2020年に厚生労働省が実施した「職場のハラスメント」に関する企業調査では、過去3年間に勤務先で「カスタマーハラスメント」を一度以上経験した人の割合が15%と、セクハラよりも割合が高いという結果が出ました。カスタマーハラスメントを受けた従業員は、業務のパフォーマンス低下を招くだけでなく、健康不良に陥る可能性も出てきます。すると、企業としても時間や人材を失いかねず、本来のパフォーマンスを発揮できなくなるリスクがあるのです。この記事では、企業がカスタマーハラスメントから従業員をどのように守ればよいのかについてお伝えいたします。
カスタマーハラスメント経験者が急増!? 従業員を守るために企業が取り組むべきこと

そもそも「カスタマーハラスメント」とは?

「カスタマーハラスメント」(以下、カスハラ)とは、顧客等からの著しい迷惑行為のことです。顧客や取引先からのクレームなどのうち、クレームそのものが不当なものであったり、クレームの言動に妥当性がなかったりするために、労働者の就業環境が害されるものを指します。

ただし、顧客等からのクレームのすべてがカスハラに該当するわけではありません。企業の提供する商品やサービスに瑕疵や過失があれば、企業は誠意を持って対応すべきですし、顧客からの言動に悪質性がなく、社会一般的に受け入れられるものであれば、カスハラには当たりません。

しかし、企業が提供する商品やサービスに瑕疵や過失がない状況で、その商品やサービスの内容と関係がない、もしくは妥当性のないクレームや要求を主張される場合は、カスハラに該当する可能性があります。加えて、商品やサービスに瑕疵や過失があったとしても、殴る・蹴るといった身体的な攻撃や脅迫、土下座の要求、また言動が社会通念上不相当な場合などでも、カスハラに該当する可能性があります。

もし顧客が暴力をふるって従業員を怪我させた場合などには、当然、警察に通報して然るべき処置を取ることが必要となります。カスハラを受けることによって、従業員の心身に悪影響を及ぼし、その後の業務に支障をきたすようなことがあれば、企業にとって大きな損害となるでしょう。

ここからは、企業やそこで働く人材を守るために行うべき措置について、詳しく解説していきます。

従業員をカスハラ被害から守るために企業が取り組むべきこと

厚生労働省が定めるパワーハラスメントの防止に関する指針においては、「カスハラによって従業員の労働環境が害されないように、相談対応の体制構築やカスハラ被害者への配慮などを行うことが望ましい」とされています。2022年4月に「パワハラ防止法」が改正されて以降、パワハラにおいては中小企業にも雇用管理措置が義務化されていますが、カスハラについては、いまだそうした取り組みの強制はありません。

企業がカスハラ対策に取り組む際は、まず事業主がカスハラ対策の基本方針や姿勢を示し、従業員がカスハラを受けた際の相談対応者を決めて、それを周知することが望ましいです。また、カスハラへの対応方針や対応フローをあらかじめ策定し、従業員が落ち着いて対応できるように教育しておきましょう。

具体的には、カスハラの相談があったときに、まず「そのクレームの原因が商品・サービスの瑕疵や過失であるかどうか」を判断します。瑕疵や過失があれば謝罪のための対応に進みますが、瑕疵や過失がないのにも関わらず、顧客が脅迫や土下座の要求などをしてくる場合は、カスハラとして対応していくことになるわけです。また、もし瑕疵や過失があったとしても、顧客側に脅迫や土下座の要求などの社会通念上不相当な行動があれば、カスハラとして対応していくことになります。

企業がカスハラ対応をする上で大切なポイントは、“被害者を1人にしないこと”です。必ず複数名で対応し、状況を共有するなどの対策を講じましょう。また、事態を早期に収拾させるために、状況に応じてクレームを主張している顧客への対応を上司が引き継ぐような体制を構築しておくとよいかもしれません。さらに、起きた事例を特定の部署が吸い上げ、同様の事例に対する対応策を他の従業員へ発信すると、再発防止にもつながります。このように、さまざまな工夫をしながら、企業全体でのカスハラ対応のスキルアップを意識するようにしましょう。
皆さんの会社でも、社内におけるセクハラやマタハラ、パワハラなど、これまでに多くのハラスメント対策に向き合ってきたことと思います。今回解説したカスハラのような、社外からの要因を含んだハラスメント対策について、何をどう始めたらよいか分からない場合は、労務管理のプロである社会保険労務士にご相談されてみてはいかがでしょうか。
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