「動機付け」の意味や理論の種類
「動機付け」とは、人が目的や目標などある要因によって行動を起こし、それを達成するまで保持・持続させる心理的な過程や機能を意味する心理学用語を指す。目標に向けた「心のベクトル」と表現することもあり、モチベーションと言い換えることもできる。「動機付け」や行動を起こさせる動機付け要因を的確に理解し活用すれば、外部からの働きかけによって意欲を高めたり、行動を喚起できたりすると言われている。
●「動機付け」が注目される背景
「動機付け」が注目される背景には、労働人口の減少や働き方改革の推進がある。社員一人ひとりの労働生産性がより一層重視されてきている。これまでは目標管理や行動管理、プロセス管理などの管理手法によって、生産性を高める工夫を図ることが多かったが、もはやそうした管理手法だけでは社員一人ひとりの意欲や成果を引き出すのは難しくなっている。そこで着目されたのが、「動機付け」である。これによって、持続的な成果を導いていったり、生産性を向上したりしていこうという考えが広がっている。●「動機付け」の理論の種類
・外発的動機付け外発的動機付けとは、行動要因が外部からの「評価」、「報酬」、「賞罰」などの人為的な刺激によるものであるという考え方を意味する。行動が手段化している状態であるとも言える。具体的には、「昇給を目指して仕事に励む」、「上司から評価されるように業績をあげる」などが当てはまる。
外発的動機付けは、外からのアプローチが可能なので、例えば福利厚生を充実させたり、職場環境を改善したりすることで、社員の仕事への意欲を高めることが期待できる。
ただ、外発的動機付けは一時的な効果しかなく、人格的な成長には必ずしもつながらないという意見もある。また、報酬は、会社の業績や本人の貢献度によるので必ずしも期待値に届かないケースもあり得る。他社や同僚よりも低いとなると効果が薄くなってしまう。
・内発的動機付け
内発的動機付けとは、行動要因が人の内面から湧き起こる仕事への興味・関心や意欲によるものであるという考え方を言う。個人の価値観や性格などで要因は異なってくるが、一般的には「充実感」、「達成感」、「責任感」、「自尊心」などが要因になり得るとされている。具体的には、「仕事が熱中すると時間が経つのを忘れてしまう」、「期初に決めた自分の目標をやり遂げたい」などがあてはまる。
内発的動機付けのメリットは、仕事が行動の目的になっていて、難しい課題でも前向きに取り組めることだ。金銭的な報酬による動機付けよりも、仕事への満足度や生産性が高いと言われている。
その半面、デメリットもある。「自尊心」にもとづいた「動機付け」の場合、成果が伴わないと維持するのが難しく、仕事に対するコミットメントが低下する可能性があり得る。また、本人が仕事への興味や関心といった動機付け要因を喪失してしまうと、対処しにくい。
・自己決定理論
自己決定理論は、何に取り組むかを自ら決定し、自分の意志で行動しているという実感を持つことが、内発的なモチベーションを高めるという理論だ。米国の心理学者、エドワード・デシとリチャード・ライアンが提唱し、多数の心理学者から支持されている。
また、自己決定理論では、自発的に行動を続けるために3つの欲求を満たすことを重視している。具体的には、自らの責任で行動を決定し、主体的に動きたい「自律性の欲求」、行動をやり遂げる自信や、自己の能力を発揮する機会を持ちたいという「有能性の欲求」、他人と互いに尊重しあえる関係性をつくり、友好的な連帯感を持ちたい「関係性の欲求」だ。これらを持てた時に、内発的動機を得やすいとされている。
・二要因理論
二要因理論とは、「動機付け」を動機付け要因と衛生要因に分ける理論だ。米国の臨床心理学者、フレデリック・ハーズバーグが提唱した。動機付け要因は、仕事において意欲の出る要因、満足感をもたらす要因を指しており、具体的には成果や達成、評価、責任、成長の機会などがある。これに対して、衛生要因は仕事において意欲を低下させる要因、不満足度をもたらす要因を言う。職場の人間関係や会社の方針、職場環境、労働条件などがあてはまる。
・5段階欲求説
5段階欲求説とは、心理学者アブラハム・マズローが唱えたモチベーション理論だ。「人間は自己実現に向けて成長し続ける」との前提のもと、人間には5段階の欲求があるとしている。最初の欲求が満たされると次の欲求へ関心が移り行動が引き起こされ、それが満たされると、さらに次段階の欲求へと、同じように関心や行動が繰り返されていくと説いている。
●コーチングとの違い
動機付けと間違われやすい用語に「コーチング」がある。コーチングは、「答えは自身の中にある」という内向的な考えに基づき、自らをサポートしてくれる人との信頼関係を軸としたコミュニケーションを通じて展開していく。本人が設定した目標を成し遂げるために何をすべきかを自ら認識し、自発的な行動を支援する取り組みだ。行動を促すという点に関して、コーチングと「動機付け」は共通している。ただし、行動を促すためのアプローチ方法が異なる。「動機付け」は、マネジメントや採用面接などで行われることが多いが、コーチングは上司と部下とのより深いコミュニケーションや、1on1ミーティングなどを通じて行われるのが大半だ。
