適性検査の結果には表れない能力も
今回、お問い合わせいただいた企業では、障がい者雇用は初めてでした。もともと障がい者を採用しようと考えていたわけではなく、フルテレワークの専門職ポジションを募集したところ、身体障がい者の方から応募があったのです。面接の中でわかったことは、応募者が前職でテレワークをした経験があり、その中で体調を崩し、障害者手帳を取得した経緯があるということでした。また、応募者の適性検査の結果からは、「ネガティブな考え方」と「ストレス耐性が低い」という傾向があることが示されていました。テレワークで業務はできるようなので、採用を前向きに考えたいものの、障がいがあることでメンタルに影響が出ているのではないか、少し心配であるとのことでした。
採用選考では、適性検査を実施する企業も多いと思います。しかし、覚えておいていただきたいのは「適性検査だけで全てがわかるわけではない」ということです。適性検査などをすると、その結果がどうしても大きな判断材料になることがあります。この事例では、応募者の検査結果にネガティブ傾向とストレス耐性の低さが出ていたようですが、この傾向と、障がいによる影響が関係しているかどうかは、私たちにはわかりません。障がい者になる前から、そのような傾向が強かった可能性もあります。
このような検査は、もちろん応募者の特性、能力、強み、弱みを示す一つの指標にはなりますが、検査を受ける状況によっても結果に差が出ることがありますし、検査では表れてこない他の良い部分、そうでない部分もあります。特に、応募者が知的障がいの場合などは、知能(IQ)テストだけでは能力を測れないことも多く、実際に実習などで接することでわかることも多くあります。
障がい者の採用時に注意すべきポイント
障がい者の採用選考では、どのような点を見ていくと良いのでしょうか。まず、確認しておくべき点は、応募者の「自身の障がいの受け止め方」です。当事者が障がいをどのように捉えているのか、またどのように感じているのかは、障がい者になった時期や個人の考え方などによってかなり違います。例えば、この事例の企業に応募された方は、初めて障がい者として働くために、自身の障がい受容が十分でなかったり、障がいを持つ以前の仕事内容と現在できること(体力的、精神的に)の折り合いがまだ見えていなかったりする可能性があるかもしれません。また、私が今までに関わった身体障がい(車椅子、脊椎損傷等)の人たちは、青年期に事故などで車椅子になったケースが多く、障がい受容や自己管理はできていましたが、いわゆる一般常識がやや不足している部分があると感じることがありました。青年期の、多くのことを吸収する時期に、病院やリハビリテーション施設で過ごしたことから、一般社会と隔離されたところで生活するという環境や、急に障がい者になるという急激な状況変化に周囲が気を遣いすぎたことなども影響しているように思いました。
障がい者に安定して働いてもらうためには、個人のイメージだけで「応募者は身体障がいだから、身体的な不自由への配慮以外は必要ないだろう……」などと判断しないようにすることが重要です。障がい者求人に応募してきている場合、障がい者として配慮を受けることが必要な場合がほとんどです。応募者がどのようなことに困難を感じているのか、それを企業側にどのように配慮してほしいのかについて、採用時にしっかり話し合っておくことは、後から食い違いを生まないためにも重要なポイントです。企業に求められる障がい者への合理的配慮については、過去の連載記事でも解説していますので参考にしてください。
また、テレワーク雇用を積極的に進めている企業では、すでにテレワークで業務や勤怠管理を行っており、特に問題がなかったので、新たに雇用する際もテレワークで採用しようと考えられるところが多いようです。これはとてもすばらしいことだと思いますが、もともと同じ事業所内で一緒に仕事をして、コミュニケーションが取れていたメンバーがテレワークになるのと、新たに雇用するメンバーがはじめからテレワークで働くことは、状況がかなり異なることを意識しておくべきです。
一定期間、出社勤務で一緒に仕事をしてきたのであれば、メンバー同士で仕事のレベル感や取り組み方を実際に目にして、確認、理解できているところがありますが、入社時からテレワークのメンバーの場合、リモートでの打合せやメール、チャットでのやり取りが中心になります。応募者のスキルと会社の求めるスキルに大きなずれがないかということも含めて、慎重に選考する必要があります。
また、応募者に対し、メンタルや体力など健康面で心配がある場合には、業務内容以外のことに対してもフォローや配慮が必要なことがあります。これはテレワークに限りませんが、雇用する以上は、従業員の健康面に関し、企業側のマネジメントなどへの責任が問われることもあります。特に障がい者雇用の場合、ハローワークや労働局が企業側に求めるものも多くなります。テレワークでの雇用は、いろいろな意味で可能性が広がりますが、障がい者雇用においては特に、個別性が高いことや、雇用管理なども考慮して、慎重に進めていくことをおすすめします。ちなみに、障がい者社員がテレワークを実施している企業も、入社後しばらくは出社してもらう場合が多いです。
障がい者の採用で活用できる助成金とは?
障がい者の採用時に活用できる助成金は、次のようなものがあります。最近では特に、中小企業向けの助成金が手厚く支給されています。●障害者トライアル雇用奨励金
障がい者を試行的に雇い入れた事業主、または、週20時間以上の勤務が難しい精神障がい者・発達障がい者を、週20時間以上の勤務が可能となることを目指して試行雇用する事業主に助成されるものです。
●特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)
「特定求職者雇用開発助成金」は、「高年齢者」、「障がい者」、「母子家庭の母」などの就職困難者を対象としています。ハローワークなど職業紹介事業者の紹介によって、「継続して雇用する労働者(雇用保険の一般被保険者)」として雇い入れる事業主に対して支給されます。障がい者雇用をする企業でよく活用されている助成金の1つです。
●特定求職者雇用開発助成金(発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コース)
ハローワークなどの職業紹介事業者からの紹介により、発達障がいの方、または難治性疾患の方を「常用労働者」として雇い入れる企業に対して助成するものです。発達障がい者や難治性疾患患者の雇用を促進し、職業生活上の課題を把握することを目的としています。
障がい者雇用に関する助成金の多くは「障害者手帳」を持つことが条件となっていますが、この助成金では、「発達障がいまたは難病をもっており、障害者手帳を所持していない人」が対象となっています。もちろん、発達障がいや難病については規定がありますが、「障害者手帳なしで受給できる」という点から、活用を検討できるケースがあります。
また、障がい者の採用、雇用に関する助成金は、地域独自のものもあります。例えば東京都は、「東京都難病・がん患者就業支援奨励金」、「東京都障害者安定雇用奨励金」、「東京都中小企業障害者雇用支援助成金」といった奨励金、助成金を設置しています。このような地方自治体の助成制度も含めて活用を検討するとよいでしょう。
障がい者採用は、「こうしなければならない」というものではなく、企業に合わせた採用方法をとることで、必要な人材を採用することができます。障がい者の働き方とともに、採用方法についても柔軟に考えてみてください。
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