「カスハラ」の現状と“組織がとるべき姿勢”とは
厚労省の「職場のハラスメントに関する実態調査」で、相談件数が多かった「パワハラ」、「セクハラ」、「カスハラ」のうち、カスハラのみが増加傾向にあります。また、「カスハラにより休職や退職をした人数」についても、無視できない数にのぼることが明らかになっています。2018年には、「カスハラ」に関する裁判も起きています。この裁判では、部下がカスハラを受けているにもかかわらず、上司が適切に対応することなく、部下に対して顧客に謝罪するよう強いたことが問題になりました。裁判の結果としては、労働者が当該上司らに損害賠償を求め、裁判所はこれを認める判決を出しています。このことから、カスハラは企業にとって決して座視できるものではないと言えます。
こうした状況を受け、厚生労働省は2022年2月に、「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」を作成しました。厚生労働省のサイトからダウンロードできますので是非参照してください。
本マニュアルによると、組織にとって一番大事なことは、「トップがカスハラ対策への取り組みの基本姿勢を明確に示すこと」です。「組織として従業員をカスハラから守る」という姿勢が従業員に浸透することによって、従業員は安心して働くことができますし、対応策を現場に落とし込むこともできます。
ここからは、「事前の準備」と「カスハラが疑われたときの対応」に分けて考えていきましょう。
カスハラ対策において重要な事前準備は「体制整備」と「教育・研修」
まず「事前準備」としては、カスハラ対策を推進する組織を決め、そこが中心となって基本方針や対応方法、手順の作成、教育、再発防止策の検討等を取りまとめます。さらに、相談対応体制も作ります。カスハラを受けた従業員は、通常、上司や現場監督者に相談します。相談を受けた上司らは、今まさに起きているカスハラの現状の把握、事実の確認、顧客への対応、その後の従業員のフォロー、必要であれば上層部への報告など、極めて多様な業務を引き受けることになります(下図)。その役割は極めて大きいため、あらかじめマニュアル等を作ったうえで、相談を受ける側の社員には定期的な教育を行う必要があります。
一方、従業員全員に対しても、カスハラに対応できるよう定期的な研修が必要です。この研修内容には、会社からの強いメッセージを必ず含めてください。さらに、業種・業界によって起きやすいカスハラのパターンは違いますので、「カスハラかどうか」の判断基準や、パターン別の対応方法、実際に過去に起きた実例などを含めることが望ましいです。
カスハラが疑われたときの対応のポイントとは?
では、実際に「カスハラが疑われたときの対応」は、どのようにすればよいのでしょうか。まず初めに行う対応として、事実関係を整理し、クレーム等が“正当な主張”か、あるいは“悪質なもの”であるかを検討します。ここでのポイントは2つです。ひとつは、「顧客が『今すぐ答えを出せ』と言ってきても、その場で答えを出さないこと」。もうひとつは、「事実関係については、できるだけ多くの関係者から話を聞き、複数で判断すること」です。これらを実行するにあたっては、場合によっては上層部への報告や、弁護士等外部の機関への相談が必要になることもあります。
次に、極めて重要な対応として、「最前線でカスハラを受けた従業員へのフォロー」があります。カスハラを受けた従業員は、心に傷を負っていることがほとんどです。そのため、上司にはしばらくの間、彼らを定期的に面談等でフォローすることが求められます。
このフォローの場で、もし万が一「死にたい」等の言葉が出てきた場合は、必ず専門機関を受診させてください。また、一見平気そうな場合でも、「しばらく休暇を与える」、「直接の顧客対応をしない部署へ異動させる」といった対応を考えたほうがよい場合もあります。企業で産業医や心理カウンセラーと契約している場合、一度は相談に行くことをお勧めします。
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