令和4年の「障害者雇用納付金」の申告申請期間(4月1日~5月16日)が近づいてきました。今回は、「障害者雇用納付金制度」について、申告の対象、申告申請の流れと申告期間、昨年度との変更点などポイントを解説します。同制度や「障害者雇用調整金」等の申請手続きの詳細は、「独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構」のホームページに掲載されていますが、かなりのボリュームがありますので、概要を押さえてから取り組むことをおすすめします。
令和4年度「障害者雇用納付金」申告申請の注意点は? 申告申請の概要や流れ、昨年度との変更点などを解説

「障害者雇用納付金制度」とは

「障害者雇用促進法」では「障害者雇用率制度」が定められています。そのため従業員が一定数以上の規模の事業主は、「常時雇用している従業員の2.3%」にあたる人数の障がい者を雇用する必要があります。

一方で、障がい者の雇用には、作業施設・設備の改善や、特別な雇用管理などが必要となる場合が多く、障がいのない人の雇用に比べて一定の経済的負担を伴うことから、「障害者雇用率制度」に基づく雇用義務を守っている企業とそうでない企業とでは、経済的負担のアンバランスが生じてしまいます。そのため、障がい者雇用に関する事業主が果たしていくべき社会連帯責任の理念から、この経済的負担を調整するとともに、障がい者雇用の促進と安定を図るため、事業主の共同拠出による「障害者雇用納付金制度」が設けられています。

障がい者雇用義務のある企業が「法定障害者雇用率」を達成していない場合、法定人数に対し不足している障がい者の数1人あたり月50,000円の「障害者雇用納付金」が徴収されます。この納付金を財源として、「障害者雇用調整金」、「障害者雇用報奨金」、「在宅就業障害者特例調整金」、「在宅就業障害者特例報奨金」、「特例給付金」、および各種助成金の支給が行われています。
障害者雇用納付金制度の概要

出典:令和4年度障害者雇用納付金制度 記入説明書(独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構)

「障害者雇用納付金制度」申告の概要

「障害者雇用納付金」の申告対象

障害者雇用納付金の申告義務のある事業主は、「短時間以外の常用雇用労働者(週所定労働時間30時間以上)」および「短時間労働者(週所定労働時間20時間以上30時間未満:1人を0.5カウント)」の総数が100人を超えるすべての事業主です。各月の労働者を把握する「算定基礎日」において、雇用している常用雇用労働者と短時間労働者の総数が100人を超える月が連続、または断続して5ヵ月以上ある場合は、対象事業主となります。

令和4年の申告申請の適用期間は「平成3年4月1日~令和4年3月31日」までです。「法定障害者雇用率」を達成していて、納付金が0円となる事業者も、「障害者雇用納付金申告書」の提出が必要です。
障害者雇用納付金の申告義務について

出典:令和4年度障害者雇用納付金制度 記入説明書(独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構)

「障害者雇用納付金」申告申請書提出の流れと申告期間


「障害者雇用納付金」の申告の流れを見ていきましょう。

STEP1:「常用雇用労働者」の総数の把握
まず、自社の「常用雇用労働者数」(①週所定労働時間30時間以上の労働者数+②週所定労働時間20時間以上30時間未満の労働者数×0.5)を把握します。常用雇用労働者総数が100人超となる月が連続または断続して5ヵ月以上ある場合、「障害者雇用納付金」申告の該当企業となります。

STEP2:雇用障がい者の総数の把握
自社が「障害者雇用納付金」申告の該当企業である場合、各月ごとの「雇用障がい者数の総数」を把握します。障がい者の雇用義務が軽減される「除外率制度」の適用を受けている事業主は、ハローワークに提出している「障害者雇用状況報告書」の除外率を「障害者雇用納付金」申告申請書に記入します。

STEP3:申告申請書類の作成
「障害者雇用納付金」申告申請書類を作成します。令和4年度は、「申告申請書作成支援シート(マクロ機能付き)」および申告申請様式が更新されています。様式外の書類については、再提出する必要があるので注意してください。

STEP4:申告申請書類の提出
「障害者雇用納付金」申請書類が作成できたら、締切日(令和4年度は同年5月16日)までに提出します。提出方法は、「独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構」ホームページから電子申告申請、または、本社か「障害者雇用状況報告」を提出したハローワークが所在する各都道府県申告申請窓口への持参・郵送となります。

STEP5:「障害者雇用納付金」の納付
自社が「障害者雇用納付金」徴収の対象となっている場合には、期日までに納付します。事前に各都道府県申告申請窓口から送付される指定の納付書を使用した、金融機関窓口での納付か、ペイジー(インターネットバンキング)による納付を選べます。納付書が手元に届いていない場合は、各都道府県の申告窓口に連絡してください。

STEP6:「障害者雇用納付金」他、支給金の支給
令和4年度の「障害者雇用納付金」等の申告申請期間/納付期限・支給時期は下図のとおりです。
令和4年度障害者雇用納付金等の申告申請期間

出典:令和4年度障害者雇用納付金制度 記入説明書(独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構)

令和4年度の申告申請の留意点、昨年からの変更点

令和4年度「障害者雇用納付金」等の申告申請の留意点は、次のことがあげられます。

1.「障害者雇用納付金制度」における算定特例の適用時期について
納付金の申告期間内に「算定特例」を申請・認定された場合の、特例申請した前年の4月1日に遡って「算定特例」を適用する取り扱いは、令和4年度申告申請から廃止されています。令和4年度以降の申告申請にかかる「算定特例」は、申請した年度の4月1日から適用されます。