おさえておきたい「動機付け」を行う上でのポイントとは
次に、「動機付け」を行う上でのポイントについて、説明していこう。●相手に合わせた動機付けを行う
何が「動機付け」につながるかは、人によって異なる。なかには、さまざまな要因が組み合わされてモチベーションに影響を与えるケースもあり得る。画一的に「動機付け」を行うのではなく、相手のモチベーションや興味・関心、成長意欲につながるものは何なのかを把握し、それぞれに合わせて「動機付け」していくことが重要となる。●衛生要因の解消を図る
「動機付け」を効果的に行うためには、衛生要因を取り除くことも重要と言える。「上司の仕事の進め方に納得できない」、「職場の人間関係が上手くいっていない」、「給与がもう何年もアップしていない」など社員は不満を持っているものだ。それらを洗い出して、できるだけ衛生要因の解消をしていくようにしたい。並行して、満足度を上げるための条件も整えて、「動機付け」の要因を増やしていくことがポイントとなる。●動機付けの慣れに注意する
外発的動機付けで起こり得る事象だが、得られる「評価」や「報酬」に慣れてしまい、「動機付け」のための効果が下がってしまう場合がある。当初はその「動機付け」でモチベーション高く行動してくれていたとしても、効果に少しでも疑問を感じたならば、全く新しい「動機付け」を行うのか、似たようなもので「動機付け」できるのか、本人と話をしながら決めていく必要がある。●業務を任される際はゴールを明確にする
業務を任された際に、どこがゴールなのかが見えないと、やる気を出すのは難しいと言わざるを得ない。目指すべき成果や状況が把握できなければ、仕事に対する興味や関心が湧いて来ない。また、先が見えない状況だと、そもそも業務に取り組むパワーも生まれることはないと言って良いだろう。●高すぎる目標は設定しないようにする
高すぎる目標も良くない。目標に挑む前に「達成は無理だ」と諦めてしまう可能性が高く、やる気を損なってしまうからだ。本来引き出したかった感情が封印されたままになり、「動機付け」は上手くいかなくなる。マネジメントや採用面接における「動機付け」の活用法
最後は、マネジメントや採用面接における「動機付け」の活用法についても説明したい。【マネジメント】
●部下の達成動機を把握する達成動機とは、目標を何としてでも成し遂げようとする気持ちを言う。部下によって達成動機は違ってくるので、一人ひとり的確に把握し、それに沿って業務を振り分けることを心がけたい。部下の達成動機を把握できれば、内発的動機付けがしやすくなる。難易度の高い目標であったとしても、意欲を持って取り組んでいけるので、目標が達成しやすくなり、部下も成長していけるだろう。
●職務の意義付けを行う
部下に何らかの職務を任せる際に、その職務の重要性や意義・価値を説明することも重要である。部下もそれらを理解できれば、意欲が自ずと高まり、内発的動機付けにもつながるからだ。
●リアルタイムにフィードバックする
部下にリアルタイムでフィードバックを行うことで、承認欲求を満たし、やる気を引き出すことができる。特に、部下が良い成果を出した場合には、その活躍ぶりを社内外に積極的にアピールしていく「ディスクローズ」が重要となる。「動機付け」に確実につながる行動の一つとされている。
●内発的動機付けを引き出す適切な目標を設定する
部下の内発的動機付けを引き出す目標を設定する際には、具体的に目指す数値や期限を設けることも心がけたい。また、成長ステージに合わせて助言やアドバイスを行い、気づきを与えることも大切になってくる。新たなやる気を生み出し、次の目標設定へと導いていけるからだ。
●部下の承認欲求を意識する
上司が、日頃から部下一人ひとりの働きぶりや価値観をよく把握していて、それぞれに適した理解や承認をすることも大切となる。部下としては、上司に認めてもらいたいという欲求が強いからだ。それを満たしてあげ、次なる欲求へと段階を踏んでいけるような内発的動機付けを心がけたい。
【採用面接】
●選考プロセスに動機付けを取り入れる新卒・中途採用の選考プロセスにおいて、入社への「動機付け」を取り入れるのも有効な施策だ。内定辞退の防止などにもつながるとされているからだ。候補者に「動機付け」を行うためには、面接や書類などに基づいて「志望理由」や「仕事や会社選びにおいて重視するもの(意思決定の大きな要素)」などを把握し、「動機付け」の要因がどこにあるかを見極めていくことが欠かせない。その上で、外発的動機付けと内発的動機付け、両方の視点から必要な情報を提供し、「動機付け」を行うようにしたい。それらが、本人の入社理由や仕事のやりがいなどにつながれば、選考辞退や内定辞退を防止することができるはずだ。
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