「事業戦略」の意味と経営戦略との違い
「事業戦略」とは、企業が事業単位での目的・目標を達成するための意思決定を意味する。具体的には、下記のような基本的な方針や計画が盛り込まれている。・ヒト・モノ・カネといった経営資源をいかに効率的かつ効果的に活用していくか
・上記をどのように蓄積または分配するか
・市場でいかに競争していくか
・組織をどうマネジメントするか など
「事業戦略」はあくまで事業ごとに定められるものであり、企業全体としての戦略ではない。また、「事業戦略」を策定することで、各部門の意思決定が企業全体の方向性に合致するだけでなく、異なる部門同士が連携しやすくなる。
●「事業戦略」の役割や重要性
「事業戦略」は、企業として必要な数値目標を達成する現実的な道筋である。道筋がないまま、事業を推し進めていってもスピーディーな成長は望めない。それだけに、市場環境や競合他社の動向、消費者のニーズなどさまざまな観点から予測し、限られた経営資源をどう活かしていくかを事前に考慮しなければならない。「事業戦略」は、そうした重要な機能を担っていると言える。●経営戦略や機能別戦略との違い
企業経営における戦略は、「事業戦略」だけではない。経営戦略や機能別戦略もある。違いを見ていくと、経営戦略とは、企業がビジョンや企業全体としての目標を実現するために策定する戦略を指す。その点では、事業ごとに策定される「事業戦略」とは明らかに位置づけが違っている。また、機能別戦略とは営業や研究開発、商品企画、流通などの機能組織ごとに定める戦略や方向性を意味する。「事業戦略」をうまく進めるためのポイントとは
「事業戦略」をうまく進めるためにはいくつかのポイントがある。それぞれについて取り上げてみよう。●差別化による競合優位性の確立
まずは、競合他社との差別化を行い、競争優位性を確立することである。どれほど優れた商品・サービスでも、消費者が欲しいと思えるものでなければいけない。競合他社がすでに手掛けていたとしたら、付加価値は生まれない。あくまでも、他社にはない自社独自の価値を提供していく必要がある。差別化のポイントは商品の性能やサービスの丁寧さ、価格の安さ、アクセシビリティ、メンテナンス性などさまざまだ。プロモーションや、製品を消費者が購入できる場所に届けるための配荷も重要となる。その中で、競合他社に対して優位性を確立できる価値がどこにあるのかを明確にしていくことがポイントとなる。
●自社のリソースや組織力の把握と確保
自社内部のリソースや組織力を的確に把握・確保することも重要なポイントである。策定した戦略に対して必要なリソースや能力が、自社になければ何の意味もない。また、会社全体で見るとリソースが十分であったとしても、事業部に必要なだけ分配されていなければ戦略を実行することはできないと言える。自社にどれほどのリソースや能力が存在するかを確認・測定するために用いられる指標が「QDC」である。これは、「品質(Quality)」「納期(Delivery)」「費用(Cost)」の3つを指す。それぞれの要素について問題なく実現できるかを検討し、難しければ戦略を再構築するようにしたい。
●経営戦略とのバランスを取る
「事業戦略」は、経営戦略を実現するために事業部レベルで策定した方針である。よって、「事業戦略」が経営戦略と乖離してはならない。リソースの配分などに関して、経営層と事業部の間に摩擦が生じてしまうからだ。あくまでも、「事業戦略」を策定する際には、それが経営戦略と整合しているか、バランスが取れているかを注意する必要がある。●人材の能力を最大限にまで引き出す
優れた「事業戦略」を策定したとしても、それを実行する人材が能力を発揮できないようでは絵に描いた餅となってしまう。よって、「事業戦略」を遂行する段階では、人員が「事業戦略」を適切に実行できるよう配慮する必要がある。そのためにも、事業戦略を社員に浸透するようしっかりと周知徹底するようにしなければいけない。現場社員が戦略の価値を理解できていないと具体的な行動に結びつきにくく、意図した結果にならないからだ。あわせて、経営者と現場社員に意識のズレがおこらないよう、「事業戦略」やそのバックボーンとなる理念について現場社員に理解を促し、行動の方針を共有することも重要になってくる。さらには、適材適所な人材配置も欠かせない。現場社員の持つ能力やスキル、経験を踏まえ、十分に力を発揮できる配置を考えるようにしていきたい。
「事業戦略」の立案に役立つフレームワーク