2.法人番号の記入または、所得税確定申告書の写し等の提出
法人である事業主は、申告申請書に法人番号を記入します。今回初めて申告申請を行う個人事業主(法人番号を持たない事業主を含む)は、「所得税確定申告書(白色申告書または、青色申告書)」の写し、または開業届の写しの提出が必要になります。

3.「申告申請書作成支援シート」の更新および申告申請様式の改正
独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構による「申告申請書作成支援シート」が、Ver.10からVer.11に更新されており、申告申請書の様式が改正されています。令和4年度の申請には、「申告申請書作成支援シート(Ver.11)」か、改正版の申告申請様式を使う必要があり、これらと異なる場合は、再提出となります。

4.「常用雇用労働者総数が300人以下」の支給申請事業主は、添付書類が必要
常用雇用労働者総数が300人以下の支給金申請事業主は、雇用障がい者の障がいの種類・程度を明らかにする書類(障害者手帳の写し等)を提出する必要があります。ただし、平成26年度以降、支給金の申請があり、障がいの種類・程度を明らかにする書類を提出している場合には必要ありません。

令和4年度申告申請で、添付書類の提出が必要となる事業主は下記となります。
●平成26年度以降、初めて支給金を申請する事業主
●平成26年度以降に支給金を申請し、雇用障がい者の本書類を提出している事業主で、令和3年4月から令和4年3月までの期間に、次の該当する障がい者がいる場合
a.新たに雇用した障がい者
b.新たに障がい者となった労働者
c.障がいの種類、等級・程度の変更、確認方法の変更のあった障がい者
d.精神障害者保健福祉手帳の有効期限が経過した障がい者

新型コロナウイルス感染症に関する影響について

そのほか、新型コロナウイルス感染症拡大に関する「障害者雇用納付金」申告申請の注意点をいくつかご紹介します。

Q:新型コロナに感染した障がい者が休業し、賃金も休業手当も払っていない場合、実労働時間にどのように計上すればよいか。
A:新型コロナに感染した労働者は、感染症法に基づき、都道府県知事から就業制限や入院の勧告等が行われます。そのため新型コロナに感染した障がい者の休業期間については、賃金または傷病手当金、休業手当等の支給の有無を問わず、所定及び実労働時間に計上します。

Q:新型コロナに感染した人の濃厚接触者となった障がい者を休業させ、賃金も休業手当も払っていない場合、実労働時間にはどのように計上すればよいか。
A:保健所から濃厚接触者と言われた場合には、新型コロナ感染者と同じ扱いになります。保健所から言われていない場合で、賃金も休業手当も払っていない場合には、実労働時間には含めることができません。

Q:障がい者が感染を恐れて自主的に休んだが、休暇制度がなく、賃金も休業手当も払っていない場合は、実労働時間をどのように計上すればよいか。
A:「実労働時間に含まれること」に該当する休暇制度を取得していない場合には、「傷病欠勤以外の欠勤」の取り扱いとなります。

Q:コロナ禍により休業していた期間について、賃金補償として給与の6割を支払っているが、「雇用調整助成金」の支給は受けていない場合、実労働時間にどのように計上したらよいか。
A:「雇用調整助成金」の支給の有無に関わらず、休業中に雇用障がい者に対して賃金の金額、または休業手当や労使協定に基づき賃金の一部を支払った期間については、実労働時間に計上します。休業した理由がコロナによるものではない場合も同様になります。1日の労働時間の一部を休業した場合、その休業した時間に対する賃金補償等が行われていれば、実労働時間に含めることができます。※令和3年度の申告申請と取り扱いが変更されていますので、該当する場合は、参考リンク「令和4年度障害者雇用納付金制度申告申請書記入説明書」(独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構)で確認してください。

Q:緊急事態宣言の発令後、勤務時間を短縮している場合、短時間労働者になるのか。
A:雇用障がい者を除く常用労働者については、所定労働時間により雇用区分を判断するため、就業規則や雇用契約書等により、その方が通常の週に勤務すべきとされている時間で判断します。雇用障がい者については、所定労働時間と実労働時間との相違などを確認し判断します。詳細については、参考リンク「令和4年度障害者雇用納付金制度申告申請書記入説明書」(独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構)で確認してください。

Q:コロナ禍のため、雇用契約の変更は行わず、労使協定により労使合意のもと一定期間所定労働時間を短縮している。この場合、週所定労働時間は、短縮後の時間になるのか。
A:労使協定により短縮したあとの時間を週所定労働時間とします。「週所定労働時間」は、就業規則、雇用契約書等により、その方が通常の週に勤務すべきとされている時間をいい、労使協定により勤務すべきこととされた時間もこれに含まれます。ただし、対象になる労使協定は「所定労働時間数の短縮」に関する労使協定に限ります。「休業(短時間休業を含む)」に関する労使協定は、所定労働時間の短縮に関する労使協定には該当しません。

Q:新型コロナウイルス感染症によって休業になり、経営が厳しい場合、納付金に免除や減免の制度はあるのか。
A:免除や減免の制度はありません。


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