していきます。この時に有効的な方法が「採用前の職場実習(企業実習)」です。企業は事前に職場で働く様子を見て採用を判断することができますし、障がい者側も業務内容や職場の雰囲気、状況などを事前に把握しやすくなります。実習については、過去の連載コラムで解説していますので、下記関連リンクを参考にしてください。

(2)社内の障がい者雇用、障がいに対する理解を深める

多くの場合で、障がい者と一緒に働く社員は一般社員です。管理職やマネジメントに携わる人だけが、障がい者雇用の必要性や障がい者社員の特性などを理解していればよいというものではありません。また、障がい者と現場で一緒に働く人たちの理解や協力がなければ、企業で継続的・安定的に障がい者雇用を行っていくことはできません。そのため、機会があるごとに「組織としての障がい者雇用への取り組み」や、「社会の障がい者雇用の動向」などをすべての社員へ伝えていくことが大切です。

社内で障がい者雇用への理解を深める方法としては、研修が有効です。最近は特に、精神障がい者の雇用が増えています。精神障がいは見た目ではわかりにくいため、周囲の人がその症状や特性を理解しづらいですが、研修などで特徴や配慮についての理解を深めることで、他の社員の不安の軽減につながることも少なくありません。

障がい者雇用や障がいに対する理解を深めるのに役立つ外部研修が、「障害者職業生活相談員研修」や「精神・発達障害者しごとサポーター研修」です。特に、「精神・発達障害者しごとサポーター研修」は、精神障がいや発達障がいに関して正しく理解し、職場における応援者(精神・発達障害者しごとサポーター)となるための講座で、90~120分程度の時間で学ぶことができます。また、講師が職場に出向く出前講座と、労働局やハローワーク等で開催される集合講座の2種類があり、受講しやすくなっています。これらの研修についても、過去の連載コラムで解説していますので、参考にしてください。

(3)障がい者と一緒に働く社員に事前に情報提供しておく

障がい者と現場で一緒に働く社員には、障がい者雇用に関する一般的な情報に加えて、一緒に働く障がい者個人の状況も伝えておくとよいでしょう。企業側では、当事者に配慮して、個人的な情報を伝えないことも多いのですが、職場で一緒に働く人には自らの障がい特性などを理解してほしいと考える当事者も少なくありません。もちろん、「どのような情報を、職場の誰に伝えるのか」について、障がい者社員本人の了承を得ることが必要です。

特に、精神障がい者や発達障がい者は、見た目では障がいが分かりにくいことがほとんどです。そのため、同僚への説明が不十分であると、周囲から「なぜ、特別扱いをしているのか」、「障がいがあるように見えないが、本当に配慮を必要としているのか」と感じさせてしまうことがあります。また、一度このような感情や疑問を抱いてしまうと、当事者と一緒に働くときに気持ちよく仕事ができないことが多く、新たな誤解を生んでしまいやすくなります。同じ情報でも、事前に知っておくのと、問題が発生してから言い訳のように聞くのでは、受け取る側も大きな違いがあります。

(4)障がい者を適切にマネジメントする

障がい者と一緒に働く上で「業務上の注意をしていいのか迷う」といった声を聞くことがあります。どのような社員でも、働く中で必要な注意や業務上の指摘などは当然出てくるでしょう。もちろん、伝え方など、障がいに対する配慮は大切ですが、職場は学校でも福祉施設でもありません。「働く」という前提のもとに、障がい配慮を行なうものであり、そのバランスを考えながら進めることが大切です。

また、障がい者雇用で働きたいと考えている当事者の中には、「自分は障がい者だから配慮してもらえる」という過度な期待をしている人もいます。このような場合には、職場のルールや求められることを改めて教える必要があります。「障がい者だから基準を満たしていなくても仕方ない」、「周囲がフォローすることが当たり前」という雰囲気があると、障がい者社員と一緒に働く社員の負担が増え、不満が出やすくなります。何よりも、働く障がい者にとってもそれが当たり前となってしまい、本人のためになりません。配慮は必要ですが、その前提は「雇用、仕事にプラスするもの」であることを理解し、マネジメントを行ってください。


障がい者のいる職場で示される配慮や工夫の事例を知りたい場合には、独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構が提供している「障害者雇用事例リファレンスサービス」や「障害者雇用職場改善好事例」、厚生労働省から示されている合理的配慮の事例などを参考にすることができます。

なお、準備を整えて採用した場合でも、障がい者社員の中には、急な体調の変化や波があり担当している業務がこなせず、他の人がサポートする必要が出てくる社員もいます。このような状態が続くようであれば、当事者にヒアリングして現場をサポートするなど、対応策を講じていく必要があるでしょう。

障がい者社員が別の現場で働く場合でも、所属は人事部門や管理部門等にし、直接業務に関わらない研修やメンタルのための面談に人事部門等が関わることで、当事者や周囲にどのようなサポートやフォローが必要なのかを把握しやすくなります。課題点を整理して改善につなげることは、今後の障がい者雇用を進める上でも役立ちます。人事部門が障がい者の配属先に対して行うサポートやフォローについては、過去の連載コラムで解説していますので参考にしてください。

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