「事業戦略」の立案にあたってはさまざまなフレームワークが用いられる。代表的なものを取り上げてみたい。●3C分析
3C分析とは、「Company(自社)」「Customer(市場・顧客)」「Competitor(競合)」の3つの頭文字を取ったマーケティング環境分析のフレームワークである。それぞれの「C」を分析することで、自社がどんなサービスを提供できるのか、顧客が何を求めているのか、競合他社はどんな展開をしているのかなどを含め、マーケティング環境を漏れなく把握することができる。●SWOT分析
SWOT分析とは、自社や市場の状況を把握するためのフレームワークである。「Strength(強み)」「Weakness(弱み)」「Opportunity(機会)」「Threat(脅威)」、4つの要素の頭文字をつなげている。自社を取り巻く外部環境と、内部環境を分析することで、戦略策定やマーケティングの意思決定、経営資源の最適化などを行うことが可能となる。●PEST分析
PEST分析とは、「Politics(政治)」「Economy(経済)」「Society(社会)」「Technology(技術)」という4つの環境要因を洗い出して、自社を取り巻くマクロ環境分析を行うマーケティングフレームワークである。経営学者のフィリップ・コトラー教授が提唱した。自社がその市場に参入した際に、上記の要因からどのような影響を受けるのかを検討し、参入可否を判断したり具体的な戦略を策定したりする。●ファイブフォース分析
ファイブフォース分析は、ハーバード大学のマイケル E. ポーター教授が提唱した。市場における企業の影響力を把握するためのフレームワークである。自社に影響を与える競争要因を5つに分け、それぞれを知ることで、自社が取るべき戦略の立案に役立てることができる。5つの競争要因とは以下の通りである。・既存企業同士の競争
・買い手の交渉力
・売り手の交渉力
・新規参入者の脅威
・代替品や代替サービスの脅威
●STP分析
STP分析とは、「Segmentation(セグメンテーション)」「Targeting(ターゲティング)」「Positioning(ポジショニング)」の順番に分析するフレームワークである。セグメンテーションでは市場を、性別や年齢、居住地などの要素によって分け、消費者をいくつかのセグメントに分類する。その分析結果に基づき、狙うべき消費者の層を設定するのがターゲティング。そして、ポジショニングで市場における自社の立ち位置を決めていく。●マーケティングミックス(4P)
事業戦略を具体的な商品やサービスに落とし込むフレームワークとなるのが、マーケティングミックス(4P)だ。具体的には、「Price(価格)」「Promotion(プロモーション)」「Product(製品・サービス)」「Position(流通・チャネル)」の4つを検討し戦略を実行レベルに落とし込んでいく。●バリューチェーン分析
バリューチェーンとは、原材料の調達から商品が顧客に届くまでの企業活動の繋がり、価値の連鎖を意味する。従って、バリューチェーン分析とは、この「価値連鎖」を分析するフレームワークを指す。バリューチェーンを切り分けて分析することによって、各プロセスにおいて自社がどれほどの価値を提供できているかが把握できる。「事業戦略」の企業事例
最後に、「事業戦略」に関するオリンパスの企業事例を紹介したい。オリンパス株式会社は、日本を代表する総合光学メーカーとして知られている。光学・精密機器製造分野で優れた技術力を有しており、内視鏡カメラ、デジタルカメラなどの事業領域に多角化展開して収益基盤を強化してきている。オリンパスの「事業戦略」の中核は、そうした高度な技術力にある。それを最大限に活かすことで、他社が真似できないほどの高品質な製造機器・ソリューションを提供し、競争優位性を確立している。特に、医療分野においては継続的に先行投資しており、人材の育成に余念がない。盤石なリソースを整えることで、新たな市場機会を的確に掴んできた点は同社ならではの強みと言って良いだろう。
一般的に、医療分野は収益性が高いこともあって、多くの電機・専門メーカーが参入を意図している。しかも、かなり高度な技術力が求められるので、開発競争は自ずと劇化する傾向がある。その点、オリンパスは日本国内に留まらず、米国をも含むグローバルな研究開発体制をいち早く構築し、経営資源の強化に積極的に取り組んでいる。
